昨年末、MS-22ソユーズで発生した冷却水漏れのため、この船で国際宇宙ステーション(ISS)へやって来た3人の宇宙飛行士の地球への帰還が難しくなっています。
NASAは、いまISSで緊急の事態が発生した場合に、Crew-5ミッションでドッキング中のSpaceX Crew Dragon宇宙船へ、他のミッションのクルーを一部搭乗させる可能性があると発表しました。
通常、飛行士たちはISSに乗ってきた宇宙船をそのまま帰還にも使用します。しかし、その船の安全性が損なわれた状態のMS-22ミッションクルーは、いま現在、安全に帰還できる船が ありません。もしもISSからの緊急避難が必要になった場合、問題が発生したソユーズで地上に帰還しなければなりませんが、おそらく3人が乗ったソユーズは大気圏に再突入した際に船内を涼しく保つことができず、サウナのような状態に陥ることが予想されます。
この事態に対し、ロシアの宇宙機関Roscosmosは、次のMS-23ミッションのクルーとともに3月打ち上げ予定だったMS-23ソユーズの打ち上げ予定を2月26日に前倒しし、MS-22クルーの帰還のため無人で打ち上げると発表しています。
ただし、もし代替のソユーズが来る前にISSで緊急避難が必要な事態が生じた場合にどう対応するかは、方針が定まっていませんでした。
Crew Dragon宇宙船には、乗ってきた4人のクルー用の座席があります。しかしCrew Dragonはもともとは上部デッキに4人、下部デッキに3人の最大7人まで搭乗できる設計となっており、ISSへ向かうCrew Dragonは下部デッキの座席を取り外して貨物スペースにしています。1月25日の記者会見でNASAは、いまISSで緊急避難の必要が生じた場合は、下部デッキの貨物スペースのひとつを座席に復元して、MS-22ミッションクルーのうち米国のフランク・ルビオ飛行士搭乗させて帰還可能であることを確認したと述べました。
なお、残りのMS-22クルーであるロシアのセルゲイ・プロコピエフ飛行士およびドミトリー・ペテリン飛行士は従来のMS-22ソユーズで地上へ帰還させる方針であるとのことです。
MS-22ソユーズは、もちろん冷却系の問題がありますが、乗員が1人減ることで船内の温度上昇をいくらか抑えられるとのことです。NASAのISSプログラムマネージャー、ジョエル・モンタルバノ氏はあくまで緊急時のみの対応と前置きしつつ「われわれの意図はMS-22ソユーズ内の熱負荷を減らすことであり、ルビオ飛行士をソユーズから外すことで、人が発する熱負荷の1/3を除外できる」と説明しています。
この決定に先立ち、NASAとSpaceXはCrew-5 Crew Dragonの乗員が1名増えても問題ないことを検討の結果問題なしとしています。さらにNASAの商業クループログラムマネージャーのスティーブ・スティッチ氏は「必要になれば、貨物スペースにさらに2人のクルーを収容することもできる」と述べています。
なお、ソユーズの冷却水漏れは飛来した微細な隕石の衝突によってラジエーター部に穴があいたことが原因とされます。Crew Dragonにも当然ながらこのような微細隕石が当たる可能性はあるものの、スティッチ氏は「推進剤タンクなどの重要なシステムの周りには、環境に対して一定のシールドを持つようにその機体を設計している」と述べています。
今回発表されたクルーの配分に関する計画は無人の帰還用ソユーズが到着するまでの、あくまで緊急時のみのことであり、実行に移される可能性は低いと考えられます。それでも、関係者は代替のソユーズがISSに到着するまでは、最悪の場合を含め可能性あるあらゆるシナリオに備えたいと強調しています。