米アマゾンとトールキン財団は、J・R・R・トールキンのファンタジー小説『指輪物語』を巡って争われていた作家デミトリアス・ポリクロン氏との複数の法廷闘争で勝利しました。
ことの発端は2017年、ポリクロン氏がファンタジー小説『The Fellowship of the King』を米国著作権局に登録したことに始まります。ポリクロン氏はこの作品を『ロード・オブ・ザ・リング』の続きとして書いたとして、原稿をJ・R・R・トールキンの孫であり知的財産権を管理するトールキン財団のディレクターでもあるサイモン・トールキン氏に送り、レビューを求めたとのこと。
しかし、返答は2019年になってもありませんでした。ポリクロン氏は、こんどは弁護士とともに再びサイモン・トールキン氏に連絡を取り、トールキン財団からの返事を受け取ることに成功します。ただその内容は「いかなるコラボレーションの企画にも応じない」というものでした。
つれない返事をもらったポリクロン氏は、送った原稿の返却を求めつつ、ならばとばかりに「『The Fellowship of the King』をその続きの6冊を加えた、7部構成のシリーズとして自費出版する」計画であることをサイモン・トールキン氏に伝え、実際に2022年9月に『The Fellowship of the King』を出版しました。
さらに今年4月、ポリクロン氏はAmazonプライム・ビデオで配信された実写ドラマ『ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪』を観て、これが自身の『The Fellowship of the King』を盗用しており、著作権を侵害したと主張しはじめます。そして、2億5000万ドルの賠償金を求める訴訟をカリフォルニア州で起こしました。
訴えの根拠のひとつは『力の指輪』に登場する「Elanor(エラノール。作中ではノーリと呼称)」という名のキャラクターが、自身の著作の同名キャラクターと非常に類似しているというものでした(エラノールは原作にも登場するサムの娘のひとりの名で、ポリクロン氏の本の主要キャラクター)。
一方、自身の本については訴状の中で「指輪物語とJ・R・R・トールキンにインスパイアされた」ものであるとし「完全に独創的なコンセプトを持つ本」だと主張しました。
この裁判は8月に終わり、カリフォルニア州判事はポリクロン氏の訴えを棄却しました。ポリクロン氏の頭の中にどれほど勝算があったのかはわかりませんが、おそらくこの結果は大方の予想どおりのものでした。
ただ、争いがこれだけで終わらなかったのは、ポリクロン氏にとって誤算だったかもしれません。トールキン財団はその後、『指輪物語』のフランチャイズに関する著作権を侵害しているとして、逆にポリクロン氏を提訴する手に打って出ます。
こちらも予想どおりの結果となり、連邦地裁判事は財団側の主張を支持、ポリクロン氏の『The Fellowship of the King』およびその続編である『The Two Trees』またはその続編の、複製や頒布、販売、上演、展示その他いっさいの利用を永久に差し止める命令を下しました。また、ポリクロン氏には作品の物理的、および電子的複製物をすべて破棄するよう命じたとのことです。
ポリクロン氏の作品はすべて滅びの山に放り込め、と言わんばかりの判決には清々しさも感じられますが、判決にはさらに、訴訟にかかった双方の弁護士費用合計額13万4637ドルを支払えとの命令も付け加えられました。
裁判を担当したスティーブン・V・ウィルソン判事は、問題の作品がすべて『指輪物語』の登場人物を題材にしていることから、著作権保護を求めるポリクロンの主張は全くもって「ファンタジー的」であり、「筋が通っておらず」「はなから浅はか」なものだったと述べています。
ちなみに、原作小説の副題は第一部が『The Fellowship of the Ring』、2作目は『The Two Towers』です。一方、ポリクロン氏が続編と主張した作品名は1作目が『The Fellowship of the King』、2作目が『The Two Trees』でした。
第三部の『The Return of the King』という副題に対するポリクロン小説版第3作の副題がどんなネーミングになっていたのか、ちょっと気になるところではあります。
なお、現行の著作権法では、トールキンの原作は2044年1月1日に米国でパブリックドメインになる予定です。