マイクロソフトが、ドローンのAIをトレーニングするためのシミュレーション環境「Project AirSim」を発表しました。あらかじめバーチャル空間で飛行テストを繰り返すことで、実際に初飛行を迎える前にドローンのAIを鍛えておくことが可能になります。
Project AirSimはマイクロソフトのクラウドサービスAzure上で動作し、自律飛行するドローンの開発者はリアルな環境、AIモデル、ディープラーニングを駆使して数百万回に相当する飛行テストを短時間で実行することが可能です。
ただ飛行テストを重ねるだけではなく、シミュレーションでは現実世界における様々なパラメーターの変化、たとえば雨だけでなく、雪やみぞれ混じりの天候や、強風や高温がバッテリーの寿命にどのように影響するかを調べ、対処すべき方法をAIに学習させることができます。
また、離陸から巡航、着陸までの飛行の各フェーズで実行するアクションについてAIモデルをトレーニングするための大量のデータがAzure上で生成され、シミュレーションに用いられます。
さらに、多様な都市と農村の風景を表すシミュレートされた3D環境のライブラリや、障害物の検出と回避、正確な着陸などの高度な事前トレーニング済みAIモデルの提供も行い、ディープラーニングに関する詳しい知識を要せずにドローンAIの訓練ができるとしています。
たとえば、ドローンによる荷物の空中配送、送電線や風力発電設備といった空中インフラの点検作業から、アーバンエアモビリティと称される新しい都市交通システムまで、さまざまな用途に合わせてAIを最適に事前訓練できるとのこと。
マイクロソフトのテクノロジー&リサーチビジネスインキュベーション担当VP、Gurdeep Pall氏は「ドローンの自律航行システムはラスト1マイルの配送業務から、1000マイル離れた場所から停電した送電網の検査を行うなどの空中における作業シナリオを実行可能とし、多くの産業に変革をもたらすだろう」としつつ「しかし、その前にこれらのシステムを安全にトレーニングする必要がある」と述べ、「Project AirSimは、ビットの世界とアトムの世界を橋渡しする重要なツールであり、企業がなんらかのソリューションを構築し試験し、ブラッシュアップして現実の世界に持ち込むための『産業メタバース』の力を示すものだ」としました。
風力タービンやその他の重要なインフラストラクチャを検査するドローンの開発、提供を行う企業Airtonomyは、Project AirSimの早期アクセスプログラムを利用して、実在の風力発電設備のデジタルレプリカを点検するドローンのシミュレーションを実施しました。その結果、顧客が重要なインフラストラクチャのリモート検査を、迅速かつ安全にできるようになったと述べています。
一方、ベル・ヘリコプターは、ドローンが自律的に着陸する際の問題解決にProject AirSimを役立てることを考えました。ドローンやヘリコプターにとって、着陸は非常に難しい作業です。ランディングパッドが雪や落ち葉で覆われていたり、水たまりのようになっていた場合AIがそれをどのように認識するのか、ローターが巻き起こす風で埃が舞い上がり視界が失われたらどうなるか、といったいくつもの「もしも」のケースを想定してAIを訓練するのにProject AirSimが活用できたとのことです。
なお、Pall氏は民間航空規制当局と協力して、Project AirSimがドローンやその他の自律飛行システムの認証業務に役立てることも考えているとしています。Project AirSimは7月19日より、関心ある顧客に対して限定プレビューとして提供するとのことです。
Source:Microsoft