いわゆるトランプ関税で世界の市場が混乱するなか、米国政府はスマートフォンやコンピュータ、半導体等については例外として関税を免除することを明らかにしました。
米国時間の4月11日(金)に公開された覚書によると、相互関税の例外であることが明確にされたのは、コンピュータおよびその部品・付属品、CPUやGPU等を含むプロセッサ・メモリ、半導体製造装置、スマートフォンを含む通信機器、ルータやスイッチを含むネットワーク機器、記録メディア、表示装置(モニタ等)、およびLED等々の半導体デバイスなど。
Clarification of Exceptions Under Executive Order 14257 of April 2, 2025, as Amended The White House
トランプ政権は4月2日の大統領令(EO, Executive Order) 14257 において、 米国の貿易赤字解消を目指す「相互」関税として全世界に対してベースラインの10%、加えて57の国と地域について、日本は24%など、それぞれに追加関税を課すことを発表しました。
こちらに関しては、適用した途端に56か国については「交渉を申し入れてきたので」90日間停止、中国に関してのみ125%に引き上げることを発表し、貿易戦争をエスカレートさせていたのはニュースを騒がせていたとおりです。
一方、4月11日に追加で発表したのは、当初のEO 14257やその後の大統領令に含まれていた例外規定を明確化する覚書。
具体的な対象については、米国の関税表コード HTSにして20項目、たとえば「8471: 自動データ処理装置」などが並んでいますが、整理すれば
コンピュータ (PCやタブレット等)、メモリやマザーボード等
スマートフォン(ルータ等通信機器も含む)
CPU・GPUなどプロセッサ
LED等の半導体部品
半導体製造装置
記録メディア
これにより、たとえば iPhoneなど製品の多くを中国で製造するAppleなどは、米国向け製品を突然大幅値上げしたり、突貫で中国以外の国での組み立て比率を増やしたり、関税の適用が始まる前に大急ぎで米国に輸入するといった対応からひとまずは免れることになります。中国の半導体やエレクトロニクス製品メーカーについても同様です。
米国の関税はあくまで米国に輸出する企業に対して、および転嫁された価格や販売戦略の見直しを通じて米国内の消費者に影響するものですが、日本など他の国についても無関係ではありません。

Appleの例でいえば、米国向け関税への対応には製造拠点やサプライチェーンの再構築に伴う費用が発生するだけでなく、利益の大きな割合を占める米国向けだけを極端に高く値上げすることは現実的ではなく、利益率を減らしてでも値上げ幅を一定に収め、その分を別の地域で取り返し帳尻を合わせる必要が出てきます。
今回の措置も永続的なものではなく、トランプ関税の不確実性で世界的な経済環境に大混乱が生じていることによる影響は計り知れませんが、とりあえずはAppleやNVIDIA等々にとって、また中国で製造し米国向けに輸出する多くのメーカーにとって、および米国外を含む消費者にとっては、とりあえずひと息つけるニュースです。
なお、トランプ関税を受けて米国内で予約受付を延期するなど話題になった Nintendo Switch 2 については、今回の例外品目に含まれません (ビデオゲーム機器にはHTSUS 9504.50が割り振られており、今回の覚書には含まれていない)。
元々「中国には125%、それ以外はベースライン10%」の状態に対する例外なので、主にベトナム製といわれるNintendo Switch 2に対しては、少なくとも猶予期間のあいだは10%の関税が課されることになります。
(日本国内向けが安かったのは、トランプ関税の影響よりも、日本市場に対する任天堂の戦略として、購買力が低い日本人にも多く購入できる価格に設定したため。)
(動画:関税を課された国は「ケツにキスして(kissing my ass, 媚びへつらって)、どうかお願いです閣下、何でもしますから取引してください、と必死に訴えている」と声真似を交えて語るトランプ大統領。4月8日の晩餐会で)
はたから見るといかにも朝令暮改で、世界経済のみならず自国にトリプル安を招くなど大混乱を生じ、専門家の解釈も分かれる一連の施策ですが、そもそも関税はトランプ政権が名目に掲げる米国内の製造業復活など、政治上の目標を達成するため設定するもの。
外交に対してさえゼロサム的な「ディール」を強調するトランプ大統領にとっては、全世界の経済にショックを与え、米国経済への信用と引き換えに力を誇示することで、各国や各業界に対して、自身に有利な条件での交渉を求めるための威嚇行為として、「何をしてくるか分からない」との印象を与えることを含め、一応は筋が通っていることになります。