アップルが有機ELディスプレイ搭載のMacBook ProやiPad Proを開発中との噂は、これまで何度も報じられてきました。
その続報として、同社がiPad Pro(2024年モデル)とMacBook Pro(2026年モデル)向け有機ELパネルを発注したとのサプライチェーン情報が伝えられています。
韓国の電子産業情報誌ET Newsによると、アップルはiPad用とMacBook Pro用、2種類の有機ELパネルの開発を韓国内のディスプレイ企業に発注したとのこと。iPadが10.86インチと12.9インチ、MacBookが14インチおよび16インチとされ、従来モデルとサイズは変わらない模様です。
アップルとサムスンやLGディスプレイなど主要ディスプレイ製造業との内々の開発であれば前から噂はありましたが、今回目新しいのは関連部品・材料メーカーも「正式プロジェクトの開始」とともにパネル開発を始めたとされる点です。ようやく技術検討フェーズから、製品の量産フェーズに進んだとも推測されます。
「有機EL版iPad Proが2024年に発売」説は複数の情報源が主張しており、信頼性の高いディスプレイ専門アナリストRoss Young氏もそれを支持。昨年末にも再確認しつつ、サイズは11.1インチと13インチに微増するとも述べていました。
現行の12.9インチiPad Pro最新モデルは、2021年5月に発売。新方式の「Liquid Retina XDR」と称される画面は、一般的にはミニLEDバックライト方式と呼ばれます。
すなわち従来の液晶+バックライト構造をそのままに、バックライトを微小なLED(ミニLED)に分割してローカルディミング(部分駆動)技術を組み合わせ、エリアごとの点灯・消灯が可能にしたもの。これにより高輝度や漆黒の黒を表現しやすくなっています。
要するに「小分けした領域ごとに、ミニLEDの一群がバックライトに割り当てられる」ということ。つまりピクセルごとにオン・オフできるわけではなく、発光するLED領域はピクセルより大きくてはみ出すため、原理的に光漏れ(ブルーミング現象)は避けがたくあります。
アップル公式では、そうした弱点が「一般的なローカルディミングシステム」にあると認めつつ、自社技術は「改善されています」と主張。しかし、複数のユーザーから、暗い部屋で黒い背景の場合はやはり目立つとの報告が相次ぎました。
この現象に対して、Young氏は「有機ELパネルなら、そんな問題は起きないよ」と指摘。赤緑青の有機素子が自発光してバックライトのない有機ELなら当然のことであり、それを言ってはおしまいの感もありました。
アップルは従来方式の液晶画面に対するミニLEDの優位性を強調していましたが、有機ELとの比較は公式サポートページでもほぼ見当たりません。やはりミニLEDの弱点について、ある程度は自覚していた可能性もありそうです。
すでにApple WatchやiPhoneには、数年前から有機ELディスプレイが採用済みです。なぜ、iPad Proへの搭載は見送られてきたのか?
おそらく理由の1つは、アップルの厳しい品質管理を満たせる大画面を量産するのが難しいということ。フレキシブル有機ELパネル(折り曲げられるパネル。全画面デザインに近づけやすい)は加工の際に熱で反りやすく、6インチ前後なら目立たないが、10インチ以上では顕著になりがちで、アップルはそれを許容できないとの報道もありました。
もう1つは、表示素子として有機物質を使うために焼き付きを起こす可能性があり、寿命にも懸念があること。これら2つをクリアする方法として、Young氏は「タンデムスタック構造」が投入されると予想。つまり発光層を2段重ねとすることで輝度の向上や長寿命化および省電力化、さらには最大120HzのProMotion(可変リフレッシュレート)も実現できると述べていました。
今後もしもiPadやMacBookがこぞって有機ELに移行していくのなら、アップルの熱心なミニLEDバックライト推しはなんだったのかという感慨もあります。が、あくまで「自社製品シリーズの中での革新」という意味では、同社は真実を語っていたと言えそうです。