深宇宙への有人宇宙探査は、飛行士が長期的な勃起不全を患うリスクを高める可能性があることが、ラットを使った新たな研究でわかったと報告されています。
現在、航空宇宙業界では月基地や月軌道プラットフォームゲートウェイの建設、そして火星などを目指す深宇宙への有人宇宙探査に関心が高まっています。また2023年5月には、同時に宇宙に滞在している飛行士の数が、初めて20人に達しました。
しかし、将来訪れるであろう長期にわたる有人ミッションが、飛行士の身体にどんな影響を与えるのかはまだ十分にわかっていません。研究者らは、深宇宙を目指す飛行士に関し、脳や免疫系、間接、細胞などさまざまな分野で起こりうる影響を調べています。
アメリカ実験生物学協会連合(FASEB)のジャーナルに掲載された新たな研究によると、模擬的に宇宙飛行状態を再現した環境に晒されたオスのラットは、1年以上の回復期間を経たあとでも、通常環境だけで過ごしてきたラットに対して勃起不全のリスクが高いことがわかりました。
宇宙放射線と微小重力は、さまざまな点で人体に悪影響を及ぼします。たとえば体内における酸化ストレスと内皮機能障害もその影響の一部ですが、男性の場合、それらは勃起不全に関連する要因とされています。NASAの宇宙放射線研究所で行われたこの実験は、86匹のラットを6つのグループに分け、4週間にわたって宇宙放射線の曝露レベルを変化させたり(または一定のままで)、後ろ足の負荷を軽減して微重力環境をシミュレートしたりして行われました。
その後、ラットの陰茎血管と海綿体などについて調べ、組織が薬物や電気刺激に反応して収縮する能力や、その場における一酸化窒素(NO)代謝物のレベルが測定されました。NOは、血管内皮において主に平滑筋を弛緩させ、陰茎海綿体への血流を増加させるために生成され、陰茎の血管緊張を調節し、勃起を促進する重要な役割を果たしています。
実験の結果、比較的低い量の宇宙放射線への曝露は、その後長期間の回復期間を経ても、血管の反応性が低下したままであることがわかりました。これはつまり、長期にわたる深宇宙探査から地球に帰還した後の宇宙飛行士においては、その後の残りの性的健康期間を通じて、勃起組織の神経血管機能が損なわれる可能性があることを示しているとのことです。
研究者は「この研究結果は、宇宙飛行士が地球に帰還する際に、性的健康を注意深くモニターすべきであることを示している」と述べています。ただ実験では、抗酸化物質による海綿体組織の急性治療が、放射線に曝露されたラットの弛緩反応を改善することもわかったと研究者は述べており、宇宙環境によって治りの悪い勃起不全の症状が出たとしても、治療ができる余地はまだありそうです。
ちなみに、確かに研究者の実験では宇宙放射線や微重力状態がEDを引き起こす可能性が確認されはしましたが、無重力状態では人の身体に逆の効果も現れるかもしれません。2014年のMen's Health誌のインタビューで、3度のスペースシャトルミッションの経験を持つ元宇宙飛行士マイク・マレーン氏は「無重力では体内の水分が均等に再配置されるためか、ふくらはぎや太もも、ウェストが細くなる一方で、上半身がむくみ気味になる」と述べつつ、本人いわく「目覚めたときには何度か、股間がクリプトナイトを貫通できそうなぐらいギンギンになった」のだそう。クリプトナイトの硬度がどれぐらいかはわかりませんが、なんだかとんでもないことにはなりそうです。