空飛ぶクルマから8K立体映像、3Dプリント電動バイクまで。ドバイGITEX2022で見た10年後の未来(山根康宏)

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山根康宏

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香港在住携帯研究家

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特集

2022年10月10日~14日に中東最大のIT関連展示会「GITEX 2022」が開催された。コンシューマー向けというよりもエンタープライズ向けのイベントだが、中東でも大手の通信キャリア「Etisalat」のブースには数年後の我々の生活で実現されそうな新しい技術の展示が目白押しだった。ドバイでは人々が空を飛び、カメラ1つで遠隔医療を受けられる時代がすぐにやってくるかもしれない。

今や自動車メーカーの多くが自動運転技術に取り組んでいるが、道路に渋滞があるかぎり目的地へ早く着くことはできない。自動運転なら渋滞中でも車内で仕事をしたり映画を観たりと運転以外のことに集中できるが、予定時間に間に合わなければ本末転倒だ。

ならば混雑している道路を使わずに混んでいない空を飛べばいい、ということで展示されていたのが一人乗りの空飛ぶバイク「XTURISMO」だ。この手の製品の開発はアメリカや中国かと思いきや、なんとXTURISMOは日本の企業、A.L.I.Technologiesによる「製品」である。

▲一人で空を飛べるXTURISMO

XTURISMOのサイズは全長3.7メートル、全幅2.4メートル、全高1.5メートル。重量は300kgだ。バイクのタイヤの代わりに大きなプロペラを前後に2つ備えるが、これはガソリン駆動。そして周囲に4つある小型のプロペラは電動となる。馬力のあるガソリンエンジンで空中を滑降し、電気エンジンで方向を変えたり本体を安定化させたりするハイブリッド構造なのだ。またハンドル部分には運転者が自分のスマートフォンを装着して操作できる。夢のようなバイクだがすでに販売予約が受け付けられており、価格は7700万円。かなり高価だがオイルマネーが潤沢なドバイでは個人で所有したいと考える人も多そうだ。

▲2+4のハイブリッドプロペラ構造。最大40分、時速100kmで航行できる

空を飛ぶ乗り物では先輩格でもあるSkyDriveも実際のデモフライト機を展示。SkyDriveは日本の企業であることを知っている人も多いだろう。エアモビリティーでこのように日本の企業が存在感を示しているのは誇らしくもある。展示されていたのは2020年にデモフライトを行った「SD-03」で、同社は2025年に商用機「SD-05」をローンチ予定だ。エアモビリティーの普及には法令整備や飛行場所、騒音問題、そして本体価格と燃料代といった様々な障壁があるが、ドバイならばそれらはほぼクリアできる。SD-05も最初の顧客の中にドバイ政府や資産家が含まれるかもしれない。

▲SkyDriveのデモフライト機「SD-03」。3年後には商用機が登場予定

空飛ぶ車やバイクだけではなく、地上を走る自動車もガソリンから電気へ、そして自動運転へと進化が進められている。キャデラックは快適な走行と居住空間を備えた自動運転スポーツカーのコンセプトモデル「InnerSpace」を発表している。自動運転対応はもちろん、乗り込むときにはルーフ部分が上方に開く構造も特徴的だ。グッドイヤー製のタイヤは大豆油などを原料としサステナビリティーにも配慮。タイヤ内の音波の共鳴を緩和する「サウンドコンフォート」技術も採用されている。

▲キャデラックの「InnerSpace」

そして室内に入れば、そこは目の前の大画面のモニターが広がるリビングスペースとなる。もはやハンドルやアクセルはなく、座席に座った瞬間から様々なコンテンツを利用できる。もちろん前方の風景を映すことも可能だ。しかし新幹線に乗って前方の景色、あるいは車窓を見たいと思う人が今の時代どれだけいるだろうか? スポーツカーもいずれは車内に入ったらNetflixで映画を観たり、オンライン会議で仕事をしたり、そうしているうちに目的地まで高速に送り届けてくれる快適な移動空間に変わるだろう。

▲フロントガラスもハンドルもなく、前方にあるのは巨大なモニターのみだ

さて、ちょっとした移動の時には自転車やバイクがあったらいいなと思うことはないだろうか。オンラインで買うにも届くまでに数日かかってしまうし、週末に友人が来るからすぐに1台手配したいなんてときもあるだろう。だが数年後はバイクも自宅で作る時代がやってくるかもしれない。BigRepの「NERA」は3Dプリンターで組み立てる電動オートバイだ。

さすがにエンジンはプリントできないため別途入手する必要はあるが、それ以外のパーツすべて、つまりハンドルやフレーム、ボディー、シート、タイヤそしてサスペンションまでのすべてを大型3Dプリンターで印刷して組むことができる。しかもパーツはわずか15個だという。このアイデア自体は2018年に発表されたものだが、3Dプリンターの進化と共に「バイクや自転車を自宅で作る」時代が確実にやってくるだろう。

