第10世代 iPad 先行レビュー。これぞ新時代のスタンダードとなる存在(本田雅一)

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本田雅一

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ジャーナリスト/コラムニスト

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ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析。

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第10世代iPadが発表され、2018年のiPad Proにはじまる一連の外観に近いデザインへ(やっと)刷新された。Appleは後継製品を長年にわたって同じ価格にとどめつつ、刷新によって性能や機能を洗練させていく戦略をとっていたが、今回はドルベースでの価格も120ドルの値上げとなり、さらに円安も重なって日本での価格は先代モデルに比べ、およそ1.5倍とかなり大きな値上げになってしまっている。

つまり第10世代iPadは第9世代 iPadの後継モデルではなく、正確には機能やデザインを見直した新しい上位モデルと言えるだろう。ドルベースでも価格は変更されていない第9世代は教育、あるいは業務むけ端末として残し、個人向けのエントリーモデルとして、新しく定義したのが第10世代iPadと考えて良さそうだ。

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2018年iPad Proの延長にある初めてのベーシック機

第10世代iPadは新しいデザイン言語を採用した見た目だけが特徴ではなく、さまざまな面で2018年登場のiPad Proが持つエッセンスを取り込んでいる。

新しいMagic Keyboard Folioはキータッチの良さやトラックパッドの装備という長所を引き継ぎつつ、より低コストにノートPCライクな操作性をもたらしてくれる。横画面を前提としたセンターステージ機能付きフロントカメラの配置は、自然な目線でのビデオ会議に役立つだろう。このカメラ配置はiPadシリーズ初の変更で、今後の設計変更時には他のモデルにも引き継がれていくはずだ。

▲正面から見て右側の長辺(スタンドを立てると上側)にカメラ、マイク、輝度センサーが並んでいる

第10世代iPadに第9世代と同等の価格を求めていた向きには、かなり高い価格と感じるかもしれないが、全体を見渡せば依然として魅力的な価格ではないだろうか。なにしろほんの数か月前まで現行品として販売されていた、第4世代iPad Airと同じSoCを搭載しているのだ。

スペック的に見れば、M1に切り替わった第5世代iPad Airではなくこの第10世代iPadでもいいのでは? と思い始めている方もいるのではないだろうか。筆者自身、テキストの原稿や写真のハンドリングだけならば、M1が必要だとは感じない。たとえRAW現像などの作業を伴うとしてもだ。

そうした意味では、搭載するSoCが同じ第4世代iPad Airを買い損ねた、あるいはM1搭載の第5世代iPad Airとの性能差は承知の上で価格を睨みながら比較したいという方も多いのかもしれない。

しかし結論から言えば、第10世代iPadはiPad Airシリーズとは全く別の位置付けにある製品である。iPad AirはiPad Pro並みのクリエイティブな機能、パフォーマンスを、本当に必要な機能、性能を選んで削ぎ落とした製品だった。一方で第10世代iPadはその延長線上にあるものの「Appleが設定する現代のiPadのベースライン」を設定したものだからだ。

もし動画編集や本格的なイラストデザインなどを行わないのであれば、こちらで十分という人は多いと思う。

1番違いを感じる部分は……

ところで第10世代iPadの情報を知って、おもわず対応Apple Pencilが「なんで第1世代??」と驚いている方もいるだろう。あれだけ小型のiPad miniでさえ、第2世代のApple Pencilをマグネットで装着、充電できるというのに……。

この点については後述するが、四六時中、Apple Pencilを使っているイラストレーターさんなどを別にすると、iPad Air、Proに慣れている方が第10世代iPadを使い始めて最初に大きな違いを感じるのはおそらく液晶画面の品質だ。

▲左が第10世代iPad、右がiPad Air。画面サイズや解像度、最大輝度は同じだが表面仕上げや構造が異なり、結果としてコントラストなど表示品位には違いがある

第10世代iPadと第5世代iPad Airは、数字上のスペックを見ると画面サイズ、解像度、輝度は全く同じで、HDR表示に非対応の輝度500nitsという点も同じである。異なる点は色再現域がsRGBかDisplay-P3かのみで、これは鮮やかな色の表現力の違いとなる。例えばウェブで情報を見ているだけだったり、写真や動画の画質をさほど気にかけていなかったりするのであれば、日常的に違いを感じることはないはずだ。写真や動画にこだわる場合でも、すべての場面で違いが感じられるわけではない。

ではどこに「1番の違いを感じるか」。それは、もっと物理的、光学的な見え味の部分になる。第10世代iPadのディスプレイには低反射コーティングがされておらず、またフルラミネーションで組み立てられていない。前者はその名の通り映り込みを低減させるコーティングで、後者はディスプレイの部品構成違いだ。

Appleの低反射コーティングは優秀で、かなり幅広い周波数範囲の光を減衰してくれる。もちろん完璧ではないがその違いは歴然で、写真で撮影してどう見えるかよりも、実際に並べてみるとその違いは大きい。

▲低反射コートの有無で天井の写り込みが違うことが写真からもわかるだろう。第10世代iPad(左)と第5世代iPad Air(右)

フルラミネーションとは、液晶パネルから表面の保護ガラスまでを一つの部品としてあらかじめ接着してから組み立てること。間に空気の層が入らないため、内面反射によるコントラストの低下が起きず、鮮やかかつ明瞭な表示に期待できる。両モデルの色再現域の違いは、この工程の違いに起因するものかもしれない。

ただ、体験としてとらえたとき、この2つの違いはスペック上の違いよりもずっと大きい。また、フルラミネーションではないことの影響はApple Pencil使用時にも関係してくる。保護ガラス面と液晶面に距離があるため、視差が大きくなり細かな描画で違和感を覚えやすいからだ。

