1月16日、テスラCEOのイーロン・マスク氏はX(Twitter)に同社のヒューマノイド「Optimus」が洗濯かごからTシャツを取り出し、器用にたたむ様子を収めた動画を投稿し、「Optimusがシャツを畳む」と述べました。
テスラのOptimusは、人間の仕事をそのまま肩代わりできる手足を持ち、工場などで活躍する自律型ロボットを目指しています。
シャツを畳む様子はまるで、将来Optimusが本当に家事を手伝ってくれるようになる未来を想像させるものです。
特に、洗濯物をたたむのは家庭において地味に面倒くさく、しかし家電で自動化が難しい作業の代表とも言え、これが実現すれば非常に便利になるはず。
動画を見たXユーザーたちも、Optimusの進化が「もうここまで来たか!」などと率直な反応でこれに応えていました。
ところが、マスク氏がXに投稿した直後に、掲示板サイトRedditでこの動画が紹介されると、10分足らずのうちに「右下隅を見ると、遠隔操作者の手が見える」とユーザーから書き込みが入りました。
たしかに、動画の時間表示が7秒と12秒になるあたりで、画面右下にだれかの手らしきものが映り込んでいます。そして、その動きはOptimusの右手の動きとシンクロしているように見えます。
Redditのユーザーは、それがオペレーターが着用したグローブの動きをロボットにトレースさせる、ハンドトラッキングなどと呼ばれる機能であると指摘しました。
一方マスク氏は、Redditでそれが遠隔操作だと指摘された後、Xのこの投稿に自らリプライを付け「注意事項:Optimusはまだ自律的にこれを行うことはできないが、完全に自律的に、任意の環境でこれを行うことができるようになるのは間違いない」と述べ、動画がオペレーターの操作によるものだと認めました。
ただ、すでにたくさんのリプライで溢れているからか、マスク氏のタネ明かし投稿には気づかない人も多いようです。なかには、数日前にFigureというヒト型ロボットを開発する企業がYouTubeに公開した「自律的にコーヒーメーカーを操作するロボット」を引き合いに、Optimusがやけに自然な所作を見せているのに驚愕しているXユーザーもいましたが、このユーザーは別のユーザーから、その違いは遠隔操作とニューラルネットワークによる動作の違いだと指摘されていました。
好意的に解釈すれば、自律ロボットには難しいタスクとして知られる衣服たたみをOptimusが実現したように見せかけるつもりは最初からマスク氏にはなく、単に腕と手の性能を示すために、前例がある遠隔操作の動画をただ投稿しただけと考えられないこともありません。
しかしOptimusは遠隔操作用のロボットハンドではなく、自律動作で人間のかわりに作業ができるようになると謳うロボット。オペレータの動きをトレースしていることが分からないように映して「Optimusが」を主語にして投稿するのは、実際に多くの人が勘違いしたことが示すように、開発の進展について非常に紛らわしい情報発信だったことは確かです。
なお、マスク氏が最初に動画を投稿してから約1時間後、Optimusの開発に携わっているMilan Kovac氏がマスク氏の投稿した動画に対し、この動画の様子が「現在のハードウェアにこれらのタスクを実行するための器用さがあること検証する」ための試験によるものだと述べ、現在はまだ自律動作のためのソフトウェア/AIは開発中だと説明しています。
そして、現在はe2eと呼ばれる、対象のシステムが正しく動作するかを検証するプロセスによって、ニューラルネットワークを自律的に訓練するために必要なデータの収集を行っていること、またより速くデータを一般化するために十分な多様性あるデータの蓄積をしている段階だとしました。
Kovac氏は最後に「洗濯物をたたむのを手伝ってくれるのを歓迎しない人はいないよね;)」と述べています。本当にOptimusに洗濯物をたたむ動作を覚えさせることができるのなら、もしかするとOptimusは家庭向けとしてもヒット商品になるかもしれません。
洗濯物をたたむロボットと言えば、何年か前に「Laundroid(ランドロイド)」と呼ばれる巨大冷蔵庫のようなロボットの開発が話題になりました。しかし衣類は形状や材質、厚みや重量などが千差万別なこともあり、ついに実用化には至りませんでした。
ただ、LaundroidでもTシャツやワイシャツならたためていたことを考えると、洗濯物たたみロボとしてのOptimusがどこまでやれるようになるのか期待したいところです。