「やりきった感がある」グランツーリスモ7 山内一典氏インタビュー。もはや実車と評判のVRモードを語る

ゲーム Sony
飯島範久

フリーライター。週刊アスキーを卒業後、フリーのライター・編集者として活動中。クルマを運転するのが大好きでグランツーリスモは初代からプレイしレースゲー愛は強め。

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ドライビングシミュレーターと呼ぶにふさわしいレースゲーム「グランツーリスモ7(GT7)」がPlayStation 5(PS5)/ PlayStation 4(PS4)で発売されてから約1年。PlayStation VR2(PS VR2)のローンチに合わせたアップデートで、ついにVRに対応しました。

VRへの対応は、PS4版の前作「グランツーリスモSPORT」がシリーズ初。VRゲームは高い性能が要求されるため、PS4と初代PS VRで動いていた前作のVR対応は動作的には満足の行く仕上がりだったものの、遊べるモードが1vs1のレースやタイムアタック、VRショールームの3つしかなく、少々物足りなさを感じるところもありました。

今回GT7では、PS5+PS VR2という性能が飛躍的に向上した組み合わせとなったことで、1画面を2分割する「ローカルマルチプレイ」以外はすべてプレイでき、加えて前作より進化したVRショールームが楽しめるようになっています。しかも、無償アップデートだというのだから太っ腹ではありませんか。

そんなVR対応に関して、「グランツーリスモ」シリーズのクリエイターである山内一典氏への合同インタビューが行われたので、その模様をお届けします。

▲株式会社ポリフォニー・デジタル 代表取締役 プレジデント 山内一典氏

──VR対応にあたり、苦労されたところはありましたか?

山内一典氏(以下、山内):GT7のPS VR2対応というのは、GT7の開発を始めた時からターゲットにしていました。グランツーリスモSPORTでPS VRへ対応した時は、PS VRの開発のタイミングと、グランツーリスモSPORTの開発のタイミングが、必ずしもシンクロしていなかったので限定的な対応に留まっていました。

今回のGT7に関しては、ネイティブVRのタイトルとして開発したという経緯があります。結果としてGT7というのは、ネイティブな4K60pのタイトルになったわけですが、それはPS VR2への対応を進めていった結果であったわけです。

──フレームレートをきちんと出すというのは結構大変ということでしょうか。

山内:大変ですね。フレームレートを出すというのは2つ要素が必要で、1つはクオリティを落とさずに、いかに軽いデータを作るのかという、主にアーティスト側の仕事。もう1つが、いかにそれを高速にレンダリングするかという、エンジニア側の仕事です。それらが組み合わさって、とにかくカリカリにオプティマイズ(最適化)しないと、VRは動きません。

──PS VR2と同時に開発したからこそ実装できた機能というものは何かありますでしょうか。

山内:GT7を開発した時から、VR2のスペックがわかっていたので、それに完全に合わせた形で開発できたことはすごく大きかったと思います。後からVRに対応させるのと、当初からVRへの対応を前提に作るのとでは、他のVRタイトルを体験してみると、かなりの差があると思っています。

──逆に実現したかったけどできなかったことはありましたか?

山内:VRに関してはないですね。割とやりきった感じがしています。VRは50年ぐらいの歴史がありますが、いつかVRできちんとしたレーシングゲームを作りたいっていう思いが、かなり昔からありました。ただ、現実にコンシューマーレベルに降りてくるまでに、かなりの時間がかかりました。そうしたなかで、ほぼフル対応と言えるようなGT7を作れたというのは、ある種の達成と受け止めていいのではと思っています。

──VRを開発するにあたっては、VR酔いに対して配慮した部分というのはあるのでしょうか?

山内:まずVR酔いがなぜ発生するのかという話をしますと、僕の理解では人間の脳というのは、常に0.2~0.4秒先のことを予想しながら動いています。つまり、僕らが今感じている瞬間は、脳が0.2~0.4秒前に予想した現実なんです。人間の神経はすごくスピードが遅いので、目から入ってきた情報を脳で処理して、それを例えば手に伝えるとなると0.4秒程度かかってしまいます。でも、実際僕らはその遅れを感じずに済むのは、脳が未来を予測しているからなんです。そのため僕らが意識するよりも前に、脳が指令を出しているから、僕らはほぼ同時にステアリングを切ることが可能なわけです。

しかし、なぜ酔いが起きるかというと、脳の未来予測と実際に起きた結果とのずれが生じるからです。そのため、脳が予測している通りのことをフィードバックして描画することが重要なんですね。この点については、すごく気を遣っていて、例えば映像を左右や上下に動かすと、ものすごく酔いやすくなります。ただ、それを自分の意思でやる分には何の問題もありません。脳が想像しているからです。しかし、それが突然視界だけが動いたりすると、その瞬間に酔ってしまいます。そのため、いかにそういう動きを避けるかが、VRゲームを開発する上で重要なことになります。

