アップルが Apple TV+オリジナルの映画『テトリス』の配信を開始しました。
映画『テトリス』は空から巨大なブロックが降ってくる不条理パニックムービー……ではなく、ゲームボーイ版テトリス発売前夜の1980年代末を舞台に、ライセンス獲得のため単身ソビエト連邦に乗り込んだヘンク・ロジャースの冒険を『キングスマン』のタロン・エガートンが演じる「事実に基づいたフィクション」作品。
テトリスといえば、ブロックが落ちてくる「落ち物」パズルの始祖。多数のシリーズ作品やスピンオフ、フォロワーを生み、世界で数億本を売り上げた人気ゲームです。
特に1989年に登場した任天堂のゲームボーイでは、本体に同梱もされたキラータイトルとして世界累計約3500万本を出荷。本体の普及を牽引し、携帯ゲーム機市場における任天堂の覇権確立に貢献しました。
一方、テトリスはゲーム会社が開発した作品ではなく、ソビエト連邦時代のロシア政府機関職員だったアレクセイ・パジトノフが作者であったことから当初は権利関係が複雑で、複数の会社がPC版や家庭用ゲーム機版を販売したり、アーケード版をヒットさせたセガが自社の家庭用ゲーム機メガドライブ版を生産したものの直前で差し止めになったのはよく知られる話です。
映画『テトリス』の主人公は、日本のゲーム会社BPSの社長ヘンク・ロジャース。ファミコン版やPC版のテトリスを出していた、『ザ・ブラックオニキス』のあのBPSです。
ビジネスマンがゲームのライセンス交渉をする話はあまり映画向きに思えませんが、ロジャースが任天堂と交渉し、自社の命運を賭けたライセンス獲得競争のため単身ソビエト連邦に乗り込み原作者パジトノフと会い、ロシアの官僚機構を相手にしたのは実際にあったできごと。
当時はソビエト連邦が崩壊する直前で、国が潰れる前にこのテトリスの認可でうまく立ち回り、西側の金を懐に入れて逃げ切ろうと画策するソビエト政府高官の登場で物語は緊迫したスリラーになります。
ロジャースが直談判する相手として当時の任天堂社長 山内溥(演:伊川東吾)、北米そして世界で任天堂を成功させた立役者のニンテンドーオブアメリカ(NOA)社長 荒川實 (演:山村憲之介)、法務担当副社長で後のNOA会長ハワード・リンカーン(演:ベン・マイルズ)、政府に翻弄される純朴な学者然としたアレクセイ・パジトノフ(演:ニキータ・エフレモフ)など、ゲーム史上の著名人が次々と登場するのもゲーマーには楽しめる点。
考証的な意味では一見して笑ってしまうところ、突っ込まざるを得ないところもあり、特に後半、不思議の国ソビエトの大冒険編は、映画的な盛り上がりのためほとんどファンタジー。とはいえドキュメンタリーではなくあくまで「事実を元にした~」フィクションなので、間違い探しを忘れて楽しもうとしたほうが心安らかに観られます。