シンガポール国立大学の研究者が、本物そっくりな見た目と味だと主張する植物ベースの「イカリング」を作り出したと発表しました。
本物に近い味と食感を備える100%植物ベースのハンバーグなどは、すでにレストランのメニューに加えられたり、スーパーマーケットに並び始めたりしていますが、植物ベースの偽シーフード食品をみつけるのはまだ難しい状態です。しかし、近年では魚介類の乱獲による個体数の減少、海洋生態系への影響が問題化しつつあり、持続可能な代替シーフードの開発は、生態系保護への有効な手立てと考えられます。
魚介類の模造食品としてはカニかまぼこのようなものが思い浮かぶところですが、これは白身魚のすり身から作られており、栄養素の面でも模倣対象の食材を代替するものではありません。しかも味や食感と栄養素の面でも完全に元の食材の代わりになる、植物性の代替シーフードを作ることは、これまで難しいと考えられていました。
米国化学会(ACS)のイベントACS Fall 2023でこの研究を発表したシンガポール国立大学のPoornima Vijayan氏は、「将来的にはシーフード供給が非常に限られる可能性がある」と考えており「特にシンガポールでは魚の90%以上が輸入されている都合上、代替タンパク質の観点からも備えを用意しておかなければならない」と述べています。
研究リームのリーダーであるDejian Huang氏は「本物のシーフードと栄養的に同等またはそれ以上のタンパク質を備える製品を作りたいと考え、また食品の持続可能性に対処できるものを作りたいと考えた」結果、将来の商業展開の可能性も含めて、今回のイカリング開発に至ったと説明しています。また、ここへたどり着くまでに、赤いレンズマメに由来するタンパク質を利用した代替サーモンや代替エビなども、食品用3Dプリント機器による試作を行っていると述べました。
今回のイカリングを開発するにあたっては、高プロテインを備える持続可能な植物由来の原料として、マイクロアルジェ(微細藻類)とリョクトウ(緑豆)の組み合わせが使われています。植物性プランクトンの一種であるマイクロアルジェには魚くささと言えるような独特の香りがあり、イカリングの風味を出すのに適しているのだそう。またもやしの種であるリョクトウは春雨の原料としても知られています。
研究者はこの2つの原料から取り出したタンパク質をオメガ3脂肪酸を含む植物性オイルと練り合わせてペースト状にし、栄養素の面でもイカリングに匹敵するものに仕上げたとしています。このペーストを加熱しつつ3Dプリンターで成形、衣をつけてフライヤーで揚げると、本物のイカリングに食感も似たものができあがります。
なお、研究者はすでにこのイカリングを実際に試食し、満足できるものだと感じているものの、一般の人々に提供する前にさらに微調整をしたいと考えています。Vijayan氏は、「目標は、商業的に利用可能なイカリングとしての食感と歯ごたえを得ることです。そのために、いまは成分が製品の歯ごたえや最終的な食感の特性にどう影響するかをまだ調べているところです」としました。さらに、2つの原料がシーフードアレルギーを持つ人が食べても問題ないかについても確認する予定だとのこと。
ただ、まだ商品化までにこなすべき作業はたくさんあるとしつつも、Vijayan氏はこの100%植物性イカリングが「人々から好評を得られるだろうと考えている」と述べました。また今後もいろいろな植物性シーフードを試作し、大規模な製造に向けたものができるかを評価していく予定だとしています。
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