秋の夜長、連続ドラマやアニメ、映画などを見て過ごす人も多いだろう。そんなときに映像配信は良いお供である。
一方で、昨今は自分が利用するサービスをチェックするのが精一杯で、他のサービスがどんな状況なのかを知らない人も多いのではないだろうか。
またそのためか、各サービスの今の位置付けを誤解したままの発言を、SNSなどで見かけることも多い。
そこで今回は改めて、主要な映像配信サービスの特徴を、この秋の注目作品などと併せて解説していこうと思う。
サービス入れ替えの参考などにしていただきたい。
YouTube:無料だけど基本、日本では「もうひとつのテレビ」化
有料を基本に紹介するつもりだが、いきなり無料のサービス、しかも他との位置付けが全然違うYouTubeである。
いまさら説明するまでもないのだが、なぜ紹介しているのかというと、「結局日本の映像配信の場合、YouTubeを見ている人が圧倒的に多い」からだ。
結果としてプロモーション効果も高く、「新作や映画公開に合わせた旧作の一時無料公開」も多い。これは、過去に民放が果たしていた役割をYouTubeがよりカジュアルな形で担うようになっている……と考えると、位置付けがよりわかりやすくなっていく。
有料プランである「YouTube Premium」は、ほとんどの場合「広告のカット」か「音楽視聴」のために契約されている。昔はYouTube自身によるオリジナルコンテンツ制作もそれなりにあったのだが(現在Netflixで配信されている「コブラ会」は、当初YouTube Premium向けの作品だったものが配信先を変えて存続したもの)、今はほぼない。
ABMEA:YouTubeとは違う意味で「もうひとつのテレビ」
ABEMAもテレビ的なサービスだ。利用者は当然YouTubeよりも少ないが、「テレビの特定チャンネルをつけっぱなしにする感覚で使う」用途は広がっている。YouTubeが「地デジのバラエティだけがある場所」に近くなっているとすれば、ABEMAは「CSの多チャンネル」に近い価値観である。もともと幅広いコンテンツがウリだが、最近はスポーツイベントにも力を入れている。
有料サービスの考え方は他と異なり、独自コンテンツよりもタイムシフトなどの「ユーザビリティ」を軸にしている。実はこの辺、世界的に見ても独自性が高い。
TVer:「見逃しだけ」と思ってない? 実は過去作が楽しい
無料がさらに続く。
TVerは完全に「地デジの補完」サービスなのだが、一方、過去の名作ドラマのまとめ視聴にはもっとも向いている場でもある。
地デジの見逃しという性質上、「見たい番組を見たらさっさと離脱する」人が多いのだが、それを解消する目的もあって、過去の名作を配信する例が増えてきた。新作だけに注目するのでないなら、実はけっこうお得である。
一方で欠点は「どの作品が何話まで配信されているのか、見落としやすい」点にある。
Amazon Prime Video:シェア圧倒的トップ。実は「日本に合わせた展開」が強み
日本の有料映像配信において、圧倒的にシェアトップであるのがAmazon Prime Video。統計によって数字は異なるが、2位に対してダブルスコア以上のシェアを獲得していると見られる。複数サービス契約者が多いので、「有料配信を使っている人の6割から7割がAmazon Prime Videoの利用者である」と考えていいだろう。
理由のひとつが価格にあるのはご存知の通りだが、同時に「国内向けのコンテンツが充実している」ということも挙げられる。
外資ではあるが、Amazonは各国のビジネスについてかなりの独自性を認めている。参入当初から国内コンテンツを積極調達、多くの人が見たいと思うものを揃えてきた。
現在はシェアを背景に、多くの映像コンテンツを持つところがAmazon Prime Videoをファーストチョイスとして契約する場合が増えている。特にアニメの見逃し配信が強い。
オリジナルコンテンツでも海外・国内ともに積極展開しているが、Amazonの出資コンテンツ以上に、制作したものを調達しての「独占配信」が多い。一方で、大規模に費用をかけた大作は、ライバルのNetflixに比べると目立たない。より「レンタルビデオ」的だ。
日本では展開していない「Peacock」「Paramount+」などの作品が配信される場合も多い。先日配信が始まった大作である『ザ・コンチネンタル』も、本来はPeacockのコンテンツだし、『ピカード』はParamount+のコンテンツだ。ネトフリと組むわけにはいかないアメリカ大手が、結果的に日本での出口の1つとしてAmazonと組んでいる状況ではある。だから、Peacock・Paramouot+の日本参入状況によっては、いきなり大物コンテンツが減る可能性はある。
