Insta360が発売したスマホ用の多機能ジンバル、Insta360 Flow Pro のレビューをお伝えします。
Insta360 Flow Pro は iPhoneやAndroidスマホカメラの手ブレを抑えて、滑らかな撮影ができる「ジンバル」製品。
Insta360 Flow Proを購入 - AI追跡ジンバル - Insta360公式ストア
加えて、iPhoneの新機能DockKitにいち早く対応した360度AI追跡撮影や、据え置きでAIカメラマン的に使える三脚内蔵、アングルの自由度が広がる伸縮式自撮り棒も一体化しています。
動画をランクアップしたい初心者からジンバル撮影に慣れたクリエーターまで役立つ実用品であると同時に、サードパーティアプリ対応で動画撮影以外にも使える多機能・多用途が魅力。マルチツールと新技術が好物なガジェット趣味的にも響く製品となっています。
動画が気軽にクオリティアップ。用途の広さを楽しめるギア
しばらく持ち歩いて使った結論から述べれば:
・ジンバルで iPhone動画が一気に「それらしく」、見やすさがアップ。評価の高い元モデル Insta360 Flow そのまま。動画クリエーターっぽい映像が簡単に撮れる!とつい何でも撮影したくなる。
・撮影が楽。片手でしっかり握り込んでグリップしつつ、親指だけでズームも縦横前後切替もパンも操作できるスマートホイールは安定して快適。スマホ画面に触れる必要が(ほぼ)なく、画面タッチでは難しい被写体追従ズームも滑らかに。
・スマホ用ジンバルとして初のApple DockKit対応。使える場面・アプリが大幅に拡大。通常の動画撮影以外にも、ビデオ会議アプリ、InstagramやYouTubeなど動画配信、FaceTimeなどチャットアプリの通話でも、ネイティブにiOSのAI自動追従が使える。
・Insta360アプリではDeep Track 3.0トラッキング機能が強力。被写体が手前の何かに遮られても現れたところで追跡再開、被写体が角度を変えても追従、犬・猫・馬のトラッキングなど。
内蔵の三脚で立てて「椅子から立ち上がり腕組みして部屋を一周、やおらカメラに向かい」や「屋外でカメラの周りを説明しながら歩く」映像が一人でも簡単に撮れる、いつものアプリで配信できる。楽しい。
本来の撮影機能はもちろん、ガジェット志向的にはカバンに常備したいミニ三脚や伸縮式の自撮り棒を兼ねること、クランプとMagSafe互換ホルダで汎用性が高いこと、iPhoneならMac連係カメラで目線の高さの自動追従Webカメラとしてリモート会議にも使える、コンパクトに折り畳めるなど、一台あれば「アレを持ってくれば良かった!」後悔が減る、スイスアーミーナイフ的なマルチツールとして持ち歩きたくなるデバイスです。
Flow (Proじゃないほう)比較と仕様。三脚と自撮り棒内蔵で約366g
まずは Insta360 Flow Pro の主な仕様から。本体重量 約366g、スマホを固定する磁気スマートフォンクランプとあわせて400g弱。対応スマートフォンの重さは300gまで。
折りたたんだときのサイズは約79.6 x 162.1 x 36mm、伸ばして 73.6 x 269.4 x 69.9mm。
「内蔵自撮り棒」部分は最大215mm伸ばすことができ、内蔵三脚は引き出して長さ80mm、開いて直径187mm。
ジンバル自体が約400g、かつ最近の重いスマホが先端に来れば、長時間の撮影ではやはり重くなってきますが、ラバー製のグリップカバーが付属すること、内蔵三脚を開かず伸ばしてグリップを長くすることで軽減できます。
いずれにしろ、スマホを直に構えて安定させつつ、画面のアイコンに無理に指を伸ばすよりは、握り込めるグリップと親指ホイール操作のほうがずっと持ちやすく楽です。
バッテリーは2900mAhで約10時間駆動。ProではないFlowより2時間短くなりました。大容量ではないものの、緊急時にはUSB-Cでスマホ等に給電もできます。
ジンバルの可動域は、ロール-150°~180°、チルト-100°~82°。パン(水平方向の首振り)は、Proがつかない元モデル Insta360 Flowからアップグレードして360度無制限になりました。
目玉のDockKitでトラッキング時など、ジンバルの回転限界を気にすることなく周りをぐるぐる回れます。
元モデルの Insta360 Flow (Proがつかないほう)とは、サイズや重さはほとんど変わらない一方、最大の差であるDockKit対応と、上述の無制限パン、追従が有効かどの角度からも分かる緑のトラッキングリングライト追加、NFCワンタップペアリング対応といったアップグレード点があります。(Deep Track 3.0は、Insta360アプリ側のアップデートで無印 Flowにも対応します)
そもそもDockKit って何?
