アイロボットジャパンは2024年4月17日、吸引掃除と水拭き掃除を行える「Roomba Combo(ルンバコンボ)」シリーズのエントリーモデル「Roomba Combo Essential robot」(直販価格3万9300円)を発表しました。
Roomba Combo Essential robotは独自のフロアトラッキングセンサーによる「スマートナビゲーション」機能を搭載するモデル。
ダストケースの水タンクに水を入れ、ダストケースに「パッドプレート」と「モップパッド」を取り付けることで吸引掃除と水拭き掃除が同時にできる製品です。
最近のロボット掃除機は高価格化が進んでいます。背景としては、LiDAR(Light Detection And Ranging:光による検知と測距)センサーもしくはカメラを用いて間取りと自機位置の把握を同時に行う「SLAM(Simultaneous Localization And Mapping)ナビゲーション」や、本体のダストケースのゴミを紙パックなどに吸引する「ゴミ収集ステーション」、「モップパッド自動洗浄・乾燥・給水機能」など高度な機能の搭載がトレンドとなっていることがあります。
そんななか、新製品の Roomba Combo Essential robotは、こうした機能を一切搭載していません。あえてEssential(本質的)な機能を見直してそれに集中することで価格を抑え、ロボット掃除機のさらなる普及を目指す戦略的モデルの位置付けです。
機能的には、本体右側にある「エッジクリーニングブラシ」でゴミをかき取りながら、毛とゴムを組み合わせた「V字型シングルアクションブラシ」で「パワフルな吸引」を行い、「マイクロファイバーモップパッド」で水拭きするという「4段階クリーニングシステム」を採用します。
上位モデルのようなSLAM機能は搭載していないものの、「フロアトラッキングセンサー」でマウスの光学センサーのように縦横の動きを検知して簡易的なマッピングを行い、自機位置を推定しながら効率的に動き回るナビゲーション機能も搭載しています。
ただし上位モデルのように進入禁止エリアを設定する機能、進入禁止ラインを設定できる従来モデル向けの「バーチャルウォール」にも搭載していません。あくまでも掃除に必要な機能に特化したのが特徴です。
発表会で挽野社長は、米アイロボットのルンバシリーズと床拭きロボット「ブラーバ」シリーズの累計販売台数が世界で5000万台を突破したことと、日本国内での同シリーズの累計出荷台数が600万台を突破し、自社ロボット掃除機の全国世帯普及率が10%を達成したと発表しました。
挽野社長は「世帯普及率が10%を超えると一気に加速して普及する傾向にあるため、まず普及率10%という目標を掲げました」と語りました。
「2024年はキャズムを超えていく非常に大事な年で、アイロボットだけでなくロボット掃除機市場全体を盛り上げていく必要があります。ここで一番重要になるのが普及価格帯の製品の投入ではないかと思っています。私たちは市場全体の拡大を狙う製品を投入し、すべての家庭にロボット掃除機がある時代を目指します」(挽野社長)
既視感はあるものの「ルンバ」であることと「サブスク」が普及拡大への鍵か
先述したように、ロボット掃除機のトレンドはかなり技術的に進んでおり、モップパッドを付け替えることで吸引掃除と水拭き掃除を同時に行えるというのは4~5年前のトレンドという感があります。
また、AnkerやBeijing Roborock Technology、エコバックス、SwitchBotなどメーカーであれば2in1ロボット掃除機は3万円台までいくつもラインアップされています。3万9300円はアイロボットジャパンとしては戦略的価格ではあるものの、それらのメーカーの製品と比べてしまうと、それほどすごさを感じられるわけではありません。
そこはやはりブランド力のある「ルンバ(アイロボットジャパン)」が、「3万円台」で吸引掃除と水拭き掃除が可能な「2in1ロボット掃除機」を出すというところに一定の価値があるのかもしれません。
