Adobe MAXの華、驚きの新技術・2024年の「Sneaks」をチェック(西田宗千佳)

テクノロジー AI
西田宗千佳

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フリーライター/ジャーナリスト

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1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。

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今年も、Adobeの年次イベント「Adobe MAX 2024」の取材に来ている。例年は米ロサンゼルス開催だったが、今年は米国東側のマイアミビーチでの開催である。

アドビは多数の新技術を常に開発しているが、それを先出しして見せるのが「Sneaks」。Adobe MAX公式イベントの最後に行われ、会場がお祭り騒ぎで盛り上がる。

▲Adobe MAXのハイライト、Sneaks会場

▲毎回有名人がやってくるが、今年はラッパーで女優(日本だと『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のケイティ役が有名)のオークワフィナ(写真左)がゲストに

Sneaksはアドビ内で開発中の技術を先行公開するものだが、すべてが製品に組み込まれると決まっているわけではない。製品への導入判断には、Sneaksでの盛り上がりも加味される。

今年もSneaksでの発表について現地での盛り上がりを含めて、特に気になる5つの技術をご紹介したい。


機能紹介のビデオはあえて、現地で撮影しているものを編集してお届けする。画面の文字は読みづらいし、人の頭も少し写り込んでいる。必要な部分を拡大したビデオなのでブレもある。でもなぜこの形でビデオをシェアするのかといえば、「その場の盛り上がり」も感じてほしいからだ。その方が楽しい。

ぜひビデオの音声を「オン」にしてお楽しみいただきたい。

全編の動画はアドビ公式サイトで視聴できる。

来年2025年2月にはAdobe MAX「Japan」が開催されるが、次のSneaksはそこで行われることも発表されている。こちらも楽しみだ。

▲来年2月開催の「Adobe MAX Japan」でもSneaksの開催が決定

■邪魔な光を消していく「Project Clean Machine」

まず紹介するのは「Project Clean Machine」。簡単にいえば、動画に映り込んだ邪魔なものを消す機能だ。

夜空を撮影中にフラッシュで明るくなってしまったシーンがある……というパターンはあるだろう。花火の光でロマンティックなシーンがイマイチな絵面になることもある。

そういう「動画の一貫性を削ぐ」要素を見つけ出してきれいにするのがこの機能。光を消すだけでなく、カメラの前を横切った人の影をなくすことも可能だ。

▲Project Clean Machineで、フラッシュの写り込みがきれいに消える

▲じゃまな花火の光もすっきりと

▲人が前を横切ったシーン(左側)も右側のようにクリーンに

■モーショングラフィックスをもっと手軽にする「Project In Motion」

次は「Project In Motion」。これも目的はシンプル。文字などを絡めたアニメーションである、モーショングラフィックスを簡単にクオリティ高く作るものだ。

まず、シェイプのアニメーション。これもすごいがまだ序の口。

▲ロゴなどから文字へと変化するアニメーションが簡単に作れるが、これは入り口

さらにそこから動画としてのテイストを生成AIで作る。プロンプトを指定したり、テイストとなる画像を読み込ませたりすると、それにあった質感のモーショングラフィックスになる。

▲油彩や水彩などのテイストを指定してアニメーション化

さらに、深度データを持つ動画を読み込ませてやり、そこにプロンプトで「カラーペイントをぶちまけた感じ」などと指定すると、そうしたテイストの3Dイメージ的な動画にもなる。

▲3Dアニメーション的テイストで作ることも

従来なら1つ1つのモーショングラフィックス制作は手間がかかったが、作りたい方向性さえ決まれば、その先はAIがサポートしてくれる……という考え方だ。

■効果音を「生成」する「Project Super Sonic」

動画にとって、映像と同様に音も重要な要素だ。だが、生成AIで「映像を作る」話は盛り上がっても、「リアルな音を簡単に作る」ことにはなかなか注目が集まらない。

「Project Super Sonic」はまさにその部分をカバーするものだ。

シンプルなやり方は、動画に合わせて「小川が流れる森」といったプロンプト・テキストで指示する方法だ。これでもかなりリアルな動画が完成する。また、画像から別の映像を生成するように、動画に含まれる内容とプロンプトを連動して生成もできる。

▲映像に合わせてリアルな効果音を生成

動画作成の世界では、いわゆる「仮音」として、人が効果音をまねて録音することも多い。そこからの発想として、声で吹き込んだ「仮音」+プロンプトで効果音も作れる。今回の例では、モンスターの鳴き声や羽ばたき音を「ブオーン」という感じで口で再現して録音、それを生成AIにかけると、ちゃんとリアルな「モンスターの鳴き声」が生まれていた。これは確かに簡単で便利だ。

▲モンスターの鳴き声を「人の声」で仮に入れ、その声を元にリアルな効果音を生成

■自然に写真をなじませる「Project Perfect Blend」

写真を切り貼りして合成するのは簡単なことだ。だが、それを「自然になじませる」にはかなりのテクニックがいる。通常はソフト上でなんとかしようとするより、「合成後のことを考えて素材を撮影する」方が近道だったりもする。

とはいえ、適切な素材の用意はままならないもの。そこで注目なのが「Project Perfect Blend」だ。

この技術は、背景となる画像を選ぶと、そのテイストに合わせて合成する「人の画像」の側の色合いやライティングを変えてくれる。

▲普通の写真を用意して機能を呼び出すだけで、背景に「なじんだ」写真が生まれる

正面からプロジェクターなどの光が重なっているような写真であっても、また、逆光で顔が全然見えないような写真であっても大丈夫だ。

▲正面から別の光が重なってしまった写真だって利用できる

▲逆光で顔が見えづらい写真ですら「使える」写真へ加工

そのため、ライティングなどがバラバラな大量の写真を用意したとしても、まとめて「なじませる」ことで統一感のあるポスターが作れてしまったりするわけだ。

▲ライティングがバラバラで出来の悪いコラージュのような状態が、Project Perfect Blendの力で映画のポスターに早変わり

■平面画像もくるくる回せる「Project Turntable」

平面で横から描いたイラストがあるとする。それはそれでいいのだが、別のイラストと組み合わせて作品にしようとすると「向きが合わない」ことも多い。普通は、そのテイストで「別の方向から描いたイラスト」を発注することになるだろう。これはなかなか大変だ。

ならば、イラストを「厚みも立体感もある3Dデータ」にしてしまえばどうだろう? もともと平面だったイラストが、まるでターンテーブルに乗っているように回せれば、「向きが合わない問題」は解決だ。

もちろん、2DかつIllustratorのようなベクターデータで作られたイラストを「3Dのようにくるくる回せる」ようにするのはとても大変なことだ。

だがそれをいとも容易く実現するのが「Project Turntable」である。

これは実際に見るとなかなかの驚きだ。平面が違和感なく、ワンタッチで立体感のある画像になり、スライダーで動かして角度を変えられる。

▲横を向いていてなにか変な騎士のイラストが、描きなおすことなくドラゴンに向き合う

オブジェクトは縦にも横にも回せる。まさに「平面のベクターデータが、自然と立体になった」ような感覚だ。

▲オブジェクトは好きな方向に回せる

▲向きがバラバラなイラストを「回しつつ」組み合わせて、目的に合った「対決している」イラストを作り上げてしまった

イラストには「平面のウソ」がある。それが立体化されて「回る」時にどうなるのか、ちょっと気になる部分はある。

とはいえこれが実用的に使えるのならば、イラストレーターや漫画家、アニメーターの手間が一気に減っていきそうだ。


《西田宗千佳》

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