ジンバルとしての使い勝手や活用法の前に、今回の新機能「Apple DockKit (ドックキット)対応」について。
DockKit とは、簡単にいえば「iPhoneとモーター内蔵のスタンドやジンバル等を組み合わせて、被写体を自動で追って撮影できる仕組み」のこと。iOSの標準機能として、iPhone 12以降・iOS 17以降で使えます。
iPhoneを含め一般的なデジタルカメラには顔や人体を検出する機能が昔からありますが、DockKit はこれを使って周辺機器に命令を送り、被写体を常に捉えるよう首振りさせる機能です (正確には、首振り追従対応アクセサリを作るための開発者フレームワークの名前)。
対応製品が出始めたばかりの新機能とあってまださほど知られていませんが、対応・非対応では汎用性に差が出る、アクセサリ選びで対応を確認しておきたい機能です。
DockKit 対応の何が嬉しいのか?といえば、最大の利点は iOS側の標準機能なので、標準「カメラ」アプリでも、各社の様々なアプリでも使えること。
被写体の自動追跡自体は、メーカーInsta360が自社製品向けに用意するInsta360 アプリでも独自の「ディープトラック」機能として以前から対応しています。
Insta360のディープトラック 3.0はターゲットの角度が変わっても追従できる(自動車などが向きを変えても同一の対象と認識する)、被写体が何かに遮られて一時的に消えても再び追える「人物の再認識」、さらに猫・犬・馬のトラッキングに対応するなど、むしろ独自の高性能が売りの機能。
しかしFlow Proは iOS標準機能のDockKitに対応することで、Insta360アプリ以外でも、たとえばiPhoneの標準カメラアプリでも、会議ツールや動画配信機能があるソーシャルアプリ等々でもAIトラッキング機能が利用できるようになり、使い道が大幅に拡大しました。
アプリ側が非対応でないかぎり、ユーザーの顔を認識してアバターに置き換えるようなアプリでさえ、スマホが首を振って追従してくれるようになります。
対応アプリはInsta360によれば現時点で200以上。今秋のiOS 18では標準カメラアプリでビデオ以外の撮影モードにも対応するなど、使えるアプリは今後も増えてゆきます。
セットアップが楽。専用アプリ不要ですぐ使えるNFCペアリング
実際の使い勝手では、DockKit対応で専用アプリが要らない点とあわせて、Insta360 Flow Proの新機能であるNFCペアリングが便利でした。
スマートホイールの上、NFCロゴ部分にiPhoneをかざすと画面に「トラッキングドック / Insta360 Flow Pro」のポップアップが現れ、接続をタップするだけでいきなり使えるようになります。
初回の場合、アクセサリ名が表示されるまで数秒程度、接続を押してから完了までしばらく、数十秒程度待つ必要がありました。
それでも、以前のような「メーカー名やパッケージのQRコード等を手がかりに専用アプリをストアからインストール、アプリの指示に従ってまず本体をペアリングモードにして、次はスマホの設定からペアリングを選択、接続したら専用アプリに戻って……」といった手間がなく、むしろ拍子抜けします。
(なお初回はなかなかiPhoneが認識されず、位置が悪いのかと試行錯誤しましたが、ロックを解除していなかったというオチでした)
前述のようにiOSの標準機能である DockKit で動くため、NFCでペアリングしたあとは、標準のカメラアプリ(現在はビデオモードのみ)、または対応のサードパーティアプリでそのまま自動トラッキングが使えるようになります。
ジンバル撮影はトラッキング&ズームが便利、まずは「自動」からステップアップ
ジンバル撮影は、内蔵のモーターでカメラ/スマホを物理的に動かして、手ブレなどの動きを相殺し滑らかな映像が得られます(基本から説明)。