とはいえ、アメリカの映画会社も映像配信の競争では苦戦しており、日本に続々参入という状況にはない。だからこの辺の事情は変化しないと予測している。ただ、Paramout+は後述するようにWOWOWなどとのパートナーシップという形で参入したため、もしかすると後日、その影響は出るかもしれない。
野球やボクシングなど、スポーツに力を入れているので、その点も差別化要因と言える。スポーツイベントのシーズンは過ぎてしまったが、来年以降もこの傾向は続くだろう。
Netflix:強みの「オリジナルコンテンツ」はようやく日本でも花開くか
世界シェアトップであるのがNetflix。国内のユーザー数だと、Amazonに続き2位と考えられている。コロナ禍前まではもっと伸び悩んでおり、ようやく軌道に乗って順調になってきた……というところだ。
特徴はやはりオリジナルコンテンツ。もちろんすべてがNetflixの制作出資というわけではなく、一定期間の独占配信である場合も多いのだが、コストをかけた作品も同様に多い。
Netflixというとドラマ、という印象が強いが、昨今は「映画尺」の作品が増えている。アメリカでの映画制作については、劇場ファーストから配信+劇場でマネタイズする作品が増えており、その火付け役にもなっている。
国内のコンテンツ事業者からすると、海外190カ国以上に効率的にコンテンツを売るにはちょうどいいパートナーでもあり、「彼らをうまく使ってビジネスを広げる」のが基本路線となってきた。その成功例が『SPY×FAMILY』などのアニメだ。
国内への投資について、「日本の外に売るにはいいが、日本向けにはちょっとアクが強い」ためかヒットに恵まれない傾向にあったが、今年はかなり良質なものが多い。今年前半に配信された『THE DAYS』や『サンクチュアリ -聖域-』に実写版『ワンピース』、先日配信が始まった『PLUTO』などが好例と言える。12月配信が予定されている『幽☆遊☆白書』実写版が続いて良い評価を残せるか、注目される。
スポーツの配信には参入しないが、近年は『FORMULA 1 栄光のグランプリ』の成功に後押しされてか、スポーツドキュメンタリーへの出資が増えている。
U-NEXT:単価は高いが実はお得。いつの間にか日本勢トップに
日本シェア3位であり、単価が高いサービスであるので、金額シェアにするとNetflixを抜いて2位になることもある。
月額2189円(税込)と、他社に比べ高い料金体系なのだが、毎月1200円分のポイントがついてくるので、これで「レンタルが開始されたばかりの新作」や「電子書籍」を楽しむ……と考えるとそこまで割高というわけではない。なお筆者の場合には、2カ月分ほど貯めて映画館のチケットとして利用している。
特徴は映画を含めた作品の多さ。レンタル視聴を含め、Amazon以上の作品を調達しているので「サービス内で見られるもの」が多い。昔の映画やマイナーな作品を見ようと思って探すとU-NEXTにあった……という場合は多い。
昨年は米HBOと包括提携し、今年に入り、TBS・テレビ東京系の映像配信事業者であった「Paravi」を吸収合併。結果として、それらの作品が急増したため、固定客を掴みやすくなった。総合格闘技やプロレスに音楽ライブ、舞台中継などにも強い。「総花的な強さ」という意味ではAmazonに匹敵する。
後述するDMM TVと並び、アダルトが見放題に含まれるのも特徴ではあるのだが、「アダルトがあるから利用者が多い」というのは誤解に近い。実際にはアダルトは、単品レンタル・購入の顧客の方がずっと多く、サブスク市場はもっと幅広い作品で選ばれるのが一般的である。
ディズニープラス:「強いディズニー」だからこそのジレンマ
https://disneyplus.disney.co.jp/
ディズニーの直接運営による映像配信。だからディズニー系列のコンテンツがもちろん強いのだが、それに加え「STAR」ブランドで、ディスニーの枠を出たコンテンツも調達している。20世紀スタジオ(旧20世紀フォックス)系の映画などもSTARブランドで扱われている。
なにが見られるのか非常にわかりやすいのが特徴なのだが、はっきり言ってディスニー側のオリジナルドラマなどがいまひとつであり、知名度の割に契約者が伸びていない。そもそも、相当なディズニーオタクでないとオリジナル作品までは追いかけないものだ。
それはディズニー側でも認識しているらしく、STAR系のバラエティ豊かな作品の側に注力しつつ、本筋のマーベルやスターウォーズ・フランチャイズの立て直しが始まっている。
