有機フッ素化合物は、水、油、汚れに強い性質を持つことから1950年代以来、フライパンの焦げ付き防止コーティングなど、日用品に広く使われています。
一方で、その分解されにくい性質が逆に、廃棄焼却された後で大気中に放出され、雨水や土壌を汚染し、生物に摂取されるという悪循環を生み出しているとも指摘されています。米疾病予防管理センターは1990年代までに、実施された全国的な血液サンプリングにより、米国人の98%以上からPFASを検出したと発表しています。
冒頭に述べたように、フライパンから焦げ付き防止加工のキッチン用ペーパー、ハンバーガーの包装紙、雨具、接着剤、カーペット、化粧品、紙、塗料、消火剤、そしてスマートフォンなどの電子機器まで、様々な用途に使われている有機フッ素化合物のパーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)は、その種類が数千も存在します。
長年、それらは無害だと信じられて使用されてきましたが、近年の研究ではPFASにどれぐらいのレベルで暴露すると人の健康への影響がどのように出てくるかなどの研究も進められており、最も研究されているペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)のふたつでは、内分泌攪乱作用や生殖器系と胎児の発育、免疫系への影響、ガンの発生促進作用などが報告されています。
ハーバード大学、ノースウェスタン大学などからなる研究チームは“forever chemicals(永久化学物質)”と称されるこれらの物質を、比較的簡単な化学反応でPFASを分解する、新しい方法を発見、Science誌に報告しました。
PFASのほとんどは炭素とフッ素の結合をもとにできています。この結合は有機化学で知られる最も強い結合ですが、研究ではPFASの分子構造のうち、電荷を帯びた酸素原子などが集まる一部分に弱点があるのをみつけたとのこと。チームはPFASサンプルを、ジメチルスルホキシドと呼ばれる溶媒と水酸化ナトリウムを試薬におよそ80~120°Cで反応させたところ、弱点と見た部分が分断され、フッ素の最も安全な形態であるフッ化物を形成し始めました。
最終的にPFASは6種類の物質に分解されました。うち5つは自然界に存在するものであり、無害です。残るひとつはトリフルオロアセテートと呼ばれる物質ですが、これもPFASほどの毒性はないとされており、安全な廃棄方法もわかっています。
研究の筆頭著者であるウィリアム・ディクテル氏は「炭素とフッ素の結合は非常に強力だが、その帯電した先頭部は(PFASの)アキレス腱だった」とコメントしています。
このプロセスによって、研究チームは10種類のPFASを分解することに成功しました。そして、残る他の数千タイプのPFASにも順次この方法を試して分解可否を確認していくと述べています。