アーリーアダプターが飛びつく時期からアーリーマジョリティが買う時期に移行すると、購入者の価値基準も変わってきます。ダイソンがコードレススティック掃除機市場をけん引してたものの、本格普及期に入った数年前からは軽量化を徹底的に追求したシャープや日立などの国内メーカーが注目されるようになりました。
ロボット掃除機市場は「ルンバ VS. 中国メーカー」という図式がある中で、ハイエンドの全体的なトレンドとしては中国メーカーはすべてを自動化する方向に向かっており、「ルンバ劣勢」という感は否めません。
しかし「ルンバi2というエントリーモデルは今でも日本で一番売れているロボット掃除機として堅持しています」と挽野社長が自信を見せるように、ルンバシリーズの認知度は高く、人気もあります。ここで2in1タイプのエントリーモデルを発売することで、さらに市場を盛り上げていこうという狙いなのでしょう。
もう1つの強みが「サブスク」です。Roomba Combo Essential robotの直販価格は3万9300円ですが、アイロボット公式サブスクリプションサービス「ロボットスマートプラン+」では月額1480円で提供されます。
3年間支払うと自分のものになるという仕組みで、半年ごとに初月料金から5%値引きされるため、3年間の支払総額は4万7064円になります。一括購入よりも2割ほど割高になりますが、1カ月だけ試してみて必要ないと思ったら無料で返却できるため、1480円だけで“お試し”が可能です。
自分の家のライフスタイルに合うか心配という人でも縛りがなくお試しができることで、消費者の心理的ハードルを下げているというわけです。
より便利に掃除してくれる2種類の2in1モデルも発表
アイロボットジャパンはエントリーモデルである Roomba Combo Essential robotと同時に、2in1ロボット掃除機の新モデル2機種を発表しました。
前面にカメラを内蔵し、靴下やリュックサック、ペットの糞など80種類の障害物を認識して回避する「Precision Visionナビゲーション」機能を搭載するプレミアムモデル「ルンバコンボ j5+」(直販価格10万8700円)と、フロアトラッキングセンサーを用いた簡易ナビゲーション機能を搭載するスタンダードモデル「ルンバコンボ i5+」(7万9000円)です。どちらも本体内ダストケースのゴミを収集するクリーンベースが付属します。
2モデルがユニークなのは、ダストケースを交換することで「吸引掃除のみ」と「吸引掃除+水拭き掃除」の2種類の掃除スタイルを選べる「交換式2in1モデル」な点です。
吸引掃除用のダストケースを付けている場合は掃除終了後にダストケースのゴミをクリーンベースに収集しますが、吸引+水拭き掃除用のダストケースの場合は収集を行いません。水タンクに残った水と、ダストケースのゴミを捨てる必要があります。
ルンバシリーズのクリーンベースは本体下部からゴミを収集するスタイルになっており、モップパッドを取り付けたまま収集するためにはモップパッドに大きな穴を開ける必要がありました。「大きな設計変更を行わずに、皆様の納得がいく形で水拭き掃除ができるようなったと思います」とアイロボットジャパン 製品&戦略開発担当ディレクターの山内洋氏は語っていました。
ダストケースを交換するのは面倒な気もしますが、数日から1週間に1回程度水拭き掃除も行いたいという人には納得しやすい方法なのかもしれません。
「ルンバコンボ J5+は前の機種のルンバ J7+の発売当初の価格12万9800円より2万円以上お求めやすい価格になっています。同様にルンバコンボ i5+も、前の機種のルンバi5+は8万9800円でした。こちらも床拭きに対応して1万円以上価格が下がるという形で戦略的な価格になっています」(山内氏)
ちなみにサブスクも用意されており、ルンバ j5+(直販価格10万9800円)は月額4480円で、3年間の支払総額は14万2464円です。ルンバ i5+(同7万9800円)は発売時点でサブスクは用意されていないようです。
中国メーカーの2in1モデルが勢いを増す中で、ロボット掃除機の元祖と言えるルンバシリーズはどのように消費者の心をつかんでいくのか。今後の市場の動きも興味深いところです。