オレゴン州立大学およびそのスピンアウト企業Agility Roboticsが開発するロボット「Cassie」が、100m走でギネス世界記録を樹立しました。記録は24.73秒。小学校に上がりたての子どもぐらいのタイムですが、2足歩行のロボットのなかでは世界一だということです。
Cassieの外観は、鳥足でしかも2本の足とそれをつなぐ腰だけという、なかなか妖怪チックなデザインのロボット。まるで日本の都市伝説で語られる「テケテケ」や「肘駆けババア」のようです(いずれも手や肘で高速で駆けてくる妖怪ですが)。このCassieもロボット界では誰にも負けない俊足で、今回の記録の他にも、2021年には5kmをバッテリー交換なしで完走、53分という記録を打ち立てています。
Cassieはその開発に国防高等研究計画局(DARPA)が100万ドルの助成金を出しています。最近のロボットがよく採用しているカメラや外部センサーを使わずにバランスを取って歩行するため、やや不安定でまるで目が見えないような歩き方ですが、機械学習によって屋外の起伏ある地形でもきちんと歩くことが可能です。
今回のギネスへの挑戦に取り組んだ大学院生のデヴィン・クロウリー氏は「私たちはこれまで数年間、この記録のためにロボットの理解を深めてきました」「5kmを完走するためには、信頼性と持久力を鍛える必要がありました。そして今度は、Cassieはどのくらいの速さで走れるのかという疑問が残り、スピードにフォーカスを移すことにしました」と述べています。
そしてチームは、二足歩行ロボットが最も効果的に走り方を学ぶために設計された1年分のシミュレーションによるAIトレーニングを1週間で叩き込みました。ところがギネスのロボット100m走の規定では、立った状態からスタートし、ゴールしてからも立った状態に戻ることが記録認定の条件になっており、意外なことにこれがCassieにとって最も手強いルールだったとのこと。
このルールをクリアするためにCassieは「速く走るため」のニューラルネットワークに加え、「立った状態で静止するため」のニューラルネットワークを鍛えて、両方の状態をスムーズに移行できるようにしました。
人工知能の教授であるアラン・ファーン氏は「飛行機の操縦が、それを飛ばすより離着陸させるほうが難しいのと同じで、ロボットは立った状態からの走り始めと立ち止まるのが、走っている段階よりも難しい。この100m走の結果は、ハードウェアデザインと、そのハードウェアを制御する高度な人工知能との間の深いコラボレーションがあって始めて達成されました」と述べました。
なお、ギネスワールドレコーズは、拘束で移動するロボットによる記録は他にもあると指摘しているものの、Agility Roboticsの最高技術責任者(CTO)でオレゴン州立大学のロボット工学教授ジョナサン・ハースト氏はギネス認定が「流れを変える出来事」だと表現しています。