米国のSF/ファンタジー誌「Clarkesworld Magazine」は作家からオンラインで寄稿された作品を掲載していますが、現在は作品の投稿システムを一時的に閉鎖しています。編集長のニール・クラーク氏はその理由として、AIによって生成された文章の投稿量が手に負えなくなったためであると自身のブログで説明しました。
Clarkesworld Magazineは2006年の創刊以来、SF小説やグラフィック作品およびその掲載誌、編集者に贈られるヒューゴー賞のうち、セミプロジン部門や編集者部門で複数回の受賞歴を持つオンライン誌。クラーク氏はブログの中で盗作とAI生成文を同列に捉えたうえで投稿禁止処置の発生件数について触れ、これまで一時的に増加することはあってもすぐに減少し、その絶対数も少なかったことに対して、2022年末ごろから再び増加に転じて、それ以後も増え続けていると述べています。
投稿禁止処置件数の増加はAIチャットボットが世間に広く注目され始めた時期と一致しており、2022年12月には50件程度だった処置件数は2023年1月に100件を超え、2月に入るとさらに増加して、ブログを投稿した15日時点で350件に迫っています。これは月間投稿数の38%にあたる数値であり、ブログ投稿から5日後、20日の段階では500件を超えたことが報告されました。
クラーク氏は正当な投稿作品とAI生成文を見分ける方法については「対策」を避ける目的で具体的に述べていませんが「非常に明白なパターンがいくつかある」としています。ただし技術の進歩に伴ってAI生成文を見分けるのはより困難になっていき、もしこのまま有効な対策を見つけられなければ事態はより複雑化し、業界はいずれ厳しい状況に追い込まれるだろうとの見解も明らかにしました。
Clarkesworld Magazineの投稿作品提出ガイドラインでは現在、制作過程でAIが一部でも関与した作品を認めていません。この基準は同誌が募集しているフィクション、ノンフィクション、アートワークのすべてに適用されています。クラーク氏は投稿システムについて再開する意向を示していますが、現在はAI生成文スパム問題の渦中にあり、現状では対策の目処も立っていないことから、再開時期は明言できない状況です。
AI生成のコンテンツにまつわるトラブルはプログラミングコードや画像生成などでも発生しており、訴訟に発展している事例では、AI企業が開発したAIの学習データに著作物が含まれていることなどが争点として挙げられています。新技術の活用に既存社会との摩擦はつきものですが、こと創造的な領域においては、AIを新しい時代の筆とみなすか、巧妙な盗作者とみなすかは議論の尽きることがなさそうです。