大量解雇の混乱や「認証済み」偽アカウント急増で揺れるTwitterについて、新CEOのイーロン・マスク氏が「Twitter は他のウェブサイトやアプリ向けに大量のクリックを生んでいる。大差をつけてインターネット上で最大のクリック元」と、サービスの強みについて具体的な例を挙げてアピールしました。
"Twitter drives a massive number of clicks to other websites/apps. Biggest click driver on the Internet by far"
https://twitter.com/elonmusk/status/1591585984747286528
「click driver」とは、ここではツイート内のリンクを経由して外部のウェブサイトやアプリに送客する参照元・流入元の意味。
Twitterの主な収益源である広告主にとっては出稿先を選ぶ上で重要な指標のひとつであり、買収の混乱で広告出稿をためらう企業にしてみれば、CEOたるマスク氏の「大差をつけてネット上で最大」はこのうえないトップセールス発言です。
問題はこの「大差をつけてインターネット上で最大」発言の根拠が不明で、オンラインマーケティング上の常識やデータからかけ離れており、様々な機関の具体的な統計とも全く異なっていること。
流入元は個別のウェブサイトやアプリ、地域によって異なるものですが、一般的なウェブトラフィックの統計では当然のように Google検索経由が大差をつけて一位です。
▲Web解析サービスStatcounter 調べ
元発言は「大差をつけてインターネット上で最大」と誤解の余地があまりない端的な表現ですが、仮に「※ ソーシャルメディアにおいて」のように条件をつけたつもりが抜けてしまい結果的に誤っていたと考えても、ソーシャルメディアのなかでも流入元としては世界的に Facebook が大差をつけて一位であり、Twitter はネット全体でFacebookの1/10程度の送客力しかありません。
Google検索を遮断していたり、日本のようにTwitterユーザーが特に多い地域でTwitterを中心に露出している等の条件では、個別のサイトやアプリによってTwitter一位の場合はあるはずですが、元発言は「大差をつけてインターネット上で最大」。
Twitterに初期から5年間在籍しソーシャルメディアマーケティングの著書もある投資家 Claire Diaz-Ortiz 氏は「100%誤り。Twitterもそのことは理解している」「Facebook等よりはるかに低いためクリック数を売りにしたことはない」とコメント。
フォロワー1億人を超えるTwitter CEOの発言だけに、このように真意の説明を求める声、疑問を呈する声が殺到しましたが、マスク氏の対応は「無言でツイート削除」でした。特に説明や訂正等はありません。
元ツイートは https://twitter.com/elonmusk/status/1591585984747286528
解釈の可能性を探っていたところにツイ消しで脱力しましたが、マスク氏的に「特に根拠はないけど単に勢いで大差とか言っただけ」なのか、それとも何らかの原因で実データと極端に乖離した独自の世界観でTwitterを経営しているのかは知る由もありません。
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間違いは誰にでもあり、誤情報を放置するより削除したのは良いことではありますが、局外者が単なる勘違いや打ち間違いを訂正するのと、最高経営責任者が自社サービスの優位について現実と極端に乖離した主張をしたうえ、訂正も説明責任も負わず消して終了するのは同じ扱いというわけにもゆきません。
「イーロン・マスクは昔からそういうスタイル、真面目に受け取って振り回される方が愚か」という見方もありますが、広告主はともかく各国の政府や規制当局から強いプレッシャーを受けるTwitterのCEOになってしまった手前、自社サービスの優位についての発言にはそれなりの整合性と説明責任が求められることになります。
これまでは「あのイーロン・マスクだから」とある意味で奇行も許される雰囲気でしたが、なりすまし被害者の上院議員に名指しで「会社を自力で直せないなら議会が乗り出すことになる」と怒られが発生するなど、変わり者の億万長者特権がどこまで通用するか分からなくなってきました。
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