米国医師会が発行するオープンアクセスの医学雑誌JAMA Network Openに掲載された新しい研究では、定期的にテレビゲームをプレイする子どもは、まったくゲームをしない子どもに比べて、いくつかの認知能力テストで高い成績を示したと報告されています。
テレビゲームをプレイすることは、一般的には子どもの心身の発達にあまり良い影響を及ぼさないと考えられていますが、それを裏付けるようなエビデンスはほとんどありません。むしろ最近では、デジタルな画面を見ている時間が子どもに与える影響はもっと複雑で、さまざまな面があることがわかってきています。
2019年におこなれたオックスフォード大学の研究では、ティーンエイジャーの精神的な面においてスクリーンタイムの長短は特に影響を及ぼさないことが報告されました。そしてその後同じ研究チームによる追跡調査では、テレビゲームをプレイすることが、ポジティブな幸福感との間にわずかな相関がみられることが報告されています。さらに、欧州の研究チームによる最近の報告では、テレビゲームをプレイすることで子どもの知能が向上する可能性があることが記されています。
今回の研究では、「思春期脳認知発達(ABCD)研究」と呼ばれる現在進行中の大規模プロジェクトのデータをもとに、9~10歳の約2000人の子どもを対象にテレビゲームをプレイしている子どもたちへの認知および神経生物学的影響を調べました。なお、対象となる子どもたちのうち、約800人が1日に3時間以上ゲームをプレイし、のこりはまったく、またはほとんどゲームをプレイしません。
この子どもたちに対して認知能力を調べるテストを行ったところ、衝動制御とワーキングメモリーの評価において、ゲームをプレイする子どもたちの方が、そうでない子どもたちよりも良い成績を残したとのことです。さらにABCD研究において、参加者全員のfMRI脳画像を取得したところ、ゲームをする子どもたちは、注意力と記憶に関する領域の神経活動がより活発になっていることが明らかになりました。
研究を率いるバーモント大学のBader Chaarani博士は、この結果について「ゲームを定期的にプレイすることが、優れたパフォーマンスを引き起こしたのかどうかはわからない」としつつ、「これは心強い発見であり、思春期や若年成人期に移行していく時期の、これらの子どもたちについて、引き続き調査していく必要があることを示している」と述べています。
ただ、研究者たちは一概に子どもたちにゲームをすれば必ず良い結果が出るという結論を出すことはできないとし、研究に付随する注意点がたくさんあると述べています。そして、今回の研究で得られた知見は、子どもたちが毎日何時間もゲームをすれば、その認知能力が飛躍的に向上することを意味するわけではないことを強調しました。
今回の研究ではゲームのジャンルは特に調べていないため、たとえばFPSゲームであったり、RPGだったりパズルゲームといったまったくスタイルの異なるゲームのどれが効果的なのかも不明なままです。ただ、Chaarani博士が示すのは、テレビゲームをプレイする時間が長かろうが短かろうが、それが原因で大きな認知的な弊害が発生することはないということです。そして博士は、少なくともテレビを長時間視聴し続けるよりもゲームをプレイするほうがましだと推測しています。
この調査にデータを提供したABCD研究は、1万人以上の若者を対象に、大人になるまでの過程を追跡調査しています。そのため今回、分析対称とした特定の集団については、今後数年間にわたって継続的に調査を行い、ゲームをする子どもとそうでない子どもの認知能力の違いが拡がっていくか、収束していくかを調べていく予定にしているとのことです。