もともとレースゲームは、周りがインテリアに囲まれていて、その外側に景色が見えていて、基本的に前にしか進まないので、脳が想像することとズレがすごく少ないため酔いにくいと思います。ただ、例えばハイバンクのコースを走った時に、頭の位置が路面に合わせて傾いていれば、視界としては平らな路面に接しているように見えます。でも、頭を立てて走っていると、路面は傾いて見えるわけです。その辺りは好みの問題というか人それぞれ動作が違うため、誰にとっても酔いにくい味付けで作ったつもりです。

──VRの開発において、映像はかなり重要だと思いますが、音に関しては収録の方法を変えたり、通常とは違うことをしていたりするのでしょうか。

山内:VR用に特に特別なことはしていないのですが、元々GT7はかなりサウンドにこだわっていました。コースの空間上にさまざまな音源を配置したり、レイトレーシング技術を使った音の反射、例えばクルマから放射された音がコース上のどこからどう反射してくるのか、みたいなことも計算しております。

また、室内における音に関しても、エンジンやマフラーから室内への伝達、室内での音の共鳴や共振、僕らはインパルスレスポンスと言っていますが、そういった計算を真面目にやっていたので、結果的にVRヘッドセットとの組み合わせで、空間の中で首を振ってもそれに合わせた音を自由にできるようになっており、3Dオーディオが素直に体験できるようになっています。

──VRで表現したいことはいろいろとあったかと思いますが、いちばんやりたかったことはなんでしょう。VRショールームは特にやりたかったのではと思うのですが。

山内:ずっとクルマのクオリティに関してはオーバースペックで作ってきたところがあって。通常のゲームプレイだとそこまでのディテールは見えないので、いつかきちんと見せたかったです。エクステリアをなめ回したりインテリアをじっくり鑑賞できたりすることは、プライオリティが高かったですね。VRでシートに座ってインテリア越しに外を見ながらドライブするというのが究極の目標だったので、それを実現できたのは1つの達成と言えるのではと思います。

──グランツーリスモシリーズは過去にもさまざまなコースがありましたが、PS VR2に対応した今、再現してみたいコースや、VRにしたら面白いと思うコースというのはありますか?

山内:GT7にはファンタジーなコースとリアルなコースの両方が入っており、ファンタジーなコースは言ってみれば、新しい世界そのものを体験する面白さなんです。一方リアルなコースの面白さというのは、実際にそのコースを走ったことのある人なら、その楽しさが激増しますが、それは実走行とまったく一緒という感覚が起きるからなんです。例えば、ちょっと曇っている筑波サーキットを走ると、本当に曇った日の走行会の気分に浸れるわけです。ですから今後もGT7は、ファンタジーなトラックとリアルなトラックが収録されていくので、その都度VRで対戦してみるというのが、1つの楽しみになると思います。

──臨場感を味わうVRでのオススメのプレイがあれば教えてください。

山内:VRショールームはもちろん、レースやタイムトライアルなど全部楽しめると思います。ミュージックラリーなら音楽を聞きながらドライブをしている気分が味わえますし、情報表示をすべて消した状態でプレイすれば、没入感がいちばん高まると思います。

──現状のVRリプレイモードは、コース脇の観客席からの視点のみに限られているのでしょうか? クルマや上空からの視点があってもいいのではと思うのですが。

山内:VRリプレイに関しては、実際僕らがサーキットに行った時の観客の気分になるというのが最優先で開発されています。例えばニュルブルクリンクの場合、森の中をかき分けて、ガードレールが見えて、その向こうにコースが見え、そこから金網越しに走っているクルマを見ているという体験をしてもらいたかったんです。クルマのルーフ上にカメラを付けることはもちろん可能ですが、それはもはやレースゲームではないし、もしもウォールに激突したら映像が激しく乱れるため、簡単に酔ってしまうし怖いものなので注意が必要になります。

──リリースしてから1か月以上経ちますが、VRでのプレイに対しての反響はいかがでしょう。

山内:ヨーロッパやアメリカのメディアからもインタビューを受けていますが、皆さん本当に最高のVR体験だとおっしゃってくださいます。YouTubeなどを拝見しても、プレイヤーの皆さんが素直に驚いてくれているので、本当に良かったと思います。VRへの対応は、とにかくコツコツと軽いデータを作って、高速なレンダリングをして、酔わないための手当てをしてと、そういったものを積み上げていくようなものすごく地味な作業なんです。リリースする時も「どうだ。すごいのができたぞ」という感じではなく、「すごく頑張りました」という感じです。結果的にはそれが報われたというか、プレイヤーの皆さんに伝わったことが、すごくよかったと思います。


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《飯島範久》

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