「すみません、よくわかりません」から卒業? GoogleアシスタントがGeminiに(Google Tales)

テクノロジー AI
佐藤由紀子

IT系海外速報を書いたり、翻訳を請け負ったりしています。初めてのスマートフォンはHTC Desire。その後はNexus 5からずっとGoogleさんオリジナルモデルを使っています。

特集

2016年のGoogle I/Oで、初のスマートスピーカー「Google Home」と共に発表された「Googleアシスタント」ですが、そろそろお別れの時が来たようです。

▲Googleアシスタントを紹介するピチャイCEO


当時は「AIが日常生活にやってきた」と感じたものの、ちょっと複雑なことを尋ねると「すみません、よくわかりません」という返事なことが多くて、現在の生成AIとは比較にならないものでした。

それでも、自宅のNestシリーズのスマートディスプレイとGoogleアシスタントは私の日常生活に浸透していて、明日の天気や見ているテレビに出てきた気になるワードについて尋ねたりしています。

▲テレビを見ながらGoogleアシスタントに質問


いよいよ「さよなら、Googleアシスタント」

Googleは3月14日、「Googleアシスタント」を「Gemini」に置き換える計画を本格的に進めると発表しました。既に「Pixel 9」シリーズでは初期設定でアシスタントがGeminiになっており(Googleアシスタントに戻せる機能あり)、年内にはモバイル端末では、一部の例外(後述)を除き、Googleアシスタントは完全に姿を消す見込みです。この決定は、GoogleがAI技術の中心を従来のタスク指向型AIから、生成AIへと大きくシフトさせることを示唆しています。

さらに、タブレット、自動車、ヘッドフォン、スマートウォッチといったモバイル関連デバイスに加え、Nestシリーズのスピーカーやディスプレイ、Android TVなどのスマートホームデバイスを含む、Googleのエコシステム内の幅広いデバイスで、段階的にGoogleアシスタントがGeminiか、Gemini的な何かに置き換わっていくことが発表されています。ただし、搭載RAMが2GB以下のデバイスでは、現時点ではGoogleアシスタントのままだそうです(Geminiをデバイス側で稼働させるにはRAMが2GBでは苦しいから、らしい)。

ちょっと歴史を振り返る:音声アシスタントの黎明

Googleアシスタントの終焉は、音声アシスタントの歴史における一つの転換点と言えます。その歴史を振り返ると、1960年代のIBM Shoeboxや1970年代のCarnegie Mellon UniversityのHarpyといった初期の研究開発を経て、2010年代に入り、Siri、Alexa、Googleアシスタントが登場し、日常生活に浸透し始めました。

AppleのSiriは2011年に「iPhone 4S」と共にデビューし、「Intelligent Personal Assistant」として紹介されました。次に、Amazonが2014年11月に「Amazon Echo」とAlexaを発表し、スマートスピーカーという新たな市場を創出しました。そして2016年、GoogleがGoogleアシスタントを発表し、この分野に本格的に参入。Appleがスマートスピーカー市場に参入したのは2017年で、Siriが「HomePod」に搭載されました。

▲初代Amazon Echo。ずいぶん背が高かったんですね

GoogleアシスタントとGeminiの違い

GoogleアシスタントとGeminiの最も大きな違いは、基盤となるAI技術にあります。Googleアシスタントは、自然言語処理と音声認識技術に基づくシンプルなAIでしたが、Geminiは“生成(generative)”AIです。大まかに言えば、Googleアシスタントのような従来のAIは、特定のタスクに特化した能力しか持たず、質問に答えるとそれで終わりで、会話が続くことはありません。一方、Geminiは、学習した膨大なデータに基づいて新しいコンテンツを生み出せるので、質問の答えに対してさらに質問を重ねたり、普通の会話をしたりできます。

さらに、Geminiはいわゆるマルチモーダルな質問と回答も可能です。例えば、Googleアシスタントに「神谷浩史って誰」と尋ねると、一通りのプロフィールを紹介してくれて、それで終わり。一方、Geminiであれば、その質問に続けて「写真を見せて」と言うと、「神谷浩史さんの写真ですね。いくつかご紹介します」と言って写真を見せてくれ、さらに「声優以外の仕事もしてる?」など、追加の質問を続けられます。

