日本ファルコムは17日、創業会長である加藤正幸氏が12月15日に満78歳で逝去したことを発表しました。
日本ファルコムは1981年創業。日本のPCゲーム黎明期から『ザナドゥ』(ドラゴンスレイヤー)シリーズ、『イース』シリーズ、軌跡シリーズ(英雄伝説シリーズ)など人気作品を送り出してきました。
2000年代以降は家庭用ゲーム機にプラットフォームをシフトさせつつ、近年ではPCゲーム配信のSteam等を通じて世界にもファンを拡大しています。
▲画像:日本ファルコム加藤正幸会長。2014年 J.D.K.バンド25周年インタビューより(月刊ファルコムマガジンvol.40)
古くからのゲーム会社が環境の変化を受けて拡大や吸収合併を繰り返したのに対して、ファルコムは創業以来の立川を本拠に、地方都市の中小企業のままゲーム作りを続けてきたこと、多くの才能を輩出してきたことには、創業者であり自身もプログラマ、クリエーターであった加藤氏のユニークな経営哲学が大きく関わっています。
加藤氏は1946年生まれ。日野自動車で大型機のシステムエンジニアを務めたのち、当時パーソナルコンピュータ革命を先導していたアップルの Apple II に衝撃を受け、システム開発やコンピュータ導入をサポートする企業として1981年に日本ファルコムを創業しました。
同年にはアップルコンピュータの販売代理店であるPCショップを、加藤氏の居住していた東京都日野市に近い立川で開業。ゲームを含むソフトの販売を手掛けるうち、ホビーとしてパーソナルコンピュータに熱中するマニアが集まる場になり、自社でもオリジナルのゲーム開発と販売に乗り出すという、先行していたハドソンなどと同じ経緯でゲーム会社としての一歩を踏み出します。
ファルコムを含む小企業でも参入できたコンピュータゲーム業界は、プラットフォームと市場の変遷から浮き沈みが激しく、特に開発体制が大規模化してからは、名作やヒット作を送り出した会社でも次のヒットまで事業を継続できず廃業したり、規模を求めて合併を繰り返してきました。
しかしファルコムは加藤氏独特の経営哲学とリーダーシップのもと、無借金経営にこだわり規模を大きく拡大せず、吸収合併もされず、地方都市の中小企業のまま40年以上にわたって独立を維持しブランドを守り続ける稀有な存在です。
吸収合併や大規模化がゲーム開発において悪というわけではもちろんなく、膨大な数のスタッフと大予算で初めて可能になるタイトルはゲーム業界の華ではあります。また営利の株式会社として、リスクを取らず規模を維持することが常に正解とは限らないことは言うまでもありません。
とはいえファルコムのゲームのファンにとっては、ファルコムが時代は変わってもファルコムらしいゲームを作り続けている、特別な存在であることは確か。
ブランドを維持といっても、コンピュータゲームが劇的な変化を続けてきた過去40年、ファルコムのゲームもまた次々と姿を変えてきました。
新作のたびにゲームデザインを一新し技術でもプレーヤーを驚かせ続けた時期もあれば、主要クリエーターの離脱で世代交代した開発陣の育成を兼ねて『リバイバルXXフォーエバー2リミックスHDエディション完全版eX+改』的なリメイクを連発した時期もあります。
他社がライセンス開発した家庭用ゲーム機版は同じシリーズ名を冠していても、評価の高い名作から、原作シリーズとは似ても似つかない怪作まで玉石混交でした。
ファルコム自身も、大河ファンタジー小説のようなナラティブドリブン・キャラクタードリブンの軌跡シリーズを長く続ける一方で、もうひとつの看板であるYsシリーズでは主人公アドル・クリスティンはそのまま、頻繁にスタイルを変え新しいYsを作り出した結果、ファルコムを知らなかったグローバルなファン層の拡大に貢献しています。
業界レジェンドとしてメディアでの露出や発言も多く、会長に退いてのちも長くゲームに関わった加藤正幸氏亡き後も、ファルコムが良い意味で変わり続け、良い意味でファルコムらしくあり続けることに期待したいものです。
変わり続けるファルコムと変わらないファルコムの象徴として、加藤氏がみずからデザインしたというXANADUロゴグッズと軌跡シリーズのキャラグッズがファルコムショップに並ぶ様子を紹介しようと思いましたが、旧作ロゴ系は公式ショップでは売っていないライセンス商品のようです。