Microsoftという会社はOSであるWindowsや、Microsoft 365 / Officeのような生産性を向上させるアプリケーションのソフトウエアベンダである、というのが本誌の読者を含め、外から見える姿ではないだろうか。
否、筆者はそれを強く否と言いたい! え、どうせ最近じゃAzureみたいなパブリック・クラウドのサービスプロバイダーと言いたいのでしょ? という声が聞こえてきそうだが、それもあるが、そうではない、それも強く否だ!
では何の会社なのか、その答えは、世界一のセーターを作っている服飾メーカーである。勘のいい人はもうここでわかったと思うが、実は今、米Microsoftは「世界一ダサイ」(筆者調べ)セーターを作って、販売している服飾メーカーなのだ。
今回はMicrosoftから送られてきたその「世界一ダサイ」(筆者調べ)セーターを実際に着て渡米してみたので、レビューしていきたいと考えている。
米国ではクリパで超ダサイセーターを着てダサさを競ったりすることが恒例行事
今回取り上げる製品は「Windows Ugly Sweater」というWindowsブランドが被せられたセーターになる。
WindowsとSweaterに関しては訳す必要がないと思うが、Uglyの意味を説明しておくと、「醜い」とか「見苦しい」とかが訳語として当てられることが多く、直訳すると「Windowsの醜いセーター」だが、意訳すれば「Windowsの超ダサイセーター」とでもなるだろう。
そんな「超ダサイセーター」なんて誰が買うのかという向きがあると思うが、実のところ米国ではこういうグッズが年末になるとネット通販でそれなりの売上を記録する。
なぜかというと、米国の年末にはサンクスギビング(感謝祭)やクリスマスといった休暇期間があり、それが日本の盆暮れ正月に該当するからだ。
日本の正月の場合、友人知人と会うよりは実家に帰って親兄弟に会うことが多いが、米国では友人知人と集まってパーティーという過ごし方が一般的。そういうときに登場するのが「Ugly Sweater」だ。
簡単に言えばダサいことは承知の上で着ていって、むしろそのダサさを競う、そういう一種のパーティーグッズである。お互いにダサさを指摘し合って大笑いする、そういうアメリカ人のアメリカンジョークをセーターに形を変えたのがUgly Sweaterだと言える。
米Microsoftは数年前からこのWindows Ugly Sweaterに毎年取り組んでおり、昨年は「Microsoft Minesweeper Ugly Sweater」という暇つぶし…タイムコンシューミング なゲームの横綱級と言えるMinesweeperのUgly Sweaterを発売。割とすぐに売り切れるほど人気商品となった。
そして、その2022年版がWindows Ugly Sweater。米国MicrosoftのXbox Gear Shopで販売され、販売時の価格は74.99ドル(1ドル=137円換算で10274円、税別)となっており、セーターとしてはかなり高級品の部類だ。既に売り切れになっており、執筆時点では在庫がない。
日本では全く知名度がないClippit
そのWindows Ugly Sweaterだが、セーターとしてはかなり立派な外箱に入っており、さすが1万円(税別)のセーターという貫禄が感じられた。
箱をあけると、Clippit(クリピット、通称はClippy=クリッピー、日本ではクリッパーと呼ばれる事が多い)のイラストとSNS用タグが記された紙が入っている。
このClippitは何かと言うと、その昔Microsoftの主力製品だった「Microsoft Office 97」にて初搭載されたアシスタント・ツールのキャラクター。Microsoft Officeは文章を扱うツールということで、その文章を束ねるツールであるゼムクリップ(英語でGem Clip)を擬人化したものがClippitだったのだ。
「あれーその頃もOfficeは使っていたけどそんなの見たことないぞ」という方、正しい。というのも、このClippitは英語版のOfficeにだけ搭載されており、日本では別のキャラクターだったからだ。
ここまで言えば、90年代後半にもう社会人でOfficeバリバリ使っていましたよという人には想像がつくだろう。そうそれが「カイル」君の愛称で知られていたあのイルカのキャラクターだ。
カイル君、今で言えばAIアシスタントのはしりなのだが、当時のコンピューティングパワーではマシンラーニングなどを利用することができなかったため、できたこと言えばヘルプの情報を検索して答えを表示する程度。
そんなキャラクターにいちいち教えてもらわなくてもヘルプをみた方が早いと、Officeインストール後すぐにカイル君をオフにするというのが、当時のOfficeヘビーユーザーの儀式みたいなものだった。
