マイクロソフトやGoogle等が生成系AIの市場を開拓している一方で、アップルは6月の世界開発者会議WWDC基調講演で「AI」という言葉を極力避けていたことが注目を集めていました。
そんななか、アップルが独自の生成AIシステムの開発にひそかに取り組んでおり、すでに社内では一部エンジニアが「Apple GPT」と呼ぶChatGPT的なAIチャットボットをテストしていると、著名ジャーナリストが主張しています。
アップルの社内事情に詳しいBloombergのMark Gurman記者は、同社が「ChatGPTやGoogleのBardの中核を支えているAIシステムと同様の大規模言語モデル(LLM)を開発するため、独自のフレームワークを構築した」と述べています。
アップルが生成系AIの開発に取り組んでいるとの報道は、今回が初めてではありません。まず3月にThe New York Timesが、ChatGPTの大成功により技術開発の見直しを迫られているハイテク大手の1つとしてアップルを挙げ、「Siri開発チームのメンバーを含む多くのエンジニアが、言語生成(AI)コンセプトを毎週テストしている」と伝えていました。
また5月には、月内だけで28件ものAI関連の職種を新設して募集していることが明らかに。そのうちビジュアル生成モデリングリサーチエンジニアの職種では「生成系AI技術がアップルのモバイルコンピューティングプラットフォームを変革する」と謳われていました。
さてGurman氏の記事に戻ると、このプロジェクトは2022年から構築を始めた「Ajax」と呼ばれるLLMフレームワークを使用。それにより、すでに(iOS等の)検索やSiri、地図アプリにAI関連の改良を施しているとのこと。さらに匿名の関係者は、Ajaxは「社内のChatGPTスタイルのツールの基盤として運用されている」と証言しています。
しかし、アップル社内でテストに参加している人々は、今のところ極めて限られているようです。すなわち「このシステムを使うには、特別な承認が必要です。また、重大な注意点は“そのいかなる出力も、顧客向けの機能開発には使ってはならない“」。
それでも「アップル従業員は、製品のプロトタイプ作成の補助に使っています。また、テキストを要約したり、訓練されたデータに基づいて質問に答えたりもできます」とのこと。
要は社内のごく一部の業務だけに、ChatGPT代わりに使われているようです。ハイテク大手がデータ漏えいの懸念から、社内業務で他社のAIチャットボットの使用を禁じることは珍しくありません。実際5月にはThe Wall Street Journalが、アップルは一部の従業員にChatGPTやその他の外部AIツールを仕事に使うことを制限していると報じていました。
しかし、いつまでも社外秘にしたり、社内業務だけに限るつもりもなさそうです。この記事ではプロジェクトに詳しい関係者の話として「アップルが来年、AI関連の重要な発表を行うことを目指しているようだ」と伝えています。
アップルのティム・クックCEOは5月の決算説明会で、人工知能の存在感は「巨大だ」としつつ、「解決しなければならない多くの問題がある」と付け加え、同社が生成AIをどのように自社製品に組み込むかは明言を避けていました。
なお、アップルは以前から広義のAIには積極的に取り組んでおり、今年上半期のOSアップデートでは自分そっくりのAI生成声で話す「Personal Voice」を提供予定です。そちらも学習までローカルに完結する、つまりプライバシー保護を徹底しています。