英国で、総勢1000人の音楽アーティストが集い「無音のアルバム」を制作、公開しました。
英国政府は現在、IT企業を国内に誘致することを狙い、AIトレーニングデータとして著作物を使用する際に著作権者の許可を得る必要となくす法改正を進めようとしています。もし、この改正案が正式に採用~施行されれば、AI企業は自社のAIモデルの強化学習用データとして、許可を得ることも、著作権者に支払いをすることもなく、楽曲を使用できるようになるため、このアルバムはアーティストからの抗議の意思を表明するものとなっています。
この改正案は、AI企業からすれば非常に魅力的かもしれません。しかし一方で、音楽アーティストが権利を主張するためには、事前に自らの作品をAIのトレーニングデータに提供しない意志を示す、つまりオプトアウトする必要があり、権利者よりも著作権物を使用する側のほうが有利な仕組みなっていることが物議を醸しています。
数週間前には、英BBCのインタビューに答えた元ビートルズのポール・マッカートニーがこの法案は音楽アーティストの収益を損ね、創造意欲を失わせる可能性もあると指摘しました。この意見にはやはり英国音楽会の重鎮エルトン・ジョンも支持を表明したほか、音楽プロデューサーでオーディション番組の仕掛け人/審査員としても知られるサイモン・コーウェルも、英Daily Mail紙への寄稿で反対の意見を表明しています。
そして2月24日月曜日、1000人を超える数の、英国の音楽アーティストがプレスリリースを発行し、この法改正案に対する抗議の行動として「Is This What We Want? (これが私たちの望むことか?)」というアルバムをリリースすると発表しました。参加ミュージシャンとして名前が確認できるだけでも、元Eurythmicsのアニー・レノックスや、Radioheadのギタリストであるエド・オブライエン、パンクバンドのThe Clash、日本では特に「ヴァーチャル・インサニティ」のPVで有名なJamiroquai、映画音楽界の巨匠ハンス・ジマー、幻想的なパフォーマンスで後続に影響を与えたケイト・ブッシュ、ユスフ(以前はキャット・スティーヴンスと名乗り、Mr.Bigやマキシ・プリーストなどがカヴァーした楽曲ワイルド・ワールドで知られる)、映画『サウンド・オブ・メタル』の主演で知られるリズ・アーメッド(本職はラッパー)、オペラ歌手のニッキー・スペンスなどなど著名なアーティストを始め、スタジオ・ミュージシャンや作詞家、作曲家、指揮者、プロデューサー、グラミー賞、アカデミー賞、ブリット・アワードなどの受賞者も含まれているとのことです。
このアルバムに収録される曲名はすべてひとつの単語で記されており、それだけでは意味がわからないものもありますが、この曲名を1曲目からつなげてひとつの文にすると、「The British government must not legalise music theft to benefit AI companies(英国政府はAI企業を儲けさせるために音楽の盗用を合法化してはならない)」というメッセージになっています。
1,000 UK Artistsのアルバム「Is This What We Want? 」は、冒頭で無音のアルバムと紹介しましたが、実際には音楽が含まれていないだけで、だれかがガサゴソとなにかをしている様子がうかがえる環境ノイズが収録されています。興味を持たれた方は、Spotifyなど主要な音楽ストリーミングサービスで配信されているので、試しに聴いてみてはいかがでしょうか。
ちなみにこのアルバムはSpotifyで販売もされており、収益はすべて現役ミュージシャンと引退ミュージシャンの両方を支援する英国の慈善団体Help Musiciansに寄付されるとのことですが、日本の環境からでは販売ページは見当たりませんでした。参加ミュージシャンとグループの完全なリストは1,000 UK Artistsの公式ウェブページで確認できます。
¥17,280
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)