AmazonがAlexa関連部門でレイオフ?音声アシスタントに未来はあるか(西田宗千佳)

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西田宗千佳

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フリーライター/ジャーナリスト

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1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。

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アメリカのテック業界でレイオフが広がっている。


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その中で、Amazonも「Alexa」が不採算だとして、関連事業でレイオフを行うとの報道もあった。

また同じようなタイミングで、日本ではLINEが独自の音声アシスタント「CLOVA」を使った家庭向けスマートスピーカーについて、10月末で販売を終了し、2023年3月30日に稼働を停止する、と発表した

▲サービス終了後はただのBluetoothスピーカーと化すCLOVA

この話が重なったことで「音声アシスタントはもうダメなのか」という反応がきかれるようになってきた。「実際あまり使っていない」という反応も耳にする。

ただ、報道の解釈には誤解もあり、音声アシスタント自体がなくなるわけではない。

では、現在の音声アシスタントの位置付けはどうなっているのか。改めて少しまとめてみたいと思う。


※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2022年11月21日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。コンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もあります。



AmazonやLINEの音声アシスタントはどうなったのか

まずAmazonのレイオフ報道について。実際、Alexaに関する人員のレイオフは行われたようだ。だが、AmazonがAlexa事業を止めるというわけでもなく、Alexa関連スタッフだけがレイオフされた、という話ではない。

Alexaの不採算報道では「50億ドルのマイナスがある」とされているが、これはAlexa自身の負債ではない。New York Timesの報道で、米Amazonの広報担当ブラッド・グラッサー氏のコメントとして「デバイス事業についてはここ数年で約50億ドルもの営業損失を出している」とされたのが1つのソースだ。

すなわち、Amazonのデバイス部門全体の話であり、Alexaそのものの話とはちょっと違うのだ。

この点で他社とAmazonが違うのは、前号でも説明したが「Amazonはハードで大きな利益を確保しない」ビジネス形態であるからだ。収益はAmazon Prime会費や通販の売り上げなど、Amazon全体の収益でまとめて考えるようになっている。だから直接的な赤字が出るのは必然なのである。

一方で、いつまでもこの体制が続けられるのかはわからない、という部分がある。また、同じハードでも売れるものとそうでないものがあるので、「売れづらい」「他部門も含め収益につなげづらい」ものは見直しの対象になるのかもしれない。

Alexa自身も機能が変わっていくかもしれないが、別になくなることはないし、スマートスピーカー事業が急速にシュリンクすることもないだろう。

CLOVAについても、個人向けのビジネスが終わることと、音声アシスタント自体がなくなることはイコールではない。

CLOVAが登場したのは2017年。Alexaが日本語対応したのと同じタイミングである。

音声アシスタントを大手プラットフォーマーが打ち出した時期であり、LINEとしてもそれらに対抗し「日本により強い音声アシスタントには市場がある」と思ったようだ。

だが、コンシューマー向けにスマートスピーカーを売るには、継続的なハード開発も必要になった。AmazonやGoogleは低価格製品を出して競争したものの、その2社についていくのはなかなか厳しいものだ。

CLOVAだけでなく、マイクロソフトも同じように個人向けスマートスピーカーを展開していたのだが、こちらもうまくいかなかった。LINEだから失敗したというより、「AmazonとGoogle以外、スマートスピーカーでは成功できなかった(ただし中国国内を除く)」というべきなのだろう。

LINEは2019年くらいからはもう個人向けには見切りをつけ、電話応対などの「ビジネス向け」にリソースを集中している。現在もビジネス向けは堅調。今年の8月からは、「ソフトバンク カスタマーサポート」でLINEのCLOVAが使われるようになっている。グループ内での活用をビジネスのショーケースにも使おう……という施策である。

