1週間の気になる生成AI技術・研究をいくつかピックアップして解説する連載「生成AIウィークリー」から、特に興味深いAI技術や研究にスポットライトを当てる生成AIクローズアップ。
今回は、AIがフリーランス(オンライン)の各仕事にどのような影響を及ぼし、職種による違いを分析した論文「AI and Freelancers: Has the Inflection Point Arrived?」に注目します。
研究チームは、人気のあるオンラインフリーランスプラットフォームから得たデータを分析し、ChatGPTの登場前後でどのような変化が起きたのかを検証しました。
ChatGPTの登場は、職種によって大きく異なる影響を生み出しています。例えば、翻訳や多言語コンテンツ制作の分野では、フリーランサーの仕事量が9.0%減少し、収入も29.7%も落ち込みました。これは「代替効果」と呼ばれ、AIが人間の仕事を奪っている状況を示しています。
▲各職業がAIによってどの程度影響を受けやすいかを測定する指標(AIOE)
一方で、ウェブ開発の分野では、まったく異なる結果が見られました。フリーランサーの仕事量は6.4%増加し、収入に至っては66.5%も増加したのです。これは「生産性効果」と呼ばれ、AIが人間の仕事を支援し、効率を高める道具として機能していることを意味しています。
なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。研究チームは「変曲点仮説」という新しい理論を提唱しています。各職種には、AIの能力に関する「変曲点」が存在するというのです。この点を超えるまでは、人間はAIの進歩から恩恵を受けることができます。
この仮説を検証するため、研究チームはChatGPT 3.5から4.0への進化が11の異なる職種に与えた影響を調べました。その結果、3つのパターンが明らかになりました。代替効果が継続するパターン、生産性効果から代替効果へと移行するパターン、そして生産性効果が継続するパターンです。
注目すべきは、代替効果から生産性効果への移行は一つも観察されなかったことです。これは、AIが一度変曲点を超えてしまうと、もはや人間にとって有益な道具には戻れないことを示唆しています。
▲ChatGPT 3.5と4.0におけるフリーランスへの影響の違い
職種による違いも明確です。文章作成関連の職種は、AIによる代替効果を特に受けやすい傾向にあります。法律相談などのコンサルティング関連の職種も、ChatGPTの知識が増えるにつれて、同様の運命をたどる可能性があります。プログラミング関連の職種は現時点では恩恵を受けていますが、将来的にはAIに置き換えられる可能性も指摘されています。
一方で、プロジェクト管理や写真撮影など、人間同士のコミュニケーションや創造性を必要とする職種では、当面は生産性効果が続くと予測されています。これらの職種では、AIはあくまでも支援ツールとしての役割を果たすことになりそうです。