Google DeepMindは、機械学習ベースの気象予測プログラム「GraphCast」が、中期予報においてこれまでの一般的な気象予測手法よりも高い精度を示したとする論文を、科学誌Scienceに発表しました。
GraphCastは、地球全体を緯度経度それぞれ0.25度ごとにり、100万以上の区画それぞれについて気温、風速風向、平均海面気圧など5つの地表面変数と、比湿、風速風向、気温を含む6るの大気変数を、37段階の高度ごとに予測します。そして、その精度は、世界で最も優れるとされるヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)の気象予測システムを上回るとDeepMindは報告しています。
GraphCastの入力として必要なのは、6時間前の天気の状態と現在の天気の2セットのデータだけで、これを元に6時間後の天気を予測します。さらに6時間単位で予測を繰り返して、最大10日間までの気象予測を提供します。
実際に行った予測の例としては、9月に北米東海岸を襲ったハリケーン「Lee」の進路予測において、カナダ・ノバスコシア州のロング島に上陸することを約9日前に予測し、的中させたとのことです。これに対し従来の予測システムは、ノバスコシア州に上陸すると予測できたのが上陸の約6日前でした。
従来の気象予測システムは正確な予測を行うために複雑な物理学および流体力学を駆使する必要があり、その計算には非常に時間がかかる場合があります。しかしGraphCastの場合は、上記のような10日間の予測を出すのに1分もかからないと述べています。
また、熱帯低気圧の発生や、極端な温度変化の波などといった激しい天候の変化も予測でき、常に最新データでアルゴリズムを学習させることで、より広範な変化と一致する気象パターンの振動を正確に予測できるようになると考えられています。
GraphCastは「graph neural network」と呼ばれる機械学習アルゴリズムを使用し、ECMWFが40年以上にわたって蓄積してきた膨大な気象データを使って強化されています。そして、Cloud TPU v4を活用した予測時間の短さは、大気物理学に基づく方程式を処理するためにスーパーコンピュータに頼る従来の数値気象予測手法とは対照的であり、エネルギー消費も約1000倍も少ないとのことです。
ただし、まだGraphCastにも弱点はあります。10月25日にアカプルコを襲ったハリケーン「Otis」は、その途中で急激な成長を見せましたが、このような状況では、GraphCastの予測は従来システムを上回るまでには至っていないとされています。
また、気象学者からは、AIアルゴリズムが気象予測をする方法がまるでブラックボックスを見ているのようであり、どうやってその予測が導き出されたのかが把握できず、透明性や信頼性に問題があるとの指摘もあるとArs Technicaは伝えています。
Google DeepMindの研究者らも、AIベースの気象予測は従来の方法を補完するものと見なしており、これまでのやり方を置き換えることはないとしています。ただ、ECMWFは、将来的には独自のAIモデルを現在の予測システムに統合する可能性も検討しているとのことです。
なお、AIによる気象予測に関してはイギリス気象庁もAlan Turing Instituteと提携して既存の気象予測方法に取り込むための開発を進めています。