X (旧Twitter) が、独自絵文字セットの「ピストル」を一般的な水鉄砲から、実銃のグラフィックに置き換えました。
現在、モバイルアプリでは各社それぞれの絵文字セットによりおおむね明るい色の水鉄砲やオモチャの銃として表示されますが、ウェブのx.com では黒灰の銃身に茶のグリップを備えた拳銃のグリフになっています。
ピストルの絵文字は2016年にAppleがiOSで水鉄砲に書き換えてから各社が追従し、2010年代末にはプラスチックの玩具を思わせる明るい色で、実際の拳銃とは離れたデザインが一般的になっていました。
Twitter の担当エンジニアによれば、この変更は「あるべき姿の復旧」。独自の絵文字グリフを実銃に戻すことで、いわばAppleに取り上げられた武装権を回復したといえます。
絵文字、もしくは汎用規格のUnicodeとしての Emoji にはテキストによる抽象的な定義と参考の画像しかなく、それぞれの絵文字を実際にどんな画像として表示するか(グリフ)は各社に委ねられています。
同じ絵文字でも形や色が違ったり、表情が違うことがあるのはこのため。たとえばGoogleはAndroidの絵文字セットで一時期、顔文字についていわゆる丸いスマイリーではなく、ゼリーのようなプリンのようなBlob Emoji を採用していました。
■ Appleが 2016年に「水鉄砲」へ変更、各社追従
特にこの「Pistol」、最近は「Water Pistol」の絵文字(U+1F52B)にはややこしい歴史があり、AppleもiOS 9までは一般的な拳銃のデザインを採用していました。
しかしUnicode規格の策定団体 Unicode コンソーシアムと密接に協力するAppleは、2016年のiOS 10で性別や肌の色といった多様性を反映できる仕組みを導入すると同時に、「ピストル」に対応する画像を突然として緑の水鉄砲に変更。銃口の向きも右向きから左向きになりました。
絵文字の変更は過去のテキスト表示にも遡及的に適用されるため、たとえば絵文字の銃を対象に向けて暴力を扇動するような発言は、少なくともApple端末上の見た目のうえでは水鉄砲を向けているだけ(?)、かつ相手ではなく自分に向けることになり、ある意味で強制的に武装解除したことになります。
プラットフォームを支配する立場だからといってそんなことが許されるのか?言葉を取り上げて思考を操るニュースピークか??など当時も様々な議論がありましたが、Googleやマイクロソフト、Facebook、Twitter含め各社が追従したことで、過去6~8年ほどは実銃の絵文字は出そうとしても出ない、水鉄砲しか表示できない状態が定着していた経緯があります。
この変更について、特にX / Twitter社としての正式な発表はありません(正確に言えば、イーロン・マスク氏は会社について説明する広報部門自体を廃止したため、関係者のツイート等やウェブサイトへの掲載等を除き、正式な発表という概念がありません)。
しかしXのエンジニア @yacineMTB 氏は自身のXで、銃には美的価値がある、絵文字も本物の銃を取り戻すべきだ、「オーウェルも水鉄砲で警告していた」(例え話)といった投稿や会話を経て、絵文字を「修正」することを予告していました。
いまのところ、この変更が反映されるのはウェブの x.com のみ。スマートフォンアプリ等では各社の絵文字セットを使うため、相変わらず水鉄砲のまま表示されます。
余談。Appleが反発を受けつつピストルを水鉄砲に変更した理由については、銃の絵文字が恫喝や暴力の扇動に使われる場合が多かったことがあります。
文字を書き換えること自体が暴力的という批判はもっともですが、一方で現代では様々なサービスで、暴力や差別、犯罪の示唆、ヘイトに関わる単語をフィルタリングすることも、是非の評価はともかく一般的に行われています (嫌がらせや犯罪の発生を抑止しつつ、特にコミュニケーションプラットフォームでは管理コストを減らしたい企業側の思惑もあります)。
さらに余談ながら、「ピストル」は各社とも必ずしも現実の拳銃を描いてきたわけではありません。たとえばマイクロソフトは一時期、個性を発揮して差別化したかったのか、SF映画やオモチャのような光線銃のグリフを採用していました。これでは脅迫にも迫力が出ません。
これをもって、たしかにこれも「光線ピストル」ではある、実弾を発射する現用の拳銃であるという定義はUnicodeにもない、よってAppleの水鉄砲(Water Pistol)もプラットフォームの裁量範囲と強弁できないこともありませんが、Appleの意図としては、おおむね米国の国内政治にもの申して、銃社会と暴力に No!的な、自社ユーザーを巻き込んだ態度表明だったことは疑いありません。
なお、Appleの力をもってしても常に絵文字の書き換えを認めさせられてきたわけではなく、一時は水鉄砲のように書き換えを計画しつつ、非難を受けて撤回したことがあります。
それがこちら。桃を人体の一部を連想するかたちから、単なる果物に見える角度に変更したものの、ベータ版で導入したのみで結局はもとに戻しています。
桃の絵文字は、まあ日本語でもそうであるように臀部を指して使われることが多く、英語では特に性的である以上に侮辱の意味で使われることも多かったためかもしれませんが、結局は小うるさい風紀委員のような態度が非難を受け撤回に至りました。