1週間の気になる生成AI技術・研究をいくつかピックアップして解説する連載「生成AIウィークリー」から、特に興味深いAI技術や研究にスポットライトを当てる生成AIクローズアップ。
今回は、中国の南京大学やドイツのMax Planck Institute for the Science of Lightに所属する研究者らが、AIシステムを用いて量子もつれの新しい生成方法を発見した論文「Entangling Independent Particles by Path Identity」に注目します。
量子もつれとは、2つ以上の粒子が互いに関係し合って1つの量子状態を形成し、それらの粒子がどんなに離れていても一方の状態を測定すると瞬時に他方の状態が定まるという現象です。
今回の実験スキームでは、「PyTheus」と呼ばれる量子光学実験の自動設計・発見のためのAIフレームワークを用いました。PyTheusは、量子実験をグラフ理論で表現し機械学習を用いて最適な実験構成を提案することができます。
新しい生成方法の手順は、まず1つの非線形結晶にレーザー光を照射し、この結晶を光が2回通過することで、最大4組の光子対を生成する可能性を作り出します。生成された光子の経路を特殊な方法で重ね合わせ、どの光子がどの生成過程から来たのかを区別できないようにします。この状態(path identity)で2つの補助光子を検出すると、残りの2つの光子が量子もつれ状態になります。
▲独立した光子を量子もつれにするためのスキーム
▲実験セットアップ
この生成方法は、従来の生成方法である直接の相互作用や事前の量子もつれ、ベル状態測定も必要とせずに、独立した光子間に量子もつれを生成することができます。
研究チームは、生成された光子の対が本当に量子もつれ状態にあるかを2つの方法で確認しました。
1つ目は、CHSH型のベル不等式という検証法です。2つの光子の相関関係を様々な角度で測定し、古典物理学では説明できない強い相関(値が2を超えること)があるかを調べました。実験では2.27という値が得られ、確かに量子もつれが存在することが示されました。
2つ目は、量子状態トモグラフィーという、より詳しい分析方法です。これにより、生成された状態が理想的な量子もつれ状態にどれだけ近いかを測定しました。実験では86.8%という高い一致率が得られ、質の良い量子もつれが生成できていることが証明されました。
これにより、量子通信ネットワークの実用化が近づきます。より少ない光子数と単純な装置で量子もつれを作れるため、量子インターネットの実現が現実的になる可能性が考えられます。