ここしばらく米国防総省、通称ペンタゴンの機密文書が流出し、ネット掲示板の4chanや複数のDiscordサーバーで出回っています。なかには日々の業務報告やウクライナ軍の位置に関する機密情報のほか、なぜかテーブルトークRPGのキャラクターシートと思しき手書きのメモも混ざっていました。
ペンタゴンからの情報流出は過去にもいくつか例があり、古くは米国のベトナム戦争への関与につき政府に不都合な分析も書かれたペンタゴン・ペーパーズ(スピルバーグが2017年に映画化)が思い出されるところです。数年前にも、ロシアによるサイバー攻撃の一部を書いた極秘文書をNSA(米国家安全保障局)から持ち出した請負企業の契約社員もいました。
今回のリーク資料は複数の経路があるうち、マインクラフトのDiscordサーバーにアップロードされたものです。32枚の画像入りZipファイルには、ウクライナ戦争に関するトップシークレットの機密文書と並んで、TRPGのキャラクターシートと思しき手書きの紙が含まれていました。罫線入りで横に3つの穴が開けられていて、どうやらルーズリーフ用紙のようです。
キャラクター名はドクター「イズマー・トロツキー」、キャラクタークラスは「教授の科学者」。体力は5、カリスマは4で、所持金は19ルーブル。ほか技能は応急処置とオカルトが10点、目星(Spot Hidden)が24点。そして虫眼鏡や万年筆、仕込み杖やデリンジャー(護身拳銃)を持っています。このシートは激戦地バフムト付近のウクライナ軍の配置と一緒に、ファイルに入っていたそうです。
これらの写真からはすべてメタデータ(撮影日時や位置情報など)は取り除かれており、もちろん撮影者やプレイヤーなどの情報は一切分かっていません。また、他の機密文書のファイル名はIMG_1328.jpgやIMG_1329.jpgと連番になっている一方で、キャラクターシートはIMG_9695.jpgと番号が飛んでおり、わざとジョークで混入された可能性もありそうです。
では、一体何のゲームなのか? 米Motherboardが「Kult」や「Vampire: the Masquerade」を手がけたゲームデザイナーに連絡を取ったところ、「Call Of Cthulhu」つまり『クトゥルフの呼び声』ではないかとの答が返ってきました。
『クトゥルフの呼び声』は、米ケイオシアム社が1981年に初版を発売したTRPGです。同社の『ルーンクエスト』などの基本システムを踏襲しつつ、独自のルールとして「正気度(SAN値)」という概念があり。おぞましい邪神や眷属を相手にするだけに、ショッキングな出来事があるたびサイコロを振ってSANチェックを行い、SAN値が減るとしだいに正気を失っていきます。
上記デザイナーがキャラクターシートを見たところ、かなり古典的な教授のビルドだと診断。しかしデリンジャーや短剣を持っていながら、銃器や戦闘スキルにポイントを振っていないため、武器を投げるのが精一杯だろうと鑑定されています。
が、さらに調査を進めたところ、キャラクターシートには本作の肝である「SAN値」や「運」のステータスがありません。しかも『クトゥルフの呼び声』キャラにしてはスキル値が低すぎて、道を渡ることさえできないようです。
これらを総合した結果、本作は『クトゥルフの呼び声』と人気ゲーム『Fallout』の公式TRPGを組み合わせた自作だと結論づけられています。
元ネタの『Fallout』は核戦争によって荒廃した世界を舞台としている一方で、『クトゥルフの呼び声』は人間の正気を試すものです。この自作ゲーム開発者が本当にペンタゴンに所属しているとすれば、ロシアが一方的に始めた悲惨なウクライナ戦争に何か思うところがあったのかもしれません。