1月3日付けのNature Microbiologyに掲載された研究によると、科学者らは長らくわかっていなかったおしっこを黄色くする酵素を特定したとのことです。
メリーランド大学細胞生物学・分子遺伝学部のブラントリー・ホール助教授は「日常的な生物学的現象がこれほど長い間解明されていなかったのは驚くべきこと」だと述べています。
おしっこ、すなわち尿は、血液が腎臓で濾過されて余分な水分、電解質その他老廃物の混合物として排出された液体です。その色は、いまから125年以上も前にウロビリンと呼ばれる成分からのものであることが判明しています。
ところが、このウロビリンが酸化する前のウロビリノーゲンがどうやって生成されるのかが、正確な過程はこれまでずっとわかっていませんでした。
体内の赤血球が代謝する過程で赤血球が寿命を迎えて分解されると、ビリルビンと呼ばれる明るいオレンジ色の色素が生成されます。この色素は腸内に分泌され、一部はそのまま排泄され、一部は再び吸収されます。
腸内には、このビリルビンを尿を黄色くするウロビリノーゲンに変換する酵素が存在すると考えられていました。
今回の研究で特定されたのが、このビリルビンをウロビリンに変換する酵素で、研究者らはこれをビリルビン還元酵素(BilR)と名付けました。
BilRは健康な成人の腸内細菌叢には必ず存在し、この酵素によってビリルビンが無色のウロビリノーゲンに変換され、ウロビリノーゲンはその後、酸化して黄色いウロビリンになる、ということです。
なお、研究ではビリルビン還元酵素は大腸に存在するファーミキューテスと呼ばれる腸内細菌によって産生されることもわかりました。
尿が黄色くなるメカニズムを解明するのに125年以上もの時間がかかった理由について、研究者らは腸内細菌の研究が、最近までは非常に困難だったからだと述べています。
研究者のひとりは「腸内は低酸素環境であるため、腸内細菌の多くは酸素が多すぎると死滅してしまう。そのため実験室における培養や実験が困難だった」と述べました。
BilRの発見とともに、研究者らはそれがすべての健康な成人に存在する一方で、新生児や炎症性腸疾患の患者の身体には存在しない場合があることも発見しました。「この酵素が同定されたことで、腸内細菌が新生児の黄疸や、胆石の一種である色素結石のような症状にどのような影響を及ぼすかについて、調査を始めることができます」と研究の共著者でアメリカ国立衛生研究所(NIH)のXiaofang Jiang氏は述べています。
Hall, B., Levy, S., Dufault-Thompson, K.et al.BilR is a gut microbial enzyme that reduces bilirubin to urobilinogen.Nat Microbiol(2024). https://doi.org/10.1038/s41564-023-01549-x