Vision Proアプリ『日経空間版』を試す。紙を超えた一覧性と深掘り、空間コンピューティングのお手本

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Appleの「空間コンピュータ」ことVision Proが国内発売を迎えた6月28日、日本経済新聞社が専用アプリ『日経空間版』を公開しました。

『電子版』と対になる命名も絶妙な『空間版』は、Appleの言う「空間コンピューティング」環境で読む日本経済新聞。

新聞そのままのレイアウトで全ページを空間に並べ一望できる『Paperium』、ひとつの記事からAIで関連記事を抽出し時系列で理解を深める『StoryFlow』、そして過去100年間の震源データを3Dで実感できるイマーシブなビジュアルコンテンツ『「地震列島」日本』など、紙や平面ディスプレイの制約に縛られない、新しいニュース体験を提案するアプリです。

それぞれの画面は掲載したスクリーンショットのとおり。しかし空間アプリ、あるいはVRやMRアプリ全般に言えることながら、画面写真では広い視界の一部を小さな平面に収めざるを得ないため、実際の体験はなかなか伝わりません。

Vision Pro実機で体験するのが一番ですが、価格も含めてまだなかなかハードルが高いのも確か。そこでアプリの概要を紹介しつつ、実際の体験としてはどうなのか、空間コンピューティングって結局なんなの?あたりをお伝えします。

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電子版と空間版。「枠」のない空間コンピューティングを活用

まずはトップ画面から順に、主要な機能をご紹介……する前に結論から書いてしまえば、日経空間版の魅力は「空間コンピューティング」環境で、つまり紙の新聞や従来のディスプレイが抱えていた平面と物理空間の制約から自由な環境でニュースを伝える新しい試みを体験できること。

従来の新聞は紙という素材あるいはデバイスの特性、すなわち軽さや薄さ、広い面積を安価に大量印刷できる強みと、あわせて進化してきた見出しや画像、段組みのレイアウトによる効率的な情報伝達が一体化した、極めて洗練された媒体です。

紙の新聞に遅れて登場したインターネットとPC、スマートフォン等のコンピューティング環境は、即時性や膨大な情報へのアクセス、双方向性や動画・音声など紙には真似できない利点がありつつ、ディスプレイの広さや可搬性は新聞に遠く及ばず、長年にわたって培われてきた紙面レイアウトとは逆に相性が悪い問題がありました。

スマホや一般的なPCのディスプレイのサイズで紙面そのままを縮小表示しても、紙の新聞を広げた解像度や一望性には程遠く、ページをめくったりスクロールする手間で却って読みづらくなり、結局はウェブと親和性の高い縦スクロールのフラットなレイアウトのほうが楽になります。

一方、AppleがVision Proで提唱する空間コンピューティングは、さまざまな定義があるものの、即物的にいえば空間の任意の場所に、任意の大きさでコンテンツを表示できる、または「置ける」こと、空間をフル活用できる点が強み。

物理マルチディスプレイ環境は、現実的には固定した場所にせいぜい数枚を並べる程度ですが、Vision Proならば巨大な表示を何枚も、物理空間の制限なしで持ち歩き、自由に並べ、開閉できます。

全ページを見渡して俯瞰する Paperium

日経空間版の Paperium は、この「物理空間に左右されない」特性を最大限に活かしたインターフェース。スクリーンショットでは単なる縮小サムネイルに見え、既存の電子書籍や新聞のサムネイル一覧と何が違うのか分かりませんが、Vision Proでは4段 x 11列44面の新聞紙面が文字どおり視界を覆う広さに表示されます。

四角い画面の中に縮小サムネが並ぶのではなく、半円状の壁に新聞の全ページを貼り付けて眺めるような感覚です (紙の新聞で再現するには、表と裏を同時に見せるため二部使う必要がありますが)。

大小さまざまな見出しや段組み、 あるいは見開き広告までそのまま、スクロールもめくる動作もなく、手も使わず、自然に眺めるだけで1面からすべてのページを一望のもとにブラウズできます。

さすがにVision Proの解像度でも、全ページを並べた状態ではもっとも小さな記事本文まではそのまま読めず、目線ブラウズで気になったページは親指と人差指をあわせるタップ操作で拡大して読むことになりますが、これは指をあわせるだけで今見ているページが手元に飛び出て、巨大なポスターのような広さまで近づくイメージです。

新聞レイアウトの強みを活かしたまま、過去30日分の朝刊夕刊をすばやく切り替えて選べたり、関連記事を時系列で深堀りできるもうひとつのインターフェース StoryFlow をシームレスに開くなど、紙の新聞にも従来のコンピュータにも不可能だった、まさに空間コンピュータならではの新しい新聞の体験です。

