1週間の気になる生成AI技術・研究をいくつかピックアップして解説する連載「生成AIウィークリー」から、特に興味深いAI技術や研究にスポットライトを当てる生成AIクローズアップ。
今回は、AI教師が囲碁を生徒に指導すると学習効果はどうなるかを調査した研究論文「Can Artificial Intelligence Improve Gender Equality? Evidence from a Natural Experiment」に注目します。
この実験は2020年9月から2021年7月にかけて、中国の囲碁教室で実施されました。新型コロナウイルス対策により一部の教師が隔離されたことをきっかけに、36人の教師のうち16人がAI教師に置き換えられることになりました。
これにより、287人の生徒のうち136人(男子82人、女子54人)がAI指導を受け、151人(男子92人、女子59人)が従来通り人間の教師による指導を継続しました。
AI教師は、囲碁AI「AlphaGo」と同様のアルゴリズムを採用し、アニメキャラクターとして画面に表示されます。AIは対局の分析、勝率の変化、石の数の計算などを行い、テキスト読み上げ技術を使って生徒とコミュニケーションを取りました。
実験結果、AI指導を受けた生徒グループの勝率は、5ヶ月後には50%から56%に上昇し、着手の質も大幅に向上しました。特筆すべきは、従来存在していた男女の実力差が、AI指導によって著しく縮小したことです。AI指導を受けた女子生徒は、男子生徒以上の速度で上達し、5ヶ月後には男女の実力差がほぼ解消されました。
▲赤で塗りつぶされた丸がAI教師が教えた女子生徒グループ、青で塗りつぶされた丸がAI教師が教えた男子生徒グループ。5カ月後に両者がほぼ同じ位置にいるのが確認できる
なぜAI指導がこのような効果をもたらしたのか、研究チームは86人の生徒にアンケート調査を実施しました。その結果、82.6%の生徒がAIの試合分析能力を高く評価し、79.1%が関連統計データの提供が有用だと回答しました。また、73.3%の生徒がAIのキャラクターデザインを魅力的だと感じており、特に女子生徒の86.5%が好意的な評価を示しました。
さらに、約2万件の指導映像の分析から、人間の教師は無意識のうちに男子生徒により多くの肯定的な感情を示し、より少ない否定的な感情を示していたことが判明しました。一方、AI教師は性別に関係なく一貫した感情表現を維持していました。生徒への調査でも、64.7%の女子生徒が人間の教師の感情表現に性別による偏りを感じていたのに対し、AIの感情表現に偏りを感じた生徒はわずかでした。
全てのパネルにおいて左が人間の教師で右がAI教師。図の上部と中部のパネルは、生徒が教師の感情を感じ取ることができるか、そして教師の感情を感じ取れることを前提として、それらの感情にジェンダーバイアスがあるかの調査結果を示している。図の下部のパネルは、教師の感情にジェンダーバイアスがあると仮定して、教師のジェンダーバイアスのある感情が学習にどのように影響を与えるかを示している。