カメラのどの動きを打ち消すのか、ユーザーがカメラをどう動かしたときに素早く反応するかはモードで選択しますが、Insta360 Flow Proは設定を気にせずとりあえずで撮れる「Auto」モードが便利。動きを判断して緩やかに追従してくれます。
被写体の自動トラッキングを始めるにはトリガーを引くだけ。勝手に被写体を追いつつ、なんとなくいい感じに、安定した見やすい映像になります。
どう撮りたいのか・撮れるのか分かるようになってから「フォロー」(パン・チルトはハンドルの動きを反映)・「パンフォロー」(パン方向だけ反映)モードを選んで、意図に近づけられます。モードの切替も親指でホイールをスワイプするだけ。画面タッチの必要はありません。
もうひとつの「FPV」は面白いモードで、水平維持せずロールの動きもカメラワークに取り入れることで、傾いて飛ぶドローン空撮風になります。(ホイールでズームのかわりに、スマホが傾くロール動作になる)
手ぶれ補正と、持っているだけで自動追従に加えて便利だったのは、ホイールを親指で回して滑らかにズームできること。
シームレスな光学・デジタルズームを備えるスマホカメラは一般的になりましたが、通常のカメラアプリではスワイプ操作で連続的にズームできるといっても、一定速度で指を動かすこと自体が難しく、いかにもスマホで撮りました感のあるガクガク映像になりがちでした。
ホイール操作ならばヌルっと滑らかにズームでき、高倍率時の手ぶれ補正と相まって、手持ちでは難しい撮影が可能になります。
さらにトラッキングをあわせると、動く被写体に迫る正確なズームも。いかにも映画的なショットですが、トラッキングなし・指スワイプではどうやっても撮れなかった画が撮れるのは、動画撮影の自由度が広がり、スマホだけ(とジンバル)でどう撮るか?が面白くなってきます。
(なお、これはInsta360 Flow Pro側というよりマルチカメラスマホ全般の問題ですが、滑らかにズームを指示できても、実際には複数のレンズを切り替えてつないでいるため、特定の倍率で微妙に不自然な映像になることがあります。
試用ではシームレスに見せることで評価の高い iPhone (15 Pro Max)を使いましたが、望遠に切り替えるタイミングで一瞬モヤッと気になる映像に。これはスマホ側の改善を待つしかありません)。
約20cm伸ばせて三脚内蔵、DockKitはMac連係カメラでも有効
持ち歩くツールとして便利だったのは、本体だけで伸縮式の自撮り棒と三脚を兼ねること。伸縮は215mmのみですが、ジンバルのアーム部分とあわせて、手持ちではハイアングル・ローアングルや画角の選択肢が増えます。
内蔵三脚も組み合わせると、デスク等に立てて目線に近い高さにでき、DockKitのトラッキングとあわせて自動追従のAIカメラとして使う際に便利でした。
(内蔵三脚は微妙にグニャグニャしていて、正しく展開したか若干不安になりますが、トラッキングでカメラが動いても一応安定しています。1/4インチネジ穴もあるため、外部の三脚やマウントに固定することも)
iPhoneをMacの高画質Webカメラにする「連係カメラ」でもDockKitは有効なため、Macのデスクトップ版ビデオ会議アプリや配信アプリでも、自動追従つきでiPhoneカメラが使えます。
一般的なビジネスミーティングで激しく動くことはあまりないような気もしますが、歩き回って「ごらんください!」なプレゼン配信や、動画クリエーター的には見せたい場所の中心に立ててカメラ目線で一周しなから、といった映像が一人でも撮影できます。
これまではカメラマンが必要だった映像が気軽に、ややこしいセットアップもなくすぐ撮れるのは激しく便利です。
コンパクトに折り畳み。付属クランプは汎用性高
このほか便利な点、使ってみて意外だった点、気づいたところを挙げれば、