AI解析で記事を深く把握する StoryFlow

Paperium と並ぶ日経空間版のインターフェース StoryFlow は、選択した記事を分析して過去の紙面から関連記事を抽出し、時系列や文脈を踏まえた深い理解を可能にする仕組み。

記事は紙面そのままではなく、カード状の横書き表示で読むため、Paperiumほど特異なレイアウトではありません。

複数の関連記事カードをタイムラインに沿ったパノラマ状に並べて、切り替えやスクロール不要で概要をブラウズするといったことはできます。

新聞の紙面はその日その時のニュース全般をスライスして伝えますが、過去に遡るのはあまり得意ではありません。俯瞰視点でニュースを眺める Paperium と、個別記事からトピック単位で時系列とともに深掘りする StoryFlow は対になり、立体的な読み方を可能にします。

トップ画面は「宙に浮いたiPad」。小窓で流し読みのLiveニュースも

Paperium と StoryFlow がもっとも目立つ機能である一方、日経空間版には他にも面白い試みや配慮がそこかしこにあります。

いかにも Mixed Reality デバイスらしい企画は、過去約100年間の震源データを3Dで表示するイマーシブビジュアルコンテンツ『「地震列島」日本』。

もともとは平面版としてウェブ公開されていたコンテンツですが、空間版は眼前に立体の日本列島地図が浮かび、震源の深さを直感的に把握できます。映えるコンテンツであることは確かです。

配慮の例は、アプリを起動していきなりPaperiumが視界を覆うのではなく、従来のニュースアプリやウェブサイトのような四角いトップ画面が開くこと。一般的なアプリのように下にスクロールすれば、これまたごく普通のウェブニュースのように、トピックスに分かれたヘッドラインと記事冒頭がタイルとして並びます。

特に新聞の紙面のレイアウトは要らない、視界を覆われても困る、ただニュースをテキストで流し見したい場合は、開いてスクロールすれば単なる宙に浮く iPadと従来型ニュースアプリのように使え、新規インターフェースで困らせない配慮です。

(といっても、Paperium で紙面がずらりと並ぶのも、いま注視しているものが拡大するのも十分に直感的で、Vision Proを使っていれば自明ともいえる操作ですが)

もうひとつ、トップページの左下アイコンから開けるLiveニュースは、自由に配置できる小窓で日経平均株価や最新ニュースヘッドラインを確認できる機能。

Paperium が視界を覆う広いレイアウトで空間コンピュータを活用したのに対して、Liveは複数のアプリやウィンドウ、仮想オブジェクトを空間に配置できる特性を活かします。

たとえば視界の正面には大きなウィンドウを配置して動画を観たり作業をしつつ、日経空間版のLiveウィンドウを手前に置いておけば、周辺視野でチラッと確認したり、あるいは目線を下に向けたときに最新のヘッドラインを確認できる仕組みです。

課題と伸びしろ。空間コンピューティングに期待したくなるアプリ

新聞の伝統的なレイアウトと、オンラインニュースの良さがついに融合した、ディスプレイの枠に囚われない空間コンピュータで初めて可能になったあるべき進化形だ!といった意味では激賞できる日経空間版ですが、現状で課題がないわけではありません。

新しい可能性を開いただけに、むしろ改善の余地や当然できると思ったらできないことも無数に出てきます。

たとえばPaperiumの全ページ一覧から、シームレスにズームできないこと。本文は1ページ単位でタップして拡大するかページ移動することになり、せっかく一望できているのに細切れな印象があります。

また紙面のレイアウトそのままが魅力でありながら、本文が読める拡大状態では2ページ見開きができません。力作の見開き広告を見つけても、拡大は半分ずつ。

そのほか検索周りや、StoryFlowの関連記事生成、レイアウトの不自由(カードをちまちまとスクロールして読むしかない)など、細かな点はいくつもあります。

ただいずれも設計思想的な制約ではなく、ファーストリリースの時点では単に間に合わず未対応の印象。実際に開発者は「Vision Proパーティー」のトークセッションで上記の点の多くを改善予定としており、よく言えば今後の改善や新機能が楽しめるとも考えられます。

新規性についてしつこく言葉を重ねましたが、現状で実験というわけではなくすでにニュースリーダーとして実用に耐えるため、日経電子版の購読者はもちろん、「空間コンピューティング」は掛け声ばかり大きくて実態が良くわからない、要するに何が嬉しいのか知りたい、今後のデバイスや技術の進歩でコンピューティングはどこに向かうのか興味があるかたにはぜひ体験してほしいアプリです。

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