逆に言えば、STAR側だけだとまだ競争力は弱く、顧客定着にはその辺が難点かとも考える。
DMM TV:「2つ目」戦略で「アニメ+低価格」
DMMが昨年末に開始した映像配信。月額550円と安く、アニメや2.5次元舞台など、オタク系コンテンツに力を入れている。コミックの読み放題もついてくる。
550円というのは「他のサービスと一緒に契約してもらう」ことを強く意識した価格であり、アニメなどに強いというのも、ある意味でわかりやすさ重視と言える。実際、新作から古い作品まで、アニメのラインアップはほぼ最高クラスと言ってよく、コスパは相当に高い。もちろん、他社の配信作品と相当かぶりはあるので、その点ご留意を。
Apple TV+:コンテンツ品質はダントツながらわかりにくい位置付け
アップルの提供する映像配信。その名前ゆえに「アップル製品利用者しか使えない」と思われがちだがそんなことはなく、PCやAndroidはウェブからも登録視聴できるし、PS5などのゲーム機やスマートテレビからも視聴が可能だ。ちょっとわかりにくいので、説明リンクを紹介しておく。このリンクからもログインと視聴は可能だ。
映像の単品配信などは「Apple TV」、サブスクは「Apple TV+」で、その他に視聴デバイスとして「Apple TV」があるというわかりにくさもある。アップルとしては「アップル製品利用者に」という意図があるのだろうが、ちょっとこの体制はどうなんだろう……と正直思っている。
他方で、実はコンテンツの質が非常にいい。Apple TV+としてはオリジナルコンテンツだけを配信していることもあり、量では他のサブスクに大きく劣る。だが、配信コンテンツの質で言えば頭抜けて良い。だからこそ、多くの人に見てほしいとも思う。
この11月以降は、『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』に『フォー・オール・マンカインド』第4シーズン、『窓際のスパイ』第3シーズンと、力の入った作品が多数配信される。
欠点はコンテンツのほぼすべてがアメリカ制作であり、洋画・洋ドラが苦手な人にはなじめないだろう、ということだろうか。日本で利用者数を伸ばすには、やっぱり国産コンテンツが重要だ。
サービス立て付けのわかりにくさも含め、そういう意味でも「日本だとマニアックな存在になってしまう」のは否めない。
Hulu Japan:日テレ特化だが、実はディスニープラスとセットでお得
テレビ局系サービスその1。
アメリカのHuluが日本に参入し「最初の黒船」的な騒がれ方をしてからすでに12年。2014年に日本テレビが完全買収、その後2017年に米Huluとの資本関係が復活したりしたものの、今でも「日本テレビ系列の配信事業者」の色合いが強い。すなわち、日テレ系番組の視聴と、ジャイアンツの試合が軸だ。
ただ、2020年に都度課金型のレンタル視聴ストアを加えたこと、今年からディスニープラスとのセットプランが登場して魅力が高まった。合わせて月額1490円で、約26%お得になる。
契約については以下より。
https://www.hulu.jp/static/disneyplus_set/
FOD:フジテレビコンテンツだけじゃない。電子書籍連携の草分け
テレビ局系サービスその2。
こちらは当然、フジテレビ系のコンテンツが軸になる。
ここは映像作品に加え、雑誌の読み放題と電子書籍のサービスがついてくる。この辺はU-NEXTも同様なのだが、雑誌の読み放題はFODの特徴のひとつ。コンテンツと映像作品を1つのサービスから横断的に利用する利便性が支持されている。
逆にいうと、フジテレビ系コンテンツに興味がないと、他のサービスとの差別化がちょっと弱い。だからフジテレビ系コンテンツの魅力アップが最大の価値。スピンオフも含めFODオリジナルの展開も幅広く、着実にユーザー数を伸ばしている。
WOWOWオンデマンド:衛星放送から「衛星も配信も」へ
テレビ局系サービスその3……と言えるのだが、ちょっと性質が他とは異なる。
WOWOWは衛星放送だが、そのコンテンツを積極的にネットから見られるようにしており、契約形態から「衛星受信が必須」という形をなくした。衛星放送も受信できるが配信だけでもOK、としたわけだ。
特徴はWOWOWのオリジナルコンテンツ。ドラマの質は高い。
海外コンテンツとしても、SFドラマ『三体』に加え、12月1日からは、アメリカの「Paramount+」作品が見られるようになる。『三体』は非常に面白いので、SF好きには強くお勧めしたい。
正直月額2530円(税込)は配信としては高いのだが、内容の魅力は高い。