Project DIGITS実機も見てきた。NVIDIAのAI戦略をCES 2025展示で俯瞰する(西川善司)

テクノロジー AI
西川善司

テクニカルジャーナリスト。東京工芸大学特別講師。monoAI Technology顧問。IT技術、半導体技術、映像技術、ゲーム開発技術などを専門に取材を続ける。スポーツカー愛好家。

特集

CES 2025におけるNVIDIAブースは、「GeForce RTX 50シリーズを発表したばかり」ということもあり、会場は、なかなかの盛況ぶりであったように思う。

実際、今年のCESにおけるNVIDIA関連レポートはGeForce RTX 50シリーズにまつわる情報が中心だ。しかし、本稿では、あえて、NVIDIAのAI技術関連展示コーナーにスポットをあてたレポートをお届けすることにしたい。


■2017年以降、NVIDIAが、ウルトラハイエンド級GPUで一人勝ちな理由

NVIDIAといえば、今や、メインターゲットの顧客はAI事業者となっているのは、多くの人が知るところだろう。

しかし、それでも現在の民生向けGPU事業において、NVIDIAが、AMDやIntelを引き離せているのは、同じGPUチップのトップエンドモデルを、その出来映え(歩留まり)に応じて、GPUサーバ向け、GPGPU(AI)ユーザー向け、ワークステーション向け、ゲーミングGPUユーザー向けに売り分けることができるからだ。

どういうことか。

2017年のVolta世代以降、NVIDIAは、「金に糸目を付けない、超高性能GPU」を、GPUサーバユーザー、GPGPU(AI)ユーザーに向けて最優先に開発・提供する戦略へシフト。

この戦略が読み通りに成功したおかげで、そうした超々性能重視のGPUを、多大なコストで一度、製造・販売し、その経験を汲んで、トップダウン的に開発した二世代目GPUを、ワークステーション向けGPUユーザー、ゲーミングGPUユーザーに売り分けることができているのだ。

たとえば、今回も、GeForce RTX 50シリーズとして発表された「GB20x」チップは、先駆けて開発製造された、GPUサーバユーザー向け、GPGPU(AI)ユーザー向けのGPUである「GB100」のマイチェン(マイナーチェンジ)版である。

ちなみに、NVIDIA関係者によれば、GB100は1チップあたり3万ドルくらいで売れるそうなので、であれば、歩留まりが、少々、悪くとも、商売は成り立つのだろう。なにしろ、今回、発表されたGeForce RTX 5090(GB202)は2000ドル。15分の1の値段だ(笑)

思い返せば、今から10年前ほど前の2014年に、約3000ドルで発売された「GeForce GTX TITAN Z」が、当時のサーバ向けGPU、GPGPU用途GPU向けの製品を、GeForceブランドでトップダウン的に民生向けに製品化した「始まり」であった。これ以降、NVIDIAの「超ハイエンド級GPU」は、NVIDIAのAI事業とは深い関わりを持って開発され、市場に投入されるようになったのである。

▲各社からリリースされる予定のGeForce RTX 50シリーズ製品達。ブース内には、こうしたサードパーティ製のGeForce RTX 50シリーズ製品達が数多く展示されていた

■NVIDIAのAI技術関連展示コーナー

今回、CES 2025で発表されたGeForce RTX 50シリーズは、アーキテクチャ名(兼開発コードネーム)は「Blackwell」となっており、その由来は、確率論、ゲーム理論などで大きな実績を上げた統計学者兼数学者のアメリカのDavid Blackwell氏からとなる。

今回、民生向けGeForce RTX 50シリーズとして発表されたものは、その一般ユーザー向け民生版という位置づけとなり、GeForce RTX 5090(GB202)、GeForce RTX 5080/5070Ti(GB203)、GeForce RTX 5070(GB205)などがラインアップされている。

NVIDIAは、2024年に開催したGTC 2024にて、GPUサーバ向けGPUとして「B100」(開発コードネーム:GB100)を発表。

さらに、これを連結させた「B200」も発表した。

このB200を2基、そしてArmベースのGrace CPUを1ボードに収めたものを「GB200 Grace Blackwell Superchip」として構築した。なお、CPU部のGrcae CPUは、Arm Neoverse V2 アーキテクチャベースのもので、72コア構成となっている。

▲「GB200 Grace Blackwell Superchip」。後出のラックにはこの基板が36枚搭載されているイメージ。右のNVIDIAロゴ入りの2つのチップがそれぞれB200だ。中央がGrace CPU

この「GB200 Grace Blackwell Superchip」を36枚、ひとつのラックにまとめ上げたGPUスーパーコンピュータを「GB200 NVL72」として発表した。

会場には、この「NVIDIA GB200 NVL72」の実機が展示されていた。

▲GB200 NVL72の前面。36枚の「GB200 Grace Blackwell Superchip」が搭載される

▲GB200 NVL72の後ろ姿。垂れ下がっているのは電源供給や水冷配管に関連したもの

■話題の手のひらサイズスーパーコンピュータ「Project DIGITS」も展示

今回のCESでは、NVIDIAは、AIスーパーコンピュータがらみの製品として「NVIDIA Project DIGITS」を発表したことも話題となった。

「AIの実験&開発プラットフォームとしての卓上スーパーコンピュータ」とも言うべきもので、Blackwell世代のGPUとして「GB10」と20コアのGrace CPUが搭載されている。

