フォルダブルスマホの「Galaxy Z Fold6」「Galaxy Z Flip6」が、7月31日に発売されました。
これを記念し、サムスン電子本社からMX事業本部 開発室長(Head of Mobile R&D Office)で副社長(Executive Vice-President)のチェ・ウォンジュン氏が来日。同モデルなどに搭載される、Galaxy AIの戦略を語りました。
サムスンは「Galaxy S24」シリーズをAIスマホと位置づけ、Galaxy AIを搭載。文字起こし可能なボイスレコーダーや、音声通話の通訳機能など、これまでのモデルにない機能を多数実現しました。
Galaxy Z Fold6 / Flip6では、Galaxy AIをフォルダブルにも拡大し、ラフスケッチや写真をイラスト化する「AIスケッチ」や、Samsung Notesアプリではメモ・録音・文字起こしを同期できる機能などに対応しています。
▲下書きからイラストを生成する「AIスケッチ」。フォルダブルの大画面やSペンを生かした機能だ
フォルダブルのホームファクターを生かしたAIを採用したことで、同社はこの2機種を「折りたたみAIフォン」と称しています。
フォルダブルスマホは、競合他社の中国メーカーからも発売されるようになったほか、グーグルも「Pixel Fold」を投入し、競争が激化しています。
このような環境の中、「サムスンがリードした折りたたみ体験をGalaxy AIで一歩前進させ、24年もフォルダブルで首位を維持する」(チェ氏)としており、AIによる体験で差別化を図っていく方針です。
チェ氏はGalaxy AIを「AIの民主化」と語り、「多くのユーザーにGalaxy AIを使っていただけるようにするのが、その方向性」だとしています。
実際、Galaxy S24シリーズにGalaxy AIを搭載したあと、22年モデルの「Galaxy S22」シリーズや、23年モデルの「Galaxy S23」シリーズ、さらには「Galaxy Z Fold5」「Galaxy Z Flip5」にもアップデートでこの機能を搭載しています。
(▲ハイエンドモデル限定ながら、過去モデルもアップデートでGalaxy AIに対応している)
現状ではハイエンドモデル中心ですが、Galaxy AIの特徴の1つである「クラウドとオンデバイスのハイブリッドAIであること」を生かし、ミドルレンジやローエンドモデルにも拡大を図っていくといいます。
チェ氏は、「クラウドはサーバー上で動作するため、ハイエンドだけでなく、Aシリーズにも適用していけるよう、努力していく」と語っています。
(▲5月に発売された「Galaxy A55 5G」。こうしたミッドレンジモデルにも、Galaxy AIを拡大していく予定があるという)
同社は、年末までに2億台のGalaxyにGalaxy AIを導入する予定ですが、この中には、ハイエンドモデル以外の端末も含まれるようです。
文字起こしなどのオンデバイスAIを使った機能は「アプリケーションチップのパフォーマンスに依存する部分があるので、ハードウェアが許容する範囲で適用する」という制限つきではあるものの、今より広い端末にAIを広げていく可能性があるといいます。
一方で、過去モデルにも同じAIが導入されると、最新機種をどう差別化していくのかは課題になりそうです。
こうした疑問に対し、チェ氏は「新しいモデルはアプリケーションプロセッサーがさらに進化するため、それを通じて以前はできなかったAIの機能に対応できるようになる」と語っています。処理能力の高低によって、できることが変わってくるというわけです。
実際、Galaxy AIが加わったGalaxy Z Fold5 / Flip5には、壁紙生成の機能がないなど、一部に最新モデルとの差分がありました。Galaxy AIがミッドレンジモデルなどに拡大していくことで、こうした機種間の違いはさらに出てくるはず。
特にオンデバイスAIでの差が出やすいため、これまで以上に、スマホに搭載されるチップセットの重要性が増してくる可能性がありそうです。
(▲Galaxy Z Fold6の生成AIを使った壁紙作成機能。過去モデルでは、使えない機能の1つだ)
また、サムスンはオープンコラボレーションも重視しており、グーグルと共同で「かこって検索」を開発。いち早くGalaxyやPixelに搭載されることになりました。
チェ氏によると、「かこって検索はオープンコラボレーションのいい事例」とのこと。同機能は“グーグルのもの”と思われがちですが、実は「グーグルとサムスンが初期のころから協力して開発した機能」(同)だったといいます。
グーグルと共同で開発し、それがAndroidに取り込まれれば、結果として「Androidプラットフォームの競争力を高める」(同)ことにつながるからです。グーグルと協調した理由も、「iOSに対し、プレミアムなAndroidの競争力を高める共通の目的があった」(同)としています。こうした「基礎をしっかり整えるため、サムスンはグーグルと協力関係を強化し続けている」といいます。
(▲かこって検索は、サムスンとグーグルが協力して開発したという。現状、この機能を使えるのはGalaxyとPixelだけ)
他社のスマホにかこって検索が搭載されるのは、想定の範囲内。どちらかと言えば、これによってAndroid全体を底上げする狙いがあったようです。
そのうえで、One UIなど、同社が独自に開発しているソフトウェアで他社との差別化を図っていくといいます。また、Galaxyには「Samsung Notes、カレンダー、ギャラリーなどのネイティブアプリがあり、そこにAI体験を付与することで、他メーカーに対する競争力になる」(同)としています。
さらに、サムスンには「スマホだけでなく、タブレットやノートPC、Buds、Watchがあり、エコシステムの中でデバイスのAIを強化することで差別化が図れる」(同)といいます。製品単体ではなく、複数の製品を連携させることで、サムスンらしさを発揮していけるというわけです。
(▲写真は「Galaxy Watch Ultra」。スマホだけでなく、それを取り巻くエコシステムがそろっているのも、Galaxyの強みになるという)
Galaxy AIは、AIモデルにグーグルの「Gemini Pro」や「Gemini Nano」を採用していることが注目を集めましたが、オープンコラボレーションを推進していることもあり、「Gemini以外のAIモデルも活用している」(同)といいます。
日本では、NTTグループが「tsuzumi」、KDDIもELYZAを連結子会社化してLLM(大規模言語モデル)を開発していますが、サムスンがこうしたAIモデルを採用する可能性もあるといいます。
(▲日本語にも対応しているが、精度には改善の余地がある。ここで鍵になるのも、オープンコラボレーションだ)
チェ氏は「オープンコラボレーションのフィロソフィーは、最高の競争力を持った体験を提供するための最高のソリューションを作ること。競争力のあるモデルがあれば、採用を検討していく」と語り、日本語環境に強いAIを開発するため、キャリアと提携していく方向性もありうることを示唆しました。
現状では、日本語の文字起こしなどの精度がイマイチな部分もあるGalaxy AIですが、サムスン自身も「完成度を高める努力はしていく」(同)としており、今後の進化には期待が持てそうです。