米国の伝説的スタンダップコメディアン、ジョージ・カーリンの声をAIで模倣して製作された1時間のYouTube番組に対し、カーリンの娘は「偉大な米国人アーティストの業績を盗んだ」として、遺産管理団体を通じて著作権侵害とパブリシティ権侵害の訴訟を起こしました。
ジョージ・カーリンと言えば、放送禁止用語を連発しつつ米国の教育制度や政治などを痛烈に批判するネタで人気を博し、マーク・トウェイン賞受賞歴もある著名なスタンダップコメディアン。
『きかんしゃトーマス』の米国版で第1~4シーズンまでナレーションを担当し、その『トーマス』をひとつのコーナーとして放送していた米国の子供向け番組『Shining Time Station』では、ザ・ビートルズのリンゴ・スターが演じたミスター・コンダクター役を引き継ぐなど、幅広い世代に人気を博しましたが、2008年に心不全でこの世を去っています。
そのカーリンの特徴的な声を模倣するよう強化されたAIを使い、まるで彼のスタンダップコメディを収録したような音声にAI生成画像を交えて構成された、約1時間の番組『George Carlin: I'm Glad I'm Dead』は、2024年1月10日にYouTubeチャンネルDudesyで公開されました。
主にポッドキャストを配信するDudesyは、コメディアンのウィル・サッソと脚本家のチャド・カルトジェンによって運営されています。カルトジェンは、カーリン模倣AIの番組について語るポッドキャストエピソードの中で「AIはジョージ・カーリンの代わりにはならないし、私や私の相棒のチャドの代わりにもならないことがわかった」としつつ「人々がこれに関してどれぐらい騒ぎ立てるかは興味深い」と語っています。
また、これまでにもカーリンの声をAIで模倣した動画などはあったものの、彼らの番組がなぜ騒ぎになっているのかについて、他の人たちはカーリンの声をそっくりに真似できることを示すだけだったのに対して、独演会のようにネタを披露させ、カーリンの芸術も模倣したことが注目されたとの見解を示しました。
カーリンの娘であるケリー・カーリンは、訴訟におけるコメントで、「私ももっと父と一緒にいたいと思います。しかし、彼がAIで「復活」したなどと宣言するのは馬鹿げたことです」「あの動画のジョージ・カーリンは、一時代を築き、愛情を持って私を育ててくれた素晴らしい人物ではありません。この番組は父がファンの方々と築き上げた特別な芸風を悪用しようと、不謹慎な人たちが作った粗悪な模造品です」と述べています。
カーリンの遺産管理団体はNBC Newsに「カーリンは自らの技を極めることに人生を捧げたが、数人のポッドキャスターと謎のAIが『George Carlin: I'm Glad I'm Dead』なる番組を許可なくYoutubeに投稿した」と述べています。さらに「被告らがAIで生成したカーリンのスペシャル番組は創作ではない。コンピューターで生成したクリックベイトであり、カーリンのコメディ作品の価値を損ない、評判を傷つけるものだ。これは偉大なアメリカ人芸術家の作品をカジュアルに盗用したものだ」と主張しました。
ちなみに、YouTubeのコメント欄には好意的な書き込みも見られるものの、物まねの達人として知られる俳優ジム・メスキメンは、AIによるカーリンの番組についてNPRに対し「私が見聞きしたものはどれも面白くなかった」と述べ「それは単にAIが冗談を言い、自分で笑い、自分で拍手をしているようなものだ」とコメントしています。