意外と使われている音声アシスタント

では、音声アシスタントは本当に有効に使われているのか。

これは「価値が広がった領域もあれば、そうでない部分もある」と考えている。

例えばAmazonは、音楽サービスを軸にスマートスピーカーを展開した。Alexaを組み込んだ「Echo」シリーズが売れるまで、Amazonの音楽サービスはアメリカでも日本でも、そこまで大きなシェアを確保できていなかった。

だが、スマートスピーカーであるEchoでBGM的に音楽を流すために、Echoと連携する音楽サービスとして、Amazonのサービスは利用が拡大する方向にある。

▲Alexaを搭載したサードパーティ製品にはオーディオ関連が多い

同様に、スマートホーム機器を呼び出すことには広く使われている。「リモコンの方が速いのでは」と思う人もいそうだが、むしろ「リモコンを手にしていない時にちょっと使える」のが便利だな、と思う。家を出る時に消し忘れたリビングの照明やエアコンを消す、みたいな時が一番使いやすい。

ただ、その活用の幅が各メーカーの想定ほど拡大しているか、というとそうではないと思う。それは、スマートホーム自体の設定の難しさや、対応機器のバリエーションの少なさが原因だろう。

ようやく統一規格「Matter」が生まれたので、その点には変化が生まれる可能性はある。2023年以降、スマートホーム採用機器が増えてくるので、どう使い勝手が変わるのか、注目しておく必要はある。

ただ、ことアメリカについては、スマートホーム分野でも「セキュリティ」向けのニーズが伸びている。音声応答などのためにスマートスピーカーや画面付きの「スマートディスプレイ」が必要になるため、ホームセキュリティ+音声アシスタント機器、というセットは増えている。

日本、特にIT機器の普及が早い都市部の場合、マンションなどには勝手にホームセキュリティ機器がつけられない。そのため普及しづらい側面があるのだが、地方の一軒家なら環境的にはアメリカに近くなっていくので、認知が広がれば変わってくるかもしれない。

「自然言語を理解する」能力の進化はどうなるのか

メーカーが思っているより伸びていない部分として「ボイスコマース」がある。音声で通販を注文したり、ケータリングやレストランなどを予約するのに使ったり、という形だ。

「Amazonが音声アシスタントを開発するということは、そこからショッピングを拡大していくのだ」と言われていた。実際、毎回買う消耗品の注文などでボイスコマースは使われているのだが、「ウェブを開く代わりに音声で注文」するようにはなっていない。

結局それは、音声アシスタントが決まりきったコマンドへの対応はできるようになっていても、ショッピングのような「密で自然なコミュニケーションを必要とするもの」にはまだ向いていない、ということでもある。

音声アシスタント技術は、「声を認識して文字に変える部分」と、「自然な話し言葉に近い文章を解釈して、適切な命令に変える部分」に分けられる。前者はかなり進化したが、後者はまだまだやるべきことがある。英語はかなり先行して改善されている部分があるが、日本語はまだまだ。そうした印象から「音声アシスタントは今ひとつ」という印象につながっているのかもしれない。

だが、「声を認識して文字に変える部分」の進化と、ビジネス用途などの「決まった内容に答える技術」の進化によって、電話応対などのB2B用途、家電の起動などにはかなり使いやすくなってきた。ただ問題は、「使えるように設定する」ことが必須であり、その難しさがハードルの高さに見えている、というとことがある。

そう考えると、自然言語の処理を行うAIの進化が次のブレイクスルーであり、その点はまだいろいろとコストをかけねばならない部分だと思う。そこをカットして、ここまでの投資を無駄にする経営者は少ないのではないか、というのが筆者の考えである。

ただし、現状ではデータを持つ大手が、お金をかけてプラットフォームを構築しないとなかなか成功できない。LINEが音声アシスタントのコンシューマー市場から退場し、AmazonとGoogleとアップルだけが残っているのは、プラットフォームの中立性の面では監視が必要な部分かと思う。

もしかすると、音声アシスタントが「非競争領域」になって、プラットフォーマーから安価に、多くの企業に提供されるものになる……というのが一つの解決策なのかもしれない。

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《西田宗千佳》
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