そのため、気の毒にもカイル君に「お前を消す方法」という質問をする人が続出したものだった(当時、SNSなどはなかったのでバズるとかはなかったものの、ネット記事などでそのネタはよく取り上げられた)。
そのカイル君の米国版がClippitで、米国でもかなりカイル君と同じような扱いをされていたと聞く。つまり、米国のMicrosoftにとっては一種の「黒歴史」であって、それをセーターの柄にするのだからかなりの自虐的なジョークということになる。まさに「Windowsの超ダサイセーター」というのは、間違っていないタイトルだろう。
そのWindows Ugly Sweaterは表側がClippitの柄入りで、「Happy! Holidays!」としゃべっており、その下にWindows 95/98時代っぽい「OK」のボタンが書かれている。
その様子もまるで絵が上手でない人が書いたようなイラストだし、色は全体的に青で、上の部分が緑になっており、この配色もないなと感じた。
だが、「ないな」と思わせているということは「超ダサイ」と思わせることには成功しているといえる。Microsoftのデザイナーさんやるな、というのが筆者の正直な感想だ。
日本ではスルー、米国の空港でも中ウケぐらい。大ウケには業界内パーティーが必要
そうしたWindows Ugly Sweater、米国に出張する際に実際に着てみた。まずセーターとしての基本機能である暖かさだが、この点についてはかなり暖かい。というよりも、これを着たまま空港の通路など暖房が効いたところを歩くと熱いと感じるぐらいに保温性は高いと感じた。
とはいえ暖かいかどうかは主観に過ぎないので、ちゃんとベンチマーク・プログラムを走らせて数字にしたかったのだが、残念ながらWindows Ugly SweaterではPCMarkも3DMarkも走らないのでそれは難しい。
そこで最終目的地に向かう途中、乗り継ぎのシカゴ(その時点で気温は摂氏3度)にて、外に出てしばらく涼んだ(15分)後に持っていたスマートフォン用のサーモグラフィで調べてみた。
場所によっては体温よりやや低い程度を維持しており、外面で測ってこんな感じだから、中はもっと温度が高いだろうし、体感でも寒いとは感じなかった。
さて、肝心なウケがとれるかだが、日本では率直に言って絶望的だ。筆者はこれを着て日本のエアラインのチェックインカウンター、セキュリティーチェック、搭乗口などを通過したが、誰一人として突っ込んでこなかった。
それは飛行機に乗ってからも同様で、フライトアテンダントさんを含めて誰にも突っ込まれなかった……。やはり日本ではカイル君の方が圧倒的に知名度が高く、そもそも、Clippitは知られていないためだろうか。日本においてClippitで笑いをとるのは相当に難しそうだ……。
しかし、アメリカの空港とアメリカの国内線ではだいぶ事情が違っていた。ちょうど筆者が飛行機にのった時期はクリスマス休暇に入る前で、米国エアラインのフライトアテンダントさんが「Happy Holidays!」と乗客一人一人に声をかけてくれる。
筆者もそうして声をかけられたのだが「Happy Holodays…(ぷっ)」と筆者のWindows Ugly Sweaterをみて静かにウケてくれた。それはそうだろう、Happy Holidaysと語りかけた相手が「Happy! Holidays!」と「OK」と書かれた超ダサイセーターを着ているのだから……。
同じような事が飛行機を降りて歩いている際にもあった。どこが次のゲートかと探していると、筆者の母親ぐらいの世代の女性に声をかけられ、「ゲートを探しているの?」と聞かれて、「ゲートの番号をチェックしようと思って」と言ったら、「モニターはアッチよ」と親切に教えてもらえた。
その女性が去り際に「あなたの事は前のフライトから見てたのよ、そのセーター"ステキね"(Lovely)」といって去っていった……その意味を本来の意味と取るのか、スラング的な意味で取るのかで全然意味は違ってくるのだが、ここは素直に褒め言葉だと思っておくことにした。細かいことは気にしちゃいけないのがここのルールで、「郷に入れば郷に従え」だ……(笑)。
このように、米国では中ウケぐらいだけど、とりあえず目立つことは確認できた。ただ、やはり大ウケを狙うにはClippitのことを知っている業界人とパーティーでもして見せるしかなさそうだ(実際業界の関係者とつながっているSNSに投稿したら激しくウケていた……)。
その意味で、ぜひ来年に向けては日本マイクロソフトの主導で「カイル君」のセーターをお願いできるとうれしいのだが、いかがだろうか > 日本マイクロソフトの関係者の皆さま。もちろん彼の決められ? 台詞「お前を消す方法」入りで……。
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