▲3Dプリンターで作る電動バイク「NERA」

ところでドバイでは自動運転の配送車のサービスも始まっているという。自走式配送車を開発するCLEVONが新たにドバイ警察に導入する「CLEVON 1」はドライバーにとって脅威になる存在だ。CLEVON 1は荷台部分を自在にカスタイマイズ可能な自走式配送車で、遠隔地のコントロールセンターから人間が走行をコントロールできる。将来は1人の運転手が遠隔地の10台の自走車を操作できるようになるという。

ドバイ警察はこのCLEVON 1の荷台にスピードメーターを搭載したカスタムモデルを今冬に導入する。そして人知れず高速道路などにこっそりと姿を現し、抜き打ちでスピード違反を取り締まるのである。ドライバーがCLEVON 1の存在に気が付いたときは時すでに遅く、ナンバープレートや速度情報がドバイ警察のクラウドに自動で保存され、後日違反金と罰則通知が送られてくるというわけだ。

▲スピード違反を無人で取り締まるドバイ警察の「CLEVON 1」

このように我々の生活に欠かせない「移動手段」だが、10年すれば次世代のものに置き換わることは確実だ。10キーのついた携帯電話がスマートフォンに駆逐されるとは誰もが思わなかった過去の例を見れば、個人が空を飛ぶことや自動車に乗っても自分では運転しないことが当たり前になる日は遠くないうちに実現されるだろう。

なお、Etisalatブースではモビリティと並び、人々が関心を持つ医療の未来も展示されていた。一番ワクワクさせてくれたのがカメラの前に立つだけで自分の身体全体をスキャンし、内部までをも3Dで表示してくれるというソリューション。

▲カメラ1つで身体をスキャンできる日がやってくる

もちろんこれはコンセプトであり実現への道のりはまだ遠い。だが10年もすればカメラの前に立ち360度回転するだけで身体中の血管や血の流れ、筋肉や臓器の悪い部分を3D表示で見つけられるようになるだろう。そうなれば会社や学校での健康診断も大々的に行う必要はなく、もしかすると自宅にカメラ1つあれば日々の健康状態を隅々までケアできるようになるかもしれない。

▲カメラの前で360度回るだけで、身体の中をスキャンして3D表示してくれるようになる

ほかにも超低遅延な5G回線を使った遠隔手術のデモも行われた。遠地にいる医者が脳の手術を行うというものだが、会場にいる医師が脳の模型の中でメスやピンセットを動かし、遠隔地の患者の脳を手術する様がデモンストレーションされた。5Gは通信速度ばかりが注目されているが、遠隔操作を苦もなくこなせる低遅延も大きな特徴だ。デモでは実際に手術装置を5G回線で接続、遅延なくメスを動かし細かい操作を行っていた。将来は難病の手術で専門医を訪問しなくとも、地域の大病院に入院すればいいのだ。

▲5Gの低遅延を生かした遠隔手術のデモ

このような手術の前にはMRIで脳や身体の断面を撮影する必要がある。その撮影した輪切りの写真を並べて見比べながら医師たちは患部の処置を検討するが、MRI画像から3Dの立体映像を作ることができればどのくらいの深さまでメスを入れればいいか、といったことも把握しやすくなる。しかし医療で使うには立体画像の表示も高い解像度が求められる。おそらく4Kでは足りず、8Kは必要だろう。

Holoxicaはそのような医療用の3D 8Kディスプレイをすでに開発している。一見すると普通のディスプレイだが、映像が浮かび上がって表示されており、左右からのぞき込むと立体的に見ることができる。ディスプレイは30インチ程度だが、その下には倍以上の大きさの巨大なGPU BOXが鎮座していた。さすがにかなりのマシンパワーを必要とするのだ。価格は数千万円クラスだろうが、このような3Dディスプレイもいずれ誰もが普通に使える時代がくることを予感させてくれる。

▲下に見えるのが8K 3Dディスプレイ。この下に巨大なGPUボックスがある

写真から映像へ、そして立体映像へというコンテンツのリッチ化はメタバースの普及とともにさらに広がっていくだろう。そしていずれはメガネをかけずとも目の前に立体映像が浮かび上がるホログラムが当たり前のものになるだろう。とはいえ現在の技術ではホログラムに必要とされるデータ量はテラどころかペンタバイトクラスになりそうだ。

そうなるとホログラムはまだまだ実用への道のりは遠いように思えるが、立体で動くものを見せる技術は意外にもすでに使われていることをご存じだろうか? LEDをファンのように回して映像を表示することで疑似的なホログラム表示として使える装置がある。もしかするとメタバースの普及とともにこれからこういった機器の利用が進むかもしれない。なお、現在開催中のCEATEC 2022でも京セラが空中表示ディスプレイを展示するなど、グラス不要で空間に映像を表示する技術はこれから注目したいところだ。

▲LEDをファンのように回転させて映像を表示する装置

GITEX 2022では他にも様々な未来の展示を見ることができたが、Etisalatブースに行くだけで「10年後の未来」を感じることができた。来年はどんな新しい技術の展示が行われるのか、今から楽しみである。


空飛ぶクルマ (電動航空機がもたらすMaaS革命)
¥2,420
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
《山根康宏》
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