アップル、プレス機で楽器や画材を潰す新 iPad CMで謝罪「We are sorry. 」

カルチャー Art
Ittousai

Tech Journalist. Editor at large @TechnoEdgeJP テクノエッジ主筆 / ファウンダー / 火元

5月7日に発表された新型 iPad のCM動画について、Appleが正式に謝罪しました。

動画は巨大なプレス機でピアノやギターといった楽器、様々な画材、黒板や本、カメラ、ゲーム機、レコード、おもちゃ等をゆっくりと押し潰しぺしゃんこにしたあと、開いたプレス機から新型 iPad が現れる内容。

要するに、音楽や絵画や写真といったアートのための道具も、ゲーム機も本もレコードも、すべてをぎゅうぎゅうに詰め込んでこんな薄さになりました、的なストーリーです。

言いたいことは伝わるものの、とはいえギターやトランペットやピアノ、クラシックなアーケードゲーム筐体(インベーダー風の架空)、アナログレコード等々が緩やかに破壊される様子は、映像としては目を惹かれても、そうしたものに愛着がある人にとっては、心穏やかに見られないことも確かです。

この広告動画はAppleの発表プレゼンテーションで流されたのち、アップルのCEOであるティム・クックの X (Twitter) アカウントでも、YouTubeにも投稿されています。

愛着ある楽器や画材やカメラが壊されるのは見るに忍びないという人もいれば、怒りを覚えたという人、逆に何も感じない、何が問題なのか分からない人もいるのは当然ですが、クリエーター向けに売ろうという製品の宣伝で、当のクリエーターが自己表現や生計の手段にしている物を音楽に乗せて粉砕圧縮するのは、控えめにいっても賢いアイデアとは思えません。

当然のように反響はあり、悲しい、不快という人も、あるいはいちいち目くじらを立てるなセンスの良いユーモアだ(?)云々といった人も交えて論争が広がっていました。

こうした状況に対し、アップルのマーケティングコミュニケーション担当バイスプレジデント Tor Myhren氏は、マーケティングメディア Ad Age の照会に応えて、至らなかったと謝罪する声明を出しています。

ざっくり訳せば「クリエイティビティはAppleのDNAに刻まれており、世界中のクリエイティブな人たちの力となる製品を設計することは、われわれにとって極めて重要です。ユーザーが自分を表現し、アイデアを形に変えるあらゆる方法を iPadを通じて称えることが、常にわれわれの目標でした。今回の動画ではそれを果たせず、失望させてしまったことを申し訳なく思います

We missed the mark、的を外した、つまり期待に答えられなかった、しくじったと率直に認める内容です。

この問題については、当初から残念だと失望を述べる声もあれば、「Appleが無神経なCMで炎上!」と火をくべるもの、逆に何も問題はない、ごく一部の日本人がお気持ちで騒いでいるだけで「海外」では誰一人気にしていない、等々とさまざまな主張がありましたが、少なくともアップルの会社方針としては失態を認めたようです。

問題の動画はまだYouTubeのApple公式にありますが、テレビコマーシャルとしての放映は取りやめる方針です。

以下、全く必要のない余談。せっかくなので個人的な感想を述べれば、人にまつわるモノや都市が壊れる映像表現が好きなこともあり(スローとか最高)、とりたてて悲しみや怒りは感じなかったものの、撮影のためにわざわざ作ったと思しきアーケードゲーム筐体が壊れる様子は、つい先日まったく別のニュースで、貴重なレトロアーケード筐体が多数焼失したことを思い出して若干の息苦しさは覚えました。若干。

客観的にみればこれは炎上するかも、普段は音楽と縁が深い会社ですアーティストと共に歩んで云々と言いつつ普通に客に喧嘩売ってんな、とも思いましたが、それ以上に、iPadがいくら高性能になっても潰された道具の代わりには全然ならないこと、特にいくらタッチが快適で万能でも、鍵盤や弦のような物理インターフェースはまるで置き換えられず、デジタルとアナログ云々以前に、アップル自身ですら iPadを補う物理キーボードを出している時点で、メタファーとしてもガバガバすぎるのでは?が気になってしまい、あまり感情を喚起される暇がありませんでした。紙の本や物理メディアはわりと置き換えてますが。

動画:Apple Macintosh CM(1984)

初代Macintoshからハンマー投げてスクリーン粉砕する広告の会社なので。音楽配信や電子書籍ビジネスからすれば、アナログレコードや紙の本はシンプルにシェアを奪い取る相手でもあり、圧縮粉砕CMの企画が社内で通ったということは、物理メディアや道具とそのユーザーは本心のところ敵の意識なのかもしれません。

《Ittousai》
Ittousai

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