1週間の気になる生成AI技術・研究をいくつかピックアップして解説する連載「生成AIウィークリー」から、特に興味深いAI技術や研究にスポットライトを当てる生成AIクローズアップ。
今回は、世界初のAIチャットボット「ELIZA」(イライザ)を60年ぶりに復活させた「ELIZA Reanimated: The world’s first chatbot restored on the world’s first time sharing system」に注目します。
▲ELIZAの例(Wikipediaから引用)
1960年代初頭にMITの教授ジョセフ・ワイゼンバウム氏が開発したELIZAは、一般的に世界初のチャットボットとして知られています。MAD-SLIPというプログラミング言語で開発され、世界初の時分割システム(タイムシェアリングシステム)であるCTSS(Compatible Time-Sharing System)上のIBM 7094コンピュータで動作していました。
2021年、MITのアーカイブでワイゼンバウム氏の資料の中から、オリジナルのELIZAのプリントアウト、DOCTORスクリプト(ELIZAがカウンセラーとして会話するためのルール)の初期バージョン、ほぼ完全なMAD-SLIPコードなどを発見しました。
研究チームは、この60年前のプログラムを現代によみがえらせる挑戦を始めました。まず、当時のIBM 7094コンピュータをエミュレートし、その上でCTSSを動作させる環境を整えました。古いプログラムの解読は困難を極め、文字認識ソフトでは正確に読み取れないため、手作業での入力が必要でした。
プログラムには欠落した関数があり、それらを新たに実装する必要がありました。また、CTSSシステムやコンパイラの制限に対応するための工夫や、コード内の1文字の入力ミスを修正するなど、様々な調整作業が必要でした。
そして2024年12月21日、ついにELIZAは60年以上ぶりに会話を再開することに成功しました。「男はみんな同じよ」という入力に対して、「どんなふうに?」と応答するなど、1966年の論文で紹介された会話をほぼ完全に再現できました。
▲2024年12月21日に、第一著者がチームの他のメンバーへ、ELIZAがCTSSで再稼働したことを告げた内容
復元作業では、60年前のコードの解読や不足している機能の補完、エミュレータスタックのインストールとデバッグなど、多くの課題がありました。しかし2024年12月21日、ついにELIZAは60年以上ぶりに会話を再開することができました。
発見されたコードには「教師モード」という機能も含まれており、ユーザーがELIZAに新しい応答パターンを教えることができます。この機能は1966年の論文では簡単に触れられているだけでしたが、実際には完全に実装されていたことが判明しました。
研究チームは、数値入力を正しく処理できないというバグも発見しましたが、プログラムの歴史的価値を保つため、最小限の修正に留めています。
開発されたスタック全体はオープンソース化されており、LinuxやmacOSなどUNIX系OSのユーザーであれば誰でも世界初の時分割システム上で世界初のチャットボットを実行できるようになっています。
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