さらに、同じGoogleアカウントで使っているGoogleのアプリ(マップ、メール、ドキュメントなど)と直接連携して対応してくれる点も大きな進化です。例えば、「図書室ボランティアの今後の予定をまとめて」とお願いれば、Gmailで複数の関連メールを探し出して、内容を時系列にリストアップしてくれます。要件を完結に書く人もいれば、楽しい余談をたくさん書く人もいるので、これは助かります。ただし、筆者の体験では、期待通りに機能しないこともまだよくあります(予定が抜けていたり、過去の日付が入っていたり)。でも、これが問題なく使えるようになれば結構便利だと思います。

AlexaとSiriの近況

Amazonは2月に、Alexaの後継アシスタント「Alexa+」を発表しました。Geminiとは異なり、こちらは有料(プライム会員は無料)となる予定です。Alexa+は、より自然な会話能力を持ち、ユーザーの好みを記憶し、より複雑なタスクを実行できるという触れ込み。既存のEchoシリーズでも利用可能にするため、処理はAmazonのクラウド上にあるAmazon Bedrockで行われる予定です。

▲呼び名は「Alexa」のままなんだろうと思います

この移行に伴い、Alexaに話しかけた音声の録音をクラウドに送信しない機能のサポートを3月28日に終了するという発表があり、プライバシーに関する懸念が浮上しています。Amazonは過去に、こうした録音を中の人が聞いていたことが判明し、騒ぎになった経緯があるのです。

Appleは、2024年のWWDCで「Apple Intelligence」の発表と共に、Siriの高度な機能を1年以内に展開していくとしていましたが、3月初旬には「思ったより時間がかかっていて、来年(2026年)には展開できるかな」という関係者の発言が報じられました。少なくとも「iPhone 17」(仮)には間に合わない可能性が高いようです。Siriの高度な機能は、デバイス上での処理とクラウドでの処理を組み合わせることで、プライバシー保護に配慮したAI体験を提供することを目指しています。それだけに、実現にはまだ時間を要するようです。

▲2025年6月にはこうした機能が少なくとも米国で使えるようになるはずでしたが……

アシスタントとしてのGeminiのこれから

アシスタントとしてのGeminiを実際に使ってみると、詳しい分、説明が長く感じることがあります。テキストであれば問題ありませんが、音声で長々と説明されると、「もういいです」と感じてしまう。画面から音声の再生を一時停止することはできますが、初期設定で音声読み上げをオフにする項目は、今のところないようです。今後の改善に期待しつつ、都度フィードバックしています。

▲音声読み上げを停止するにはここをタップ

改善が進み、「Project Astra」にも対応すれば、Geminiはさらに便利になる可能性があります。周囲の気になるものがあったら、スマートフォンの電源ボタン長押ししてGeminiを起動してカメラを向けながら「これは何?」などと尋ねれば教えてくれるようになります。既にGoogleレンズで近いことは可能ですが、もっとステップが減らせるし、会話を続けられます。

GoogleアシスタントやAlexa、Siriなどの従来のアシスタントから生成AIアシスタントへの移行には、技術的な問題だけでなく、コストやプライバシーに関連する問題も山積していますが、それでも、あと数年したら、誰もがアシスタントと日常会話をする世界が訪れそうです。

ところで、AppleはSiri、AmazonはAlexaと、それぞれアシスタントに名前があり、呼びかけにも使われています。Googleはこれまでは「OK(またはねえ)、Google」と呼ばせていましたが、Geminiになるのだから「OK、Gemini」にして欲しいところ。

実際、Googleが「Hey, Gemini」を試しているというもあります。

でも、英語では「じぇみない」、日本語では「じぇみに」(日本のGoogleが「じぇみに」を公式にしました)になっているので、英語では「OK、じぇみない」、日本語では「OK、じぇみに」で対応させなくちゃならなそう。これではAIに学習させるのが大変そうなので、GoogleアシスタントはGeminiになっても「OK、ぐーぐる」のままなんじゃないかなぁと思います。

《佐藤由紀子》

佐藤由紀子

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