京大と鹿島、人工重力施設を共同で研究へ。長期宇宙滞在のため

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Munenori Taniguchi

Munenori Taniguchi

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京都大学と建設大手の鹿島が、月や火星で生活する時代に向け、現地での生活基盤となる「人工重力居住施設」を共同で研究すると発表しました。

ほかにも、月や火星への移住に必要な最小限の生態系を移転する「コアバイオーム」、惑星間交通システム「ヘキサトラック」といったコンセプトも併せて提示しています。

人の身体は、無重力(微小重力)環境においては体重を支える必要がないことから骨密度が時間の経過とともに減少していくことがISSに長期滞在した飛行士を対象とした研究などでわかっています。月や火星においても、地球よりも小さい重力に身体が馴染んでしまい、たとえば現地で誕生した人などは地球の重力環境に耐えられない身体に育ってしまう可能性があります。また無重力の環境では、人を含む哺乳類がうまく誕生できない可能性もあります。

京都大学と鹿島は、こうした問題を解決すべく月や火星上で人工的に重力を発生させ、月や惑星が持つ重力とあわせて、地球上と同じ1Gの重力にすることを考えています。この人工重力施設は、釣り鐘を逆さにしたような形状で、回転して遠心力を発生し、と重力を足し合わせて1Gになるように設計されます。定住する人々は、この中で地球上と同じように日常生活を送ることが可能になります。

また発表では、地球外での生活に最低限必要な縮小生態系として「コアバイオーム」を選定して現地に持ち込み、上記の人工重力居住施設内で「ミニコアバイオームを確立させる」ことを計画の目標のひとつとしています。要するに現地での自給自足を可能にしていくということです。

さらに、これら人工重力施設とコアバイオームによって月や火星での持続的生活が現実になれば、その先にやってくるのは惑星間を自由に行き来するシステムの構築ということになります。京大と鹿島はこの惑星間移動にも人工重力をもつ交通システム「ヘキサトラック」を提案しています。

「ヘキサトラック」を構成するシステムのうち「スペースエクスプレス」は、月面や火星上の各拠点ステーションや、その天体の軌道上に浮かぶゲートウェイ・ステーションの間を結ぶ、既存の新幹線のような鉄道スタイルの移動手段。地上の移動はレールの上を走行する一方で、軌道上のゲートウェイへは、まるで往年のアニメのような、空へ向かう(そして途中で途切れる)レールを使って、レールガンの技術を使用して射出されます。列車は射出後、ロケットエンジンによる加速で軌道上のゲートウェイステーションへと到達するしくみです。また大気のある惑星へ降り立つ際には翼を展開し、その揚力を利用するとのこと。

軌道上のゲートウェイステーションから別の惑星のステーションへ向かうには「ヘキサカプセル」と称する6角形の棒に6つのコンテナが放射状にくっついたような宇宙船を利用するとのこと。これも回転することで人工的に重力を発生するようになっています。映画『インターステラー』に登場する宇宙船「エンデュランス号」を軸方向に引き延ばしたようなスタイルをしており、月へ向かうものと火星へ向かうもので異なるサイズを想定しています。

これらはいずれも研究のためのコンセプトなので、具体的に実現可能なのか、実現するならいつ頃になるかを議論する段階ではありません。ただ、実際に月や火星を目指そうとしているこの時期にアイデアを出し、低重力の問題点を含む月や火星での永続的な生活における課題を研究しておくことで、将来、移住実現に向けた開発がよりスムーズになるかもしれません。さらに、研究者らはこの研究によって「地球環境の重要さの再認識」を呼び起こし、「地球外環境も含めた持続可能な社会の構築にも寄与できると考えている」と述べています。

Source:京都大学・鹿島(PDF)

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