なお、これらディスプレイに関する部分は第9世代と同様であり、改悪されているわけではない。

キーボードを主とした作業には不満なし

一方、ディスプレイの品質や構造を除けば、それ以外のほとんどの体験は上位のiPadと遜色がない。とりわけ搭載SoCのA14 Bionicは、機械学習処理専用プロセッサのNeural Engineが大幅に高性能化(第9世代iPadのA13 Bionicに比べ80%高性能)されている。

iPadOS 16では機械学習処理を用いた機能が多数搭載されており、動画や静止画からの文字抽出「Live Text」や、URLなどの文字をその場で手書き入力できる「スクリブル」、簡単なタッチ操作で画像から被写体を切り抜く「ビジュアルルックアップ」など、さまざまな場面でNeural Engineが活用されている。今後もこの路線は継続されるであろうことを考えれば、A14 Bionicであることの意味は大きい。

このほかCPUやGPUは、文書作成や写真のレタッチ、プレゼンテーション、ウェブブラウジングなどで不満に感じることはまずない。そもそも、モバイルパソコン的な視点で言えば、現在主流のモバイルPCに匹敵する性能はある。

ここ数年で大幅にキーボードとトラックパッドを用いた操作、日本語入力機能の振る舞いなどが洗練され、キーボードを主とした作業に関しては、上位iPadとの違いはほとんど感じられない。

▲第10世代iPad(左)と第5世代iPad Air(右)。背面にあったキーボードとの接続端子がなくなっている(アンテナの切り欠きがiPad AirにないのはWiFiモデルのため)
▲キーボードとの接続端子は側面に移動している。このためキーボードアクセサリの互換性はiPad Air/Proとはない

Magic Keyboard Folioには賛否両論あるかもしれないが、スタンド部とキーボード部を分割することで、高コストかつ重くなる一因だったヒンジ部の構造がシンプルになり、キーボードとトラックパッドの操作性はそのままに、購入しやすい価格になったことは歓迎したい。またキーボードを外してスタンド単独で使える点もプラスと言えるだろう。

▲Magic Keyboard Folio(左)とMagic Keyboard(右)とで必要な奥行きの違い。スタンド分だけ後ろに伸びてしまうのがやや弱点

ただしキーボードとiPad本体はソフトな結合で緩く、ノートPCのような剛性感は当然、期待できない。またMicrosoftのSurface Proなどとも同様だが、キーボードとスタンドの両方に奥行きが必要になるため、膝の上で使いたい場合にはやや窮屈に感じる。

▲国内線のエコノミーで広げてみるとこのような感じ

キーボードのマグネットはキーボード部を持ち上げても本体が落ちない程度に強力だが、少し捻る形で力が加わると簡単に外れる。もちろん、そうした意図での設計だろうが実際に使う場合には脱落に注意したい。

▲Magic Keyboard Folio(左)とMagic Keyboard(右)とで重量差はあるものの、さほど大きなものではない

iPadOS 16、その先のための”ベースライン引き上げ”

▲Magic Keyboard Folioはクラムシェル型ノートPCに近い安定感は得られないものの、キーボードレイアウトには余裕があるためトラックパッドサイズが大きく、またファンクションキーが備わるなどの長所もある

前述したように、第10世代iPadは従来機そのままの後継機ではない。基本モデルという意味では、iPadというジャンルの基本を定めたモデルだが、教育向けあるいは業務用の端末としては引き続き第9世代iPadが活躍するだろう。

では第10世代iPadにはどのような意味があるのか。

最初はネットコンテンツの閲覧とちょっとしたテキスト入力での応答が主目的だったiPadだが、その後、機能を拡張して文書作成や写真修正、音楽制作、あるいは動画編集といった領域に広げ、2018年発売のiPad Proが登場してからはプロフェッショナルクリエイター向けのツールとしての側面を強めてきた。

そうしたクリエイティブな側面を持つiPadを形作るために、アップルはiOSからiPadOSを分離し、iPadのみの機能を付与するようになった。そうした一連の流れの中での基本モデルとして、さまざまな要素を刷新して第10世代iPadを定めたというのが率直な感想だ。

Magic Keyboardも構造を変え、購入しやすい価格で用意したことにより、iPadでモバイル環境での文書処理をやってみたいという人は増えるだろう。

ディスプレイなど低コスト化している部分がある一方で、第10世代iPadはよりパーソナルなイメージの4色展開となっており、A14 BionicによってiPadOS 16が提供する機械学習処理を用いた機能もより的確、かつ快適に動作する。USB Type-Cポートを採用したことで、さまざまな業界標準のペリフェラルが利用できる点も見逃せない。ストレージデバイスや一眼カメラ、外部ディスプレイが接続可能になる。

iPadOS 16の新機能であるステージマネージャこそ動作しない、Apple Pencilの対応が第1世代のみであることは上位モデルとの違いだが、言い換えればApple Pencilが第1世代で構わない、あるいは第1世代のApple Pencilを所有しているのであれば気にならない部分ではある。

長期的な戦略に立ち返ってみると、第10世代iPadは、2018年のiPad Proから始まったiPadシリーズ全体の刷新をここで完了させたと捉えることもできる。今後、個人向けiPadの中心的な役割を果たす、真のヒットモデル(シリーズ全体で最も多くの数が売れるモデル)になるはずだ。そう、iPhone SEやApple Watch SEのような、実力派ベースモデルの位置付けと考えるなら、今後、第10世代iPadがこのジャンルの市場における中心となっていくことだろう。


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《本田雅一》
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