世界気象機関(WMO)は1月12日、2023年の地球の年間平均気温は産業革命以前の水準より1.5℃高く、観測史上最も暖かい年だったと発表しました。
1.5℃の上昇と言われても、われわれの感覚的にはさほど大きな変化ではないように思えます。しかし、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された新たな研究では、気候が温暖化し続けることで、木々が「呼吸困難」に陥りつつあるとし、樹木がもはや人類の二酸化炭素(CO2)排出量を相殺するための解決策として役に立たなくなる可能性があることが報告されています。
この研究の筆頭著者で、ペンシルバニア州立大学地球科学助教授であるマックス・ロイド氏は「温暖でより乾燥した気候の木々は、もはや呼吸というよりは咳をしているような状態であることが分かった」と述べ「涼しく湿潤な環境にある樹木よりもはるかに多くのCO2を大気中に吐き出している」と説明しています。
植物は、光合成のプロセスを利用し、大気からCO2を吸収して炭素として蓄え成長するとともに、酸素を大気中に戻します。ところが、環境的にストレスの高い条件下では、植物は代謝機能を光合成から光呼吸と呼ばれるプロセスに変え、酸素を消費してCO2を大気中に放出するようになります。
特に、光呼吸は高温環境に晒されると促進されることが知られていますが、研究チームは、温暖かつ水が限られている場合には、光呼吸の速度が最大2倍に高まることを確認したと報告しました。
研究者らは、日中の平均気温約20℃を超えると加速し始め、気温がさらに上昇すると大きく悪化するとしています。そして、温暖化が進めば、植物が大気中からCO2を取り込み、炭素を固定化する能力が低下する可能性があると指摘しています。
ロイド氏は「われわれはこの重要なサイクルのバランスを崩してしまった」「植物と気候は切っても切れない関係にある。大気中のCO2を最も多く吸収しているのは光合成を行う生物であり、光合成は大気の組成に大きな影響を与えるので、この小さな変化が大きな影響を与えることになる」と説明しています。
米国エネルギー省(DoE)は、植物は人間の活動によって排出される二酸化炭素を、年間で推定25%吸収していると報告していますが、温暖化が進行し、特に水が不足するようになれば、この割合が減少する可能性が高いとロイド氏は説明しています。
1990年代以降、世界中で地球温暖化防止やCO2排出削減が叫ばれるようになりました。ゴミの分別、レジ袋の有料化、割箸添付の廃止、プラスチックから紙ストローへの変更などもその理由のひとつに温暖化対策が添えられ、われわれの生活も地味に変化しています。しかしいまだに地球全体として実効的な対策効果はなかなか見えていないように思えます。今回の研究のように、樹木の有効性がどの程度影響を受けているかを理解し、広く知らせることは、現在進行中の気候問題についての私たちの理解を変えるきっかけになるかもしれません。
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