アップルがMac、iPad Proなどで使われているApple Mプロセッサの第三世代チップ「Apple M3ファミリ」を発表。M1、M2の時とは異なり、高性能版のM3 Pro、M3 Maxも同時に発売された。
"どうせいつも通りの構成なんだろ?"
と思っている読者もいるだろうが、M3ファミリは従来とは異なる考え方でCPUやGPUの構成を決めているようだ。例えばM2 ProとM2 MaxのCPU構成は同じだったが、M3 ProとM3 Maxは高性能コアと高効率コアの比率が全く異なる。M3 Proが高性能コアと高効率コアをそれぞれ6個と同数持つのに対し、M3 Maxは高性能コアが12個、高効率コアも2個搭載する。つまり、狙っているアプリケーションが全く異なるということだ。
ちなみにM2 ProとM2 Maxはいずれも高性能コア8個に高効率コア4個だが、"Pro"は高効率コア重視、"Max"は高性能コア重視となる。
GPUコアの数もM2世代ではProとMaxで18対36だったのが、M3世代では18対40となっており、ProとMaxの差はより大きく広がっている。
もっとも、どれだけ効率的にこれらのコアを使いこなすかはアプリケーション次第なので、こうしたキャラクターの違いは実際にユーザー、あるいはアプリケーションの開発者がどのようにチップの能力を使ってきたのかを検証した上での方向性の修正なのだろう。
つい、M3ファミリの話になってしまったが、今回は24インチiMacについて話したい。
"Appleシリコンの魔法"が通じにくい領域
"魔法"というと言い過ぎかもしれないが、こと省電力という観点でみるならば、M3に限らずM1以降のAppleシリコンが持つ特徴の一つと言える。
高性能なスマートフォンやタブレットをターゲットに開発されたCPU、GPUを中心に推論エンジンや各種メディア処理のプロセッサを搭載したAppleシリコンと、幅広いハイパフォーマンスコンピューティングまでを見据えたインテルやAMDのSoCでは、ターゲットとする領域や使われ方も違うため簡単には比較できないが、電力あたりのパフォーマンスの高さは確実に競争力になってきた。
それ故、ノート型を中心にAppleシリコンのMacは入れ替えや新規ユーザーの増加があったわけだ。Mac StudioやMac miniに関してもサイズあたりのパフォーマンスという意味では競争力がある。
逆にAppleシリコンの魔法を活かしにくいのが、消費電力の低さを活かしにくい領域で、Mac Proが最後までAppleシリコンにならなかったのも、電力効率の良さを活かしにくい分野だったからだろう。
そしてもうひとつ、アップルの魔法が通じにくい分野、それがiMacのような一体型デスクトップだ。
もちろん、薄く軽量なiMac 24インチは従来からあったわけで、極めてコンパクトなメイン基板にM1を収めたことは十分な価値があるが、ノート型ほどの圧倒的な優位性は引き出しにくい。最新で最速のM3を24インチiMacに最初に採用したのは、インテル搭載機からなかなか移行してくれない既存ユーザーに向けてのメッセージなのかもしれない。
もっとも、インテルプロセッサを搭載したiMacの中でも21インチモデルのユーザーに対しては、従来のM1搭載モデルで十分に誘引できる魅力があった。しかし今回アップルが狙うのは27インチiMacのユーザーだ。
24インチなのに?
そうだ。
旧27インチiMacユーザーの選択肢
24インチiMacはM1搭載モデル登場から時間が経過し、話題にのぼりにくくなっていたが、現在もライバルがいないユニークな製品だ。
ファッショナブルで薄い一体型のPCは他にもあるが、結局のところスタイリッシュな一体型を作るには、電力効率の高いSoCが必要。薄いファンレスの24インチiMacと同じようなスリムな筐体で、同じくファンレスのPCを作ろうと思えば、性能か冷却ファン、どちらかに妥協が必要になる。
アップルは21インチのiMacよりはるかに高速と、買い替えを訴求しているが、そもそも21インチモデルを使っていたユーザー層には、高性能という部分は響かないだろう。しかし旧27インチiMacユーザーには響くと思う。
旧27インチiMacユーザーは、Studio DisplayとTouch ID搭載のMagic KeyboardにMac StudioかMac miniを組み合わせることで、ほぼ同じ体験レベルをより進化した形で享受できていた。A13 Bionicをディスプレイに搭載し、内蔵カメラやマイク、スピーカーなどの信号処理をそれらが行うようにしたからだ。
ただし、トータルのコストは高くなる。
とりわけ円安の中では価格の高さが目立ってしまうが、iMacを使っていたユーザーにとって、ディスプレイとは別にコンピュータが必要というスタイルそのものが重い。何しろStudio Displayは21万9800円という価格が付けられている。Mac StudioやMac miniと同時に購入となると、必然的にユーザー層はハイエンドに収斂する。
旧27インチiMacユーザーの中でもハイエンドユーザーは昨年のうちにインテルに別れを告げた一方、セパレート型になった分のコスト高と円安の影響を受容できなかったユーザーは取り残されている。
M3搭載24インチiMacは、そんなセパレート型のコンセプトに追従できないユーザーに向けた製品だ。
(本来的には)リーズナブルな価格設定でAppleシリコンに誘導
24インチiMacの価格はドルベースでは据え置きだが、日本では値上げになっている。
このあたりはもどかしいのだが、円安傾向が今後も続くと考えれば、Windows PCも含めて価格的な評価基準は変えねばならないだろう。つまり、現在の世界的な経済環境や為替の状況で言うならばリーズナブルに高性能を提供しているとも言える。
ただ、製品の企画としては、カジュアルなiMacを求める層に向け、リーズナブルな価格で高性能な製品を提供することにより、インテルプロセッサ搭載の旧27インチiMacユーザーに移行してほしいという意図が感じられる。Appleシリコン搭載Macが多数派になるほどに、macOSをAppleシリコンの機能を活かした開発にもっと強く舵を切ることができるからだ。iPhoneとのシナジーを作ることができ、パソコンという視点ではWindows PCに対するアドバンテージを作りやすい。
現実的には27インチユーザーが27インチという物理的なサイズと5K解像度を捨て、24インチ4.5Kに乗り換えたいと思ってくれるかどうかはわからないが、実際に移行すれば体験そのものは向上するだろう。
いずれにしろ、これらの部分は実機で判断する他ない。レビューをお待ちいただきたい。
13インチMacBook Proを置き換えたいMacBook Pro 14インチモデルのM3搭載機
MacBook Proの14インチモデルにM3搭載機を持ってきたのは、13インチMacBook Proを終了させ、14インチモデルに収斂させたいと考えたからだろう。13インチモデルはSDカードスロットもHDMIポートもない。現在のMacBook Proの仕様とは搭載する入出力ポートが異なる。スタイルが違うのだ。
そこで現行最新スタイルのMacBook Proにベースモデルを追加する意味で加えられたのが、14インチのProではないM3ということになる。
13インチのMacBook Proは長い間ベストセラーで、インテルプロセッサ搭載機も含めて多くのインストールベースがある。MacBook Proの13インチを廃止し、14インチモデルに無印のMプロセッサを持ってきたのは、やはりMプロセッサの特徴を活かしたソフトウェアの基盤を作りたいからだろう。加えて、なるべく早い段階で、macOSのインテルプロセッササポートを終えたいと考えているはずだ。
話が横道に逸れたが、M3搭載14インチのMacBook ProはThuderbolt3のポート数が2ポートという制約はあるものの、今回の隠れたベストチョイスだ。実際の性能は実機で評したいが、最後のインテルプロセッサ搭載機からの性能向上は明らかだ。