二桁型番のGB10の理論性能値は、4ビット浮動小数点のFP4形式で1P(ペタ)FLOPSという。FP4の性能値は恐らく、Tensorコアによるものなので、その規模に見合うCUDAコアベースのGPUで考えると浮動小数点演算性能は10~12TFLOPS、Tensorコアの個数は50~60基前後、といったものになりそう(GB100からの逆算による概算)。

ボディサイズも手のひらサイズで小さく、NVIDIA自身も「電力効率を優先させたマシンである」とアピールしていることから、消費電力はかなり低く抑えられていそう。であれば、GPUの素性性能としては、GeForce RTX 50シリーズの中堅機を喰うほどではなさそうに思える。

価格が3000ドルとして発表されていて、なかなか高価なのは、やはり、128GBもの広帯域な統合型メモリ搭載しているからだろうか。このメモリ帯域に関しては、もしかすると、GeForce RTX 50シリーズの中堅機なみはあるのかもしれない。

AI研究開発者からは熱い視線が送られているマシンだけに発売が楽しみだ。

▲フロント。NVIDIA DGXっぽいデザインだが、物理サイズとしては手のひらサイズ

▲背面側。右側のコネクタはInfiniband端子?

▲「NVIDIA Project DIGITS」のメインプロセッサ。Blackwell世代GPUの「GB10」と、20コア仕様のGrace CPUを1パッケージにまとめたものである。なお、LPDDR5Xメモリはメインボード側に実装される


■「やるじゃないかお前」と励ましてくれるゲーム実況AIアシスタント

ブース来場者の笑いを誘っていたのは、GeForce RTX50シリーズ以外でも使える、ゲーム実況配信用のAIアシスタントのデモ。

こちら、ゲーム実況者であればお世話になっている人も多いと見られる、Streamlabsの次世代サービスコンセプトのデモで、同社のサーバに配信画面(ゲーム画面と実況者の顔表情)を入力させることで、そのゲームプレイを見て状況を認識し、AIアバター自らしゃべっての実況をしてくれたり、場を盛り上げる合いの手を入れたり、皮肉やジョークを言ってくれたりするサービスなのだ。

情けないプレイをすると「今のプレイはダサ過ぎるよ!」と言ってきたり、プレイ中のプレイヤーの表情を認識して「がんばれ」「やるじゃないかお前」と励ましてくれたりもする。

ちなみに、このサービスの気になる利用額を聞いてみたところ、担当者によれば「このサービスのどのくらいの部分をローカルで動かし、どのくらいの部分をサーバが受け持つかで、実行レスポンスの速さやサービスの利用額は変わってくる」のだそう。

たしかに、ゲームプレイが重くなるようなAIサービスは要らないし、かといってサーバ側にAI処理全般をオフロードしすぎて、反応が遅すぎる「合いの手」をしてもらっても場はしらけてしまうだろう。

まだ、β版相当だということなので、今後の進化に期待したい。

▲ゲーム実況配信を、AIアバターが盛り立ててくれるサービス「AI Powered Livestream Sidekick」

この他、ブース内では、今回新発表となった「物理AI」(Physical AI)フレームワーク「NVIDIA COSMOS」関連の展示が行われていた。

NVIDIA COSMOSとは、NVIDIAの「Omniverse」ベースのデジタルツインによるシミュレーション環境で育てたAIを、現実世界に実際に稼動作させるために、「現実世界の"リアル"な複雑さ」を教えるための、最後の調整を行うための「物理AI」(Physical AI)フェーズを司るフレームワークになる。

AIに基本的な倉庫内での作業を訓練させたとしても、実際の倉庫では、人間も動き回っているし、天気によっては倉庫内の明るさも違ってくるし、倉庫内が経年すれば床や棚も汚れてくる。現実世界は仮想世界のような「初期状態の理想状態」で留まっていない。その乖離を教育するのがNVIDIA COSMOSなのだ。

ブース内では、そのCOSMOS関連のデモや、これに強く関連した自動運転技術のプレゼンテーションが行われていた。

▲ブース内に数体のロボットがデモを実演。NVIDIAの物理AIシステム「Cosmos」に絡めたデモとなっていた

▲以前は、NVIDIA自身が自動運転技術のデモカーを開発、展示していたが、最近では、NVIDIA自身は、開発支援ツール、開発支援ハードウェアの提供をメインに行っている。なので会場内の展示車両は全て、実在の自動車メーカーや、サービス開発事業者のものであった

▲NVIDIAのデジタルツイン開発フレームワーク「Omniverse」が、ついにApple Vision Proへ対応したこともアピールされていた

《西川善司》

西川善司

テクニカルジャーナリスト。東京工芸大学特別講師。monoAI Technology顧問。IT技術、半導体技術、映像技術、ゲーム開発技術などを専門に取材を続ける。スポーツカー愛好家。

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