TikTokを運営するバイトダンス傘下のVR/XRベンチャーPICOが、軽量・一体型VR/XRヘッドセット「PICO 4」を発表した。128GB版が4万9000円、256GB版が5万9400円で発表当日の9月29日から受注を開始する。
円安の昨今だが、ユーロベースの価格やMeta Quest 2の値上げなどの背景を考えれば、かなりのバーゲンプライスと言えるだろう。
発表イベントではアンバサダーとなった峯岸みなみさんが参加し、実際にVRスポーツゲームをプレイ。U-NEXTやUUUMと提携してオリジナルコンテンツを制作するなど、発表会の内容も盛りだくさんだったが、デモ機を持ち帰ることができたので、数時間ながら使ってみて感じたインプレッションをお届けしたい。
なお筆者はMeta Quest 2ユーザー。他のVRヘッドセットも評価でいくつも試しているが、基本的にはMeta Quest 2との比較と捉えていただいて構わない。
”圧倒的な軽さ”と同時に味わう快適感
一体型VR/XRヘッドセットということで、採用SoCやディスプレイ解像度などスペック面が気になる方も多いかもしれないが、それよりもまずは開封から実際にセットアップする一連の流れの中、あるいは箱から取り出して製品に手を触れてみた時から、Meta Quest 2など既存VRヘッドセットとの違いを感じる。
発表会では軽さ(ストラップなしのマスク部だけで295g)やストラップ後端のバッテリーがカウンターウェイトとなることで装着時の負担を軽くするなどの工夫、パッドに使った汗に強い素材の快適性などが訴求されていたが、実は装着前からかなり良い感触を感じていた。
しかし、自宅でパッケージを開けてみると、大きな会場のデモ展示と自宅ではまるで感じ方が違う。小さいことはわかっていたものの、自宅ではさらに小さく感じる。Meta Quest 2との違いは極めて大きい。
パッド部はマグネットで本体に装着するタイプとなっており、これはメガネ用スペーサーでも同じ。Meta Quest 2のようにはめ込み式ではないため、素早くテキパキとつけ外しができる。パッドとヘッドセット前端の厚みは35.88mmしかなく、スペーサーをつけても出っ張りは気にならない。
パッド内部の造形も、メガネのテンプル部に余裕を持たせてあるため、メガネの幅が大きすぎなければテンプルが締め付けられることもない。FOV(視野角)も公称値で105度と広いこともあり、まず装着するまでの間に「緻密な作り」を感じさせられる。なお、遮光用ノーズパッドも標準添付されていた。
セットアップを始めると、実際に映像を見ながらIPD(瞳孔間距離)を調整することができた。Meta Quest 2のようなスライド式ではなく、細かく電動で調整し、最もシャープに見える設定を探すことができる。
さらに、ストラップそのものの質もよく、適切に装着すれば軽さによる慣性の小ささもあって実にズレにくい。方式としてはMeta Quest 2用のバッテリー内蔵エリートストラップによく似ているが、ストラップそのものがずっと柔軟性のある素材でできていることも大きいだろう。
ちなみにMeta Quest 2用エリートストラップはストラップ部の成型ムラもあって半年の間に3回も折損してしまい、使用を諦めたのだが、PICO 4のストラップは柔軟性のある素材を採用し、内側にゴム系の素材を合わせた作りで、多少ストレスがかかっても変形して力を逃がしてくれるようになっている。
酔わない!歩き回れる!メガネなしでも使える!
