2028年からF1にパワーユニット供給が決まっているGM / キャデラックが、2026年から自前のマシンを携えるチームとしてもF1に参戦すると発表しました。
キャデラックが自前でパワーユニット(PU:エンジンを含む動力ユニット)を準備できるまでの2年間は、フェラーリがこれを供給する可能性が高いとされています。フェラーリは現在、PUを供給するチームのひとつであるキック・ザウバーF1チームが、2026年からアウディのワークスチームになるため、PU供給能力に余裕が生じます。
また一部では、いまはレッドブル系2チームにPUを供給するホンダも、2026年からは供給先がアストンマーティンF1チームのみになることから、キャデラックにもPUを出す可能性があると指摘されています。規定では、F1の新規参入チームがPUを用意できない場合、供給チーム数が最も少ない既存のPUメーカーに対して、FIAが供給を指示できると定められています。
さて、F1に新チームが参戦するのは2016年以来のことになります。米国では、NetflixによるF1ドキュメンタリーシリーズ『栄光のグランプリ(Drive to Survive)』の配信をきっかけにF1が人気を博し、基本的に1国1開催を原則とするF1レース、米国では年に3度(3か所)で開催するほどの盛り上がりを見せています。
そんななかで昨年発表された、米国最大規模のレーシングチームであるアンドレッティ・グローバルとGMの提携による「アンドレッティ・キャデラック」の2025年からのF1参戦申請は、米国のみならず世界のF1ファンから注目を集めました。なお、GMはこのチームにキャデラックブランドとして新規開発のPUを開発し、2028年から供給するとしていました。
ところが、この計画はキャデラックによるPU供給の承認は得られたものの、アンドレッティ・キャデラックF1チームの参戦は、F1の商業面を司るFormura One Management(FOM)によって拒否されるという意外な結果となります。
FOMは参戦拒否の理由をいくつか説明していたものの、それらには現状と矛盾する点も多く、一部のメディアは、参加チームが増えることで、F1の収益から分配される賞金プールにおける、既存チームの取り分が目減りしてしまうのが主な原因ではないかと指摘していました。
アンドレッティ側は、新規参入チームが賞金プールの目減り分を補償するために約2億ドルを用意したとも伝えられていますが、それでは足りないと判断された可能性や、交渉の過程でアンドレッティ・グローバルのオーナー兼CEOのマイケル・アンドレッティとFOM側の関係がこじれているの可能性がうわさにあがっていました。
今年1月、FOMの決定に対して、F1参戦を諦めず準備を続けるアンドレッティチーム側は、GMとともに米国議会にこの話を持ち込み、下院司法委員会のジム・ジョーダン委員長を通じてFOMに対し反競争的行為があるのではないかと説明を求めました。さらに8月になると、この問題は米司法省による反トラスト法に関する調査に発展したことが伝えられました。
流れが大きく変わったのは9月、マイケル・アンドレッティがアンドレッティ・グローバルCEOから退き、アドバイザーとしてのみ関わることが発表されたときと考えられます。このときにはチームの経営権が投資家で保険・金融企業Group 1001のCEOを務めるダン・トウリス氏の手に渡ったことも明らかになりました。
今回の発表では、参戦年度は2026年からに改められ、参戦するチームも、TWG Globalに変更されています。モータースポーツ専門メディアThe Raceが伝えるところでは、TWG Globalはトウリス氏が主にGMからの出資によって設立し、現在はアンドレッティ・グローバルも傘下に収める企業で、そのモータースポーツ事業の一部として、F1チームを新たに結成したという建前になったとのこと。
つまり、今回のF1への参戦決定はアンドレッティではなくGM/キャデラックが主体のワークスチームとして行われ、チーム運営をマイケル・アンドレッティの関与が薄れたTWG Global(実質的にはアンドレッティ・グローバル)が担う形になったことで実現したと言えるかもしれません。GMのプレスリリースにも、マイケル・アンドレッティの名前はなく、マイケルの父で1978年のF1チャンピオンであるマリオ・アンドレッティが、TWG Globalの取締役に就任することのみが、アンドレッティ家の関与を示す記述になっています。
なお、このTWG Globalには投資会社としてグッゲンハイム・パートナーズが関わっており、各チームに分配される賞金の補償問題は解決済みと考えられます。BBCは2026年に11番目のチームが参戦するために支払う補償金は4億5000万ドルに上昇すると報じました。