折り畳めば小型。マウント部分の保護は要検討
二つ折りできることで、多機能を考えた「機能体積比」(?)では驚くほどコンパクトにまとまります。大きめのポケットなら突っ込むことも。
ただし、標準ではスマホを固定する磁気クランプが金属製で収まりが悪く、また磁気マウント部分も金属が露出しているため、せっかくコンパクトでもそのままカバンに放り込むのは不安。付属のポーチを使うか、ユーザー側で何かしら対策する必要があります。
折りたたんだ本体を伸ばす1アクションだけで、スマホの固定を入れても2アクションで素早く使えることが売りですが、持ち運び状態からは結局ポーチなりから出す手間が発生することに。
常に持ち歩きたいだけに、収納場所を気にしないで良い製品と比べればディスアドバンテージですが、付属の磁気クランプを使わず、マウント部分だけキャップ状のもので保護する、専用のポケットに入れるといった自衛はできそうです。
MagSafe互換アダプタ(磁気スマートフォンマウント)は別売り
iPhoneと組み合わせて大活躍する製品にもかかわらず、MagSafe互換の磁気スマートフォンマウントは別売り3600円。
本体価格がいまのご時世には安い税込み1万9800円であることを思えば、使わないユーザーのため選択式にしたと言えないこともありませんが、やはり多数のユーザーがセットで使いたかったためか、発売直後から入手困難が続いていました。
Flow/Flow Pro 磁気スマートフォンマウントを購入する - Insta360ストア
今後のモデルではたとえば標準状態でもMagSafe互換で固定でき、状況によってはクランプでより強く固定もできるような構造に期待したいところです。
このほか試用したユーザーからは、360度パントラッキング中に同じ角度で微妙に引っかかる現象の報告もありました。こちらはアプリやトラッキング起因なのか、設計上の問題なのか個体差なのか特定できていないため、引き続き検証します。同じ現象が発生していたらおしえてください。
まとめ:「ジンバル」デビューに最適、iPhoneならDockKitでAIカメラ化するミニ三脚としても
ジンバルとしての性能が高評価だった元モデル Insta360 Flow に、スマホジンバルとして初の Apple DockKit対応、360度無制限パン、NFCワンタップペアリング、トラッキングリングライトなどアップグレードを施しつつ、売価はほぼ変わらない時点で明らかにお買い得な製品。
「本来」の機能である手持ち撮影用のジンバルとして高水準で、iPhoneやAndroidスマホで撮れる動画が、少なくとも見やすさや滑らかさの点で気軽にクオリティアップします。
またDockKitは現在まだ対応製品が少ないため、手持ち撮影ジンバルにさほど興味がなくても、DockKit機能が使えるドック、連係カメラスタンドとしても安価です。
ジンバル・DockKit対応AIカメラドックとして実用できるうえに、三脚と伸縮式の自撮り棒も一体化している点がオールインワンツールとして魅力的。
別売りではあるものの磁気スマートフォンマウントを使えばMagSafe互換相当になるため、対応ケースでiPhone以外のスマホを固定したり、そのほか勝手 MagSafe 化したデバイス汎用で使えるコンパクトな三脚にもなります。
トレードオフとしては、マウントとセットで約400g弱、畳めてもそこそこの大きさ(かつ、マウント部の金属が露出)、スマホをセットするひと手間など。
総合的には、スマホ動画が確実にクオリティアップして撮影が楽しくなる本来の使い方と、DockKit対応の汎用性の高さ、スマートでMagSafeなミニ三脚として持ち歩きたくなる製品です。
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