ハーバード大学とスミソニアン天体物理学センターの天体物理学者らがコンピューター解析を通じ、天の川銀河が歪み、一部で膨らんでいる原因が、暗黒物質(ダークマター)ハローの仕業である可能性があるとの研究結果をNature Astronomyに発表しました。
天文学者たちは、太陽系が渦巻き型銀河である天の川銀河の一部であることを発見したとき、この銀河は円盤状の平べったい形状だと仮定しました。しかし、位置天文学用の宇宙望遠鏡であるガイアや、他の探査機による観測から得られた銀河の星々の位置と速度データによって、この銀河の渦巻きが一端では円盤のわずかに上面方向に、そしてその反対側ではわずかに下面方向に向かって歪んでいることががわかりました。
ただ、宇宙に見られる他の渦巻き銀河には、同様の歪みを持つものは見つかっておらず、このわずかな歪みがどうして発生しているのかがわかりませんでした。
しかし昨年、研究チームは天の川銀河を取り囲むガスと拡散した星々からなる球体、いわゆる銀河ハローもまた、完全な球形ではなく、傾き、不均衡であることを発見しました。これは、天の川銀河の暗黒物質ハローもまた、同様に傾いている可能性があることを示唆していたのです。
暗黒物質ハローは、銀河ハローとともに銀河を構成する球形の物質で、目には見えないものの、宇宙の物質と重力によって相互作用する性質を持っています。研究者らは、観察された天の川銀河の形状、たわみ、フレアなどを再現できるかどうかを確認するために、いくつかのシミュレーションとモデリングを実施しました。
一連のモデリングにおいて、研究者らは天の川銀河のディスクに対して25度傾いた暗黒ハローを持つ銀河のモデルを作成し、星とガスの軌道を50億年間にわたって計算しました。その結果、暗黒物質のかたまりが傾いている場合、銀河の外縁部が実際にガイアによる観測で見られるように歪み、膨らむことがわかったそうです。
なお、研究者らは「そこに銀河系からの相互作用が関与していないと言っているわけではない」とし、実際のところその可能性は高いとしています。しかし、コンピューターモデルによるシミュレーション結果は、その相互作用がすでに過去のものとなっていることを示唆しています。
シミュレーションでは、別の銀河との衝突が暗黒物質ハローを大きく傾け、銀河ディスクの歪みが迅速に起こると示されています。暗黒物質ハローの傾きはその後、徐々に正常に戻りますが、シミュレーションでは70億年前の銀河の衝突の後、天の川銀河の暗黒物質ハローの傾きが50度から20度に減少するのに約50億年かかったと計算されています。