1996年に死去したラッパーの2PACことトゥパック・シャクールの遺産管理団体が、故人の声をAI生成し、ケンドリック・ラマーへのディス曲「Taylor Made Freestyle」に使ったドレイクに対し、早急に撤回するよう求め、さもなくば訴訟を起こすと警告しました。
Billboardによると、遺産管理団体の訴訟代理人は、ドレイクに宛てた書簡で「トゥパックの声とパーソナリティをあなたが無許可で使用したことに深く落胆し、失望している」「このレコードはトゥパックのパブリシティと遺産管理団体の法的権利を著しく侵害しているだけでなく、史上最も偉大なヒップホップ・アーティストの一人の遺産をあからさまに濫用している。遺産管理人はこの使用を決して承認することはない」と述べています。
また代理人は「トゥパックと彼の遺したものに対し公私ともに敬意しか払っていない、良き友人であるケンドリック・ラマーに対して、トゥパックの声を無許可で、敬意のかけらもない使い方をしたことは、侮辱を増幅させている」とも述べました。
ドレイクとAI音声といえば、昨年話題になったGhostwriter977による「Heart on My Sleeve」を思い出している人も多いことでしょう。この曲はYouTubeや音楽ストリーミングサービスに公開された当初、AIで合成されたドレイク(とThe Weekend)の声の出来の良さが話題となり、それぞれのサービスで数千万回もの再生回数を叩き出しました。しかし、ドレイクの楽曲を配給しているユニバーサルミュージックグループ(UMG)が、著作権を侵害するとして各種サービスに苦情を申し入れた結果、この楽曲は削除されました。
今回は、ドレイクがトゥパックの声を生成して使用し、さらにトゥパックの遺産管理団体の権利者の承諾も得ていないということなので、ドレイクのほうが「Heart on My Sleeve」の時のGhostwriter977の立場に立っていることになります。UMGは遺産管理団体からの書簡についてコメントしていませんが、一貫性を保つためには「Taylor Made Freestyle」は取り下げるようドレイクに働きかけるべきところと思えます。
なお、改めて確認したところ、この記事執筆中にドレイクによるInstagramへの「Heart on My Sleeve」の投稿は削除されたことがわかりました。したがって、とりあえずこの問題は沈静化に向かうことになりそうです。ただ、Ghostwriter977の例があったにもかかわらず、なぜドレイクがわざわざAI音声を使用したのかについては、今後本人がどうコメントするのか(スルーするのか)気になるところです。
ちなみに「Taylor Made Freestyle」は、ドレイクとラマーとの間で繰り広げられている舌戦(Beef)の最新ラウンドとして、先週金曜日に公開されました。曲中ではAIで生成したトゥパックとスヌープ・ドッグの声が使用され、ラマーとテイラー・スウィフトが槍玉に挙げられています。
トゥパックと同様にAI生成された声を使われたスヌープ・ドッグは先週土曜日、SNSに投稿した動画で「あいつら何をしたんだ?いつ?どうやって?本気なのか?」とリアクションしていました。
歌手や著名人の音声を模倣するように生成されたAI音声については、オリジナルの生身のアーティストの言葉や音楽を使用しない場合、著作権的にはグレーな部分も残っているようです。テネシー州では先月、アーティストの音声を無許可のAI生成から保護するための州法としてELVIS法(Ensuring Likeness, Voice, and Image Security Act)が可決されました。
以下は蛇足。以前ドレイクのAI音声を使用したGhostwriter977が、Drake Onlyバージョンの「Taylor Made Freestyle」をYouTubeにアップし「You're welcome」と歓迎しています。