SNSの黎明期から、記者としてネットと人の関わりを追い続けてきた岡田有花さんが、必ずしもメインストリームではないものの、興味深いSNSの世界を紹介していきます。
「mixi」(ミクシィ)というワードを聞いて、むずがゆいような恥ずかしいような気持ちになる30代以上は少なくないかもしれません。
mixiは、2000年代中盤に大流行したSNS。「mixi日記」を書き、友だちのページに「足あと」を残して訪問しあい、ソーシャルゲーム「サンシャイン牧場」で夜通し遊んだ……そんな思い出を持つ中年も多いでしょう。私もその一人です。
今でもサービスは続いていますが、流行当時の勢いは失われ、一部の人が使うSNSに落ち着いています。
そんなmixiで一時代を築いた会社、ミクシィがいま、ある分野で、日本ナンバーワンのSNSを確立しているのをご存じでしょうか?
パパ・ママの2人に1人が使う“育児写真SNS”
それは育児の分野です。ミクシィの育児写真共有アプリ「みてね」は、小さい子を育てている人の間では有名です。
SNSといっても、Twitterなどのように、見知らぬ人とつながる機能はありません。家族や親戚限定でつながる“小さなSNS”なのです。
親が「みてね」に子どもの写真をアップすると、おじいちゃんやおばあちゃん、おじさん、おばさんの「みてね」から見てもらえる――そんなサービスです。
リリースは2015年。ミクシィ創業者(現在は取締役)の笠原健治さんが、自身のお子さんの写真を親戚と共有したいと考え、ミクシィの新規事業として取り組みました。公開当初は、笠原さん自らが公園でビラを配るなど、地道にプロモーションしたそうです。
その後、口コミなどで徐々に広がり、2022年8月時点でのユーザー数は1500万人。現在は、日本国内でパパ・ママの2人に1人が使うサービスになっており、海外でも利用が広がっています。
「足あと」機能も
みてね誕生と同じ2015年、筆者にも第一子が生まれました。その日から筆者も、みてねを利用しています。
筆者がみてねに写真や動画をアップロードすると、遠隔地に住むおじいちゃん・おばあちゃん(筆者の父母)が写真を見たり、コメントを残したりしてくれます。
mixiの「足あと」に似た機能もあります。最終ログイン時間を示す「みたよ履歴」機能です。例えば、親が3時間前に写真をアップロードし、1時間前におばあちゃんがログインしていたら、「最新の写真をおばあちゃんが見てくれたんだな」とわかります。
筆者は核家族。実家は遠く、近隣に頼れる親戚もいません。さらにここ2年はコロナ禍で、長く実家に帰ることができませんでした。
そんな時でも「みてね」に写真をアップすれば、子ども達の成長記録を、自分の親(子供のおじいちゃん・おばあちゃん)に密に共有でき、「みたよ履歴」を通じて親が静かに見守ってくれていることを実感できました。毎日、子ども達の写真をたくさん撮ろう、というモチベーションにもなりました。
振り返りやすい成長記録
今、筆者の「みてね」は、長男と長女2人の出生時からのかわいい写真が詰まっています。写真は年ごとや月ごとに見ることもでき、「長男が3歳のとき」「長女が生まれたてのとき」など、タイミングを選んですぐに見ることができます。撮影日は「○歳○カ月」と年齢・月齢でも確認でき、成長記録として振り返りやすく作られています。
「みてね」は無料で利用できますが、筆者は、月額480円のプレミアムサービスを利用しています。プレミアムユーザーは、動画を最大10分(無料だと3分)までアップでき、PCから写真のアップロードもできます。
無料範囲内だと、保育園の発表会の演目の動画をフルでアップすることができませんが、プレミアムの10分あれば十分です。デジカメでたくさん写真を撮り、別のクラウドストレージにもアップする筆者のような家庭には、PCアップロードは必須機能。手頃な料金でよく考えられた課金体系だなと思います。
アップした写真を紙のアルバムに出力する有料サービスや、出張撮影サービスなど、関連の有料サービスも充実しています。これらのサービスを筆者は使ったことがありませんが、親戚に紙の写真を渡したいというユーザーや、記念日にプロの写真を残したい人に好評なようです。
SNSといえば、TwitterやInstagram、Facebookといった、グローバルで、見知らぬ人ともつながれるサービスをイメージしがちです。そこには、炎上だったり嫉妬だったり、負の感情もしばしば生まれます。
その裏で日本には、SNS黎明期に隆盛を誇ったミクシィが生み出した、家族という小さな単位のための、写真・動画とコメントだけというSNSが静かに普及しています。炎上や嫉妬をしそうな人とは元からつながらない、小さな子供の成長を喜んでくれる親族だけで見守る温かいSNSが、たくさんの人々の生活に根付いて利用されているのです。