かつて世界一の大富豪だったイーロン・マスク氏が買収後のTwitterは、有料プラン「Blue」を悪用したなりすましが横行したり、それを危惧した業界トップの代理店が広告主に出稿を控えるよう勧告したり、今なお広告が主要な収入源である中では厳しい財政状況にあります。
巨大な鳥のロゴを含む本社備品を売りに出して資金調達に奔走しているなか、マスク氏はTwitter株を自らが購入したのと同額で買う投資家を探していると報じられています。
海外ニュースメディアSemaforの情報筋によれば、マスク氏の資産を管理するジャレッド・バーチャル氏が投資家らにコンタクトを取り、マスク氏が10月に同社を非公開化するために支払ったのと同じ一株あたり54.2ドルでTwitterの株式売却を提案したとのことです。バーチャル氏はなかなか表舞台に出ないことから「無口な右腕」と呼ばれている人物。
バーチャル氏は投資家向けに「ここ数週間で、Twitterに投資したいとの多くの要望が寄せられている」とメールしているとのこと。テスラの株主であるロス・ガーバー氏も、Twitterの新たな資金調達ラウンドにつき連絡を受けたことを認めています。
ただしガーバー氏は、検討はしているものの「彼(マスク氏)はTwitterで価値を創造したとも、破壊したとも言える。現時点では判断しかねる」と述べており、今後の計画を提示されるまで保留することを示唆しています。
たしかにマスク氏がTwitterのCEOとして行ってきたことを振り返ると、まず「Twitter Blue」で8ドルと引き換えに配った認証バッジにより有名人や企業のなりすましアカウントが横行、大量リストラした後に「激烈ハードコアに働くかクビ」を突きつけると従業員がさらに離脱、世界最大手の広告代理店からはブランドの安全性に高いリスクと判定。
さらに12月中旬現在も、マスク氏の自家用ジェットを追跡するアカウントの凍結や、それを報じた著名ジャーナリストも警告なしに凍結にしたりと、どちらかと言えば価値の「破壊」に繋がりうる材料が次々と投入されています。
その一方でTwitterは買収により債務が130億ドルも増えており、年間約10億ドルの利息を支払う見通しです。マスク氏も35.8億ドル相当のテスラ株を手放したばかりですが、それはTwitterの債務に充当するためとの推測もありました。
株式の価格についていえば、マスク氏自身も、Twitterに1株54.2ドルを出したのは支払いすぎだと認めていました。しかしその価格も、多くの大手広告主が離れたと報じられる前の企業価値に基づいていたはず。同額で出資を集めるには、出資者に今後の成長を確信させる必要があります。
一方で、マスク氏は広告収入に依存したビジネスモデルからの転換を図っています。サービスの今後にとって大きな脅威である、App StoreからTwitterアプリが削除される懸念も、アップルのティム・クックCEOと会談した結果ひとまずは回避したと見られています。
再起動した有料プラン「Blue」は、iOS版アプリ内課金では11ドルに値上げしたものの、マスク氏に賛同するユーザーや、自分のリプライを優先表示させたいユーザーが大量に加入すればもうひとつの収入源となる可能性もあります。
また広告についても、認証済みの企業アカウントには区別しやすい金色のバッジを用意したことで、ブランド毀損のリスクを低減する対策を打ちました。
そうした新機軸による「価値の創造」が「破壊」を上回ると判断されれば、投資家らも1株54.2ドルで先を争って資金を投じるのかもしれません。