TwitterのCEOイーロン・マスクが、凍結されたアカウント全般に「恩赦」を与え解除することを明らかにしました。
先日のトランプ前大統領のアカウント復活と同様、イーロン・マスク本人のアカウントで実施したアンケートの結果が「解除すべき」70%超で終わったことを理由に、「民の声は神の声」として来週より実行する見込みです。
ただし、凍結の理由が違法行為であったり、極端なスパムであった場合は対象になりません。
Twitterの買収前から「言論の自由絶対主義者」を自称していたイーロン・マスクは、CEOに就任以来、暴力の煽動や差別発言などを理由に凍結されていた著名人のアカウントを次々と凍結解除していました。
今回は特に名指しせず、「全面恩赦」として凍結アカウント全般を対象にします。
従来のTwitterが実施してきたコンテンツのモデレーションやアカウントの凍結は、脅迫や暴力の煽動、差別発言などいわゆるヘイトスピーチ、なりすましや誤情報の拡散、あるいはスパム行為、「センシティブな内容」のタグ付けをしない性的表現や暴力的表現などを禁じたTwitterルールへの抵触を理由してきました。
ルール策定の背景には、Twitterを含むSNS上の嫌がらせで自殺者が出たり、Twitter上のヘイト発言や陰謀論に基づくデマを理由に実際の暴力事件が発生したことなどから、各国の当局からSNSの規制を求める圧力が高まったことがあります。
Twitterの立場として難しいのは、殺害予告や個人情報の暴露などTwitterがルールを定めるまでもなくアウトな違法行為は別として、差別発言や暴力の示唆にどうやって線引きをするか。
実際に事件を起こした犯人であってもたいていは正義のためと思っている以上、明確な線引きは難しく、規制をしてもしなくても特定の争点について支持するユーザー、反対するユーザーの両方から「手ぬるい、恣意的に見逃している」「何の問題もないのに凍結された、特定派閥を利する政治利用だ」と非難される立場です。
Twitterとしては基準を示し説明責任を果たす意味から、いわゆるヘイトスピーチが社会に与える影響の専門家を雇うなど「何が有害な発言として規制されるべきか」の取り組みを延々と続けてきました。
アカウント凍結については、ルールが複雑で境界例の解釈は難しいこと、ポリシー自体が不定期に改訂されること、膨大な数のアカウントに対処するため機械的手段や通報を用いることからいわゆる「誤BAN」もあり、誤判定そのもの以上に回復手段の不透明性さが不満を呼び、現在に続くTwitter不信とイーロン・マスク歓迎の背景になっている部分もあります。
一方でイーロン・マスクは、Twitterが言論のプラットフォームである以上、何が許容されて何が消されるかの判定を一社が専断すべきではない、明確な違法行為を除きどのような発言でも残しておくべきとの主張です。(特に一貫した明確な立場があるわけではなく、買収の前後やその時々で変わる発言から骨子をまとめれば、ですが)。
今回の「恩赦」では、凍結を解除されたアカウントから、明確に違法行為ではないとしても従来のTwitterルール的にはアウトなヘイト発言が再び増えることが予測されます。
こうした発言への対処については、イーロン・マスクはTwitterのCEOに就任後しばらくしてから、「ネガティブ発言」やヘイト発言について「表現の自由はリーチの自由ではない」と新たな立場を表明しました。削除はしないもののランク付けを最下位にして発言が拡散しないよう、多くのユーザーに届かないようにし、特定の発言を意図的に探さなければ見つからない状態にする、これは一般のインターネットと同じであると説明しています。
要は旧Twitterが特定のユーザーから非難されていた「シャドウバン」的に、あるいはTwitterの用語でいえば「ランク付け」を通じて、ツイートはできるもののアルゴリズム的には広く伝わらず、見つけづらく、拡散もしない状態に置く処置です。
(アカウントごとではなく発言ごとの判断としていますが、具体的な基準や体制についてはまだ分かっていません)。
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一方で、Twitter がヘイト発言などの規制を通じて「安全な」環境づくりに努力してきた背景には、収益源の大半を占める広告主がブランドの毀損を嫌い、ヘイト発言の飛び交う環境には出稿を控えることもあります。
イーロン・マスクの体制の新Twitterでは、広告主に頼らない収益源を求めて新Twitter Blue有料プランを導入したものの、無審査で「認証バッジ」が手に入ることを悪用したなりすましが激増し、わずか2日ほどで受付を停止した事案もありました。こうしたできごとを受け、大手広告代理店が出稿の一時停止をクライアントに勧告するなど、ただでさえ広告主との関係が難しくなっている環境です。
イーロン・マスク的には「リーチの自由」を認めず問題発言は個別判断でシャドウバンすることが、ヘイト発言の拡散を抑止しつつ言論の自由を守る着地点と考えているようですが、隙あらばSNSやインターネットサービスの提供者を規制したがる各国の当局や、ブランドイメージを最優先する広告主もそれで良しと考えるとは限りません。
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