ここから先は、あくまでもインプレッションである。
コンパクトなパンケーキレンズを使った光学系だが、105度のFOVを確保しながらも、その画質はシャープで実に見やすかった。さらにJINSと提携して生産・流通させるという専用視度補正レンズ(発売はまだ少し先のようだ)を取り付けることも可能だという。
4320✕2160ドット (片目あたり2160✕2160ドット)という数字上のディスプレイ解像度もさることながら、ヘッドセットのズレにくさや適切なIPD設定など、トータルで良好な視野を提供してくれることに快適性を感じた。
なお、デフォルトのリフレッシュレートは72Hz。オプション設定で90Hzにも対応しているが、デフォルトのままでも応答性がよく、VR酔いにかなり弱い筆者でも長時間のレビューが苦にならなかった。あくまでも印象だが、頭の位置や方向に対する追従など、歩いて移動した場合の応答性が良いのではないだろうか。
さらに周囲の状況を取り込むカメラがMeta Quest 2よりも高精細な上、カラーになっているため、シースルーモードにすると普通に家の中を歩き回ることができる。
シースルーモードへの切り替えを簡素化するオプションを選ぶと、Quest 2のようにヘッドセットの右側を2回叩くだけでシースルーになる機能もある。例えばApple TV+へのログイン認証でiPhoneを見る必要があった時などは、シースルー機能で確認コードを見て入力できたため、わざわざヘッドセットを外す必要がなかった。
ということで、もちろん本機がコンパクトかつ軽量であることも快適性を高めている要因なのだが、一連の緻密な作りや使いやすさ、快適性への配慮などがトータルで快適体験を演出している。
低価格化のために工夫しているところもあるだろうが、低価格だからといって雑な作りにするのではなく、むしろ工夫を随所に凝らすことで相対的な体験価値を高めているという印象だ。
ただし、いくつか考慮しておくべき点もある。
多少の不満はあるがそれを補う快適さがある。課題はアプリか
内蔵スピーカーの音質は良好で、Meta Quest 2よりもワイドレンジ。仮想サラウンドの質は同等という印象だが、一方でイヤホン端子が省略されているため、BluetoothヘッドホンやUSB-C端子を使う必要がある。
音量調整ボタンもなく、操作パネルを出して調整しなければならなかった。
コントローラーはコンパクトで持ちやすく滑りにくいのだが、タッチセンサーなどには対応していない(訂正:当初非対応とのアナウンスがありましたが、実際には対応を確認できました。末尾の追記参照)。
左右ともにジョイスティック+2個づつのボタン+トリガー、サムボタンの組み合わせ。それ以外にセンサーがないため、コントローラーでアバターにアクションや表情を出すような操作は限られることになる(追記参照)。
またストラップホールがないため、激しくコントローラを振り回すゲームなどでは、どこかに飛んでいかないか少しばかり不安に感じることもありそうだ。
とはいえ、そうしたちょっとの不満は、軽量コンパクトかつメガネでも快適に使え、しかも価格が安い利点と比べれば小さなことかもしれない。
一方で、先行するMeta Quest 2に対し、対応アプリケーションをどう揃えていくかという点がこれからの課題になっていくはずだ。
例えばPrime VideoやNetflix、Apple TV+などの動画サービスは現時点で専用アプリがなく、代わりにブラウザへのリンクが登録されていた。提携が発表されているU-NEXTに関しても同様である(今後、アプリが開発されるという発表だった)。
ほぼ同じプラットフォームで動作するMeta Quest 2用アプリからの移植性はかなり高いと考えられるが、現時点で定番ソフトは揃い切っていない。このあたりはパートナーとの交渉を進めていると思われるが、やや不透明な部分だ。
また、東京ゲームショウでは日本のゲームベンダーとの提携なども発表されていたが、北米市場に参入していない不利をどう跳ね除けてアプリを増やしていくかが課題と言えるだろうか。
だが今後、北米市場への参入があれば、市場拡大を期待するゲーム開発者が一気に対応を進める可能性はある。MetaのVR製品がかなり高価になってしまったこともあり、上位モデルの投入も含めたハードウェアの整備とともに、対応コンテンツの整備は急務だ。
なお、今回のインプレッションは発表直後のものであるため、8GBの内蔵RAM(Meta Quest 2は6GB)が実際の機能や性能面でどう有利に働くかなどはまだわからない。さらにPCと接続し、Steam VRのディスプレイとして使った場合の体験に関してもまだ試していない点にご留意いただきたい。
追記:当初、PICOはSNSにて「コントローラのタッチセンサー非対応」と案内していましたが、実際にPC上のVR Chatと接続するとタッチセンサーが使えることが判明しました。
また音声に関してはBluetooth経由で音声デバイスが使えるほか、USB Type-Cからアナログ端子への変換アダプタにて音声が出力されたことも確認しております。